一般的に台風は日本から遠く離れた南の海上で発生し、屋外で猛威を振るうものですが、自衛隊の「台風」はすぐ近くで発生し、屋内で猛威を振るうそうです。隊員なら必ず1回は経験する自衛隊名物の「台風」とは?

班長たちも腰痛めながら頑張ってます!

 夏といえば台風シーズン。家庭では備蓄の見直しや家の修理箇所の確認などが必要になってきますが、海上自衛隊の学校や教育隊などでは、「台風」というと、ひとつの恒例行事のようなものだそう。

 というより、毎日が「台風」シーズンだという海上自衛隊の教育隊、一体どんなところなのでしょうか。私は、夫のやこさんが一時期、教育隊で班長を務めていたことから、当時、台風の話をよく聞かされました。


入隊予定者に対して隊舎の説明を行う海上自衛隊横須賀教育隊の要員。ベッドの上にきれいに畳まれた毛布やシーツが置かれている(画像:自衛隊東京地方協力本部)

 そもそも、教育隊は学生たちが集団生活をし、自衛官としての基礎や体力を身につける最初の所属先です。

 教育隊に入った学生がまず教わるのは、アイロンや階級章を縫い付ける裁縫、そしてベッドメイクです。ベッドはシワひとつなくシーツを張り、毛布はバウムクーヘンのように畳まなければなりません。それまで布団など畳むことなく暮らしていたであろう彼らが、いきなりホテルレベルのベッドメイキングを求められるのです。

 艦艇生活は危険と隣り合わせのため、隅々まで神経を行き渡らせることが大切なのだそうですが、朝の慌ただしい時間に細かなベッドメイクをするため、少し乱れてしまうこともあるようです。

 そんな時に起こるのが教育隊の「台風」。学生たちが不在の間に班長が部屋を見回り、乱れたベッドを中心に部屋の中をメチャクチャに荒らしてしまうのです。なんという理不尽。これをやる班長たちもそろそろ体にガタがくるお年頃なので、ぎっくり腰や肉離れの恐怖と戦いながらの台風です。誰がやり始めたんだコレ……。

 各自がそれぞれの立場で戦わなければならないこのイベント、かつてはベッドを外に放り投げることもあったそうですが、最近では物を大切にする考えから室内でのみ執り行われるそうです。

 どうにも理不尽の塊のように思えますが、ネットで検索すると学生たちがメチャクチャになった部屋で、笑顔で記念撮影をしていることもあるので、思い出の1ページとしても機能しているのかもしれません。