キングオブコントの男女コンビ「パーパー」が魅せる恋愛ネタの歪み - 松田健次

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※この記事は2018年02月15日にBLOGOSで公開されたものです


笑いの記憶を少しだけ巻き戻す。昨年10月に放送された「キングオブコント2017」に登場した男女コンビ、パーパーを覚えているだろうか。かまいたちが優勝し、にゃんこスターが優勝を上回る時運を引き寄せたあの番組で、ネタを一本披露して10組中9位に沈んだ男女コンビだ。

男女コンビということで括れば、にゃんこスターは光を浴び、パーパーは影となった。

このときパーパーが披露したコントは、卒業式の日、非モテ男子(ほしのディスコ)が誰とでもいいからキスしたいと、女子(山田愛奈)に無茶な交渉をする・・・という内容だった。異性への思いがこじれた男子とオフビートな女子、独特のおかしみをにじませてはいたが、猛者が集うコンテストを勝ち抜く笑いを喚起できずに敗退した。

キングオブコントからは見違える完成度の高いコントを披露

その20日後、パーパーは「ネタパレ」(フジテレビ)に登場した。キングオブコントで沈んでしまった新進の男女コンビ・・・という印象を抱きながら彼らのネタを見た。そこで撃ち抜かれた。キングオブコントで見せたコントとは見違えるような、完成度の高い傑作に惹き込まれた。別の芸人が現れたかのようだった。

ああ、このコンビの本ツボはこれだったのか・・・と魅了された。パーパーへの印象は一気に書き換えられた。こっちのネタをキングオブコントで繰り出していたら、何かが変わっていたかもしれない。2017年に観たコントで私的にベストワンを選ぶなら、にゃんこスターの「リズムなわとび」とパーパーがここで披露した「ペアリング」の2本。

幾たび見てもハッピーに笑えるにゃんこスター、幾たび見てもアンハッピーに苦笑いとなるパーパー。芸風は異なるが中毒性の高さは甲乙つけがたい。

「男女の歪み」に踏み込む恋愛ネタで垣間見るリアル

ちなみにこのときの「ネタパレ」には、にゃんこスターも登場し、キングオブコントからの凱旋扱いでネタを披露していた。パーパーは図らずもまた影に追いやられた。この時期なにしろ、にゃんこスターのブレイク波が強過ぎたので、パーパーへの興味も光及ばぬ海底にいったん潜航。にゃんこが年末年始の山も越え、メジャータレントの枠に常温で収まった様子なので、そろそろサルベージしておく。パーパーは要注意だ。

彼らのコントの基本フォーマットは「ペアリング」に概ね詰まっている。さほど美人でもない女子にさほどイケてない男子が振り回される不条理。肩に手を置けるほどの距離にありそうな男女の歪み。その歪みにすら、すがりつかないと居場所を失ってしまい、戻りたくない闇に逆戻りしそうな不安に襲われる。パーパーのコント、笑いながら笑ってられないリアルをちらつかせる。

恋愛というリアルが連峰となって眼前にそびえる。必携の登山具のように掌に持ったスマホの奴隷となり、登頂ルートに巧妙に配されたアイドルやエロ動画や風俗が提供する安らぎに搾取され、幸運にもようやく辿り着いた現実の異性。しかし、その異性も自分自身も恋愛登山に疲労蓄積でバランスを失し、すでに立っているだけで精一杯だったりする。二人の頭上に雪が落ちてくる。雪が美しいのは降りはじめのみ。降りやまない雪に程なく息苦しい閉塞感を覚える・・・。

この閉塞感が時代を覆いながらパーパーのコントにリンクする。現在、笑いの男女コンビは百花繚乱。しかし、男女の恋愛をネタにしてこの「閉塞歪みゾーン」に踏み込んできたコンビは思い浮かばない。

ここで改めてパーパーの二人を眺めると、山田愛奈の仏像系顔面は閉塞的で、ほしのディスコのピカソ系顔面は歪んでいる。二人の見た目がパーパーの世界観の入り口にもなっていたと納得する。

彼らに現代を感じる要素の多くは山田愛奈・・・2018年より改名して「あいなぷぅ」にある。現在24歳、元々声優志望で、お笑い芸人になりたかったわけでなく、狩野英孝に会いたくてマセキ芸能社に入ったという。芸人でいることに執着がないため、お笑い一筋のほしのディスコが何かと依願する形でコンビが続いている。

<2018年1月10日放送 「冗談手帖」(BSフジ)>
ほしの「(山田は)お笑いに今もちょっと興味が無くて、キングオブコントも僕らが決勝行くまで、(過去の放送を)ほとんど観てなかったんで。ホントなんか僕が芸人として頑張って(山田は)役者というか女優みたいな感じで、そういう感覚でやってます」

鈴木おさむ「(山田に)あー、どうですかやってみて、今この状況までやってみて」

山田「なんかトントン拍子に来すぎてて、ちょっと不気味ですね」

鈴木「何年目、いま?」

ほしの「結成4年目ですね」

鈴木「ああ早いね、早いですね。(山田に)やってて楽しいですか?」

山田「あ、うーん、コントは楽しくないです」

鈴木「楽しくないの?」

ほしの「(山田は)やる気はゼロなんで」

山田 「コントはぜんぜん楽しくないです」

この、腰かけ感・・・。結成4年でキングオブコントのファイナリストになり、地上波番組でネタを披露し、先日は「オールナイトニッポンR」(ニッポン放送)の単独パーソナリテイーも務めていた。ウケたい、売れたい、と渇望しながらもがいている若手芸人達から見れば、あいなぷぅの腰かけ感は腹立たしくてたまらないだろう。

ちなみに、あいなぷぅの芸能界での目標は大好きな「名探偵コナン」に声優で出演することだという。(どうしたら自分がコナン君の彼女になれるか、そんなアイデアをラジオではコーナー募集していた。脱力。)

ネタはほしのディスコが全創作。あいなぷぅはライブ当日に台本を渡されて2時間ぐらいでネタを覚え、本番で演じ、舞台が終わるとすぐに忘れるという。このコンビ、笑いに対する温度差もそうだが、二人の距離感も離れ切っている。普段はまったく会話もしない仲だと公言する。

<2018年2月10日放送 「パーパーのオールナイトニッポンR」(ニッポン放送)>
ほしの「僕たち仲、なんでこんなに悪くなっちゃったか気になってる人も多いと思うんですけど、距離を取ろうってなったのは、あいなぷぅからだと思うんですよ。キッカケはなんだったんですか?」

あいなぷぅ「それはディスコさんがちょっと他の芸人さんの悪口を言ってる場面を見てしまって、こいつ嫌なやつだなって思ったのがキッカケです」

ほしの「なるほど、あのう、深い処のね。本質の部分が合わなかったってことなんですね」

あいなぷぅ「深夜(のラジオ)なんでね」

ほしの「深夜に合わせなくていいですよ」

あいなぷぅ「テレビだったらね、もっと軽く、『生理的に無理です』なんてするんですけど」

嫌いになった理由を相方に言われて、「おい!」とツッコまず「なるほど」と受け止める。これがパーパーの関係性なのだ。もし、ほしのが「おいこら!」と踏み込んで、その加減を誤るとあいなぷぅがコンビを辞めてしまうかもしれない・・・そんな脆さで二人はかろうじて繋がっている。この危うい関係性がコントの空気に活かされていたりする。

パーパーの到達点を感じるネタ「ペアリング」

そうして創られたネタ、「ペアリング」。他のネタも幾つか見たが、この「ペアリング」に現時点でのパーパーの到達点を感じる。

<2017年10月21日放送 「ネタパレ」(フジテレビ)>
SE(効果音) 波の音

~白いブラウス、グレーのスカート、ショートソックスに黒のローファーの山田愛奈が独白~

山田 「この海でケンジ君に告白されたんだよね。ケンジ君にもらった大切なペアリング、もう必要ないよね。(指からリングを抜き取って海へと投げる) ・・・ケンジ君今までありがとう」

ほしの「(駆けつける)えりちゃん」

山田 「ケンジ君」

ほしの「えりちゃんゴメン、僕やっぱりえりちゃんのこと好きなんだ。ボクともう一回やり直そう」

山田 「ありがとう・・・、私、大切なペアリング、海に捨てちゃったの。私、今から取ってくる。(海へ向かおうとする)」

ほしの「行かないで、そんな、夜の海なんか入ったら危ないから。(自分のリングを見て)もう、大丈夫だから。(指輪をつけてる右手を左手で覆う)」

山田 「ケンジ君、指輪取ってきてくれる?」

ほしの「・・・・・・・・・・・・・。ちょっと波の音がうるさくて聞き取れませんでした。え、なんですか?」

山田 「私、指輪がないと、やり直せない。ケンジ君お願い」

ほしの「あの、たぶん指輪を取りに行ったら、おそらく僕も一緒に、指輪と海の底に沈んじゃうと思うんで、ンンン、新しいの買いましょう!ンンン」

山田 「あの指輪じゃないと嫌なの。あの指輪はケンジ君ががんばってお金をためてプレゼントしてくれた、思い出が詰まった指輪だから」

ほしの「あの、こんなタイミングで発表することになったのは残念なんですけど、言ってなかったけど、この指輪、2つで900円だったんで、価値がないです、ンンン。なので、450円の指輪ひとつのために命は賭けられません。すみません」

山田 「(ケンジの右手をつかむ)」

ほしの「あ、ちょっと、痛い」

山田 「(かなり強引に指輪を抜き取る)」

ほしの「痛い、痛い」

山田 「(指輪を海に投げる) ・・・・・じゃあ、2つなら探しに行けるよね」

ほしの「(困惑顔)あの、個数の問題じゃないんで。今のただ、僕が海に沈むリスクがハネ上がっただけなんで、ンンン」

山田 「ケンジ君、あの指輪をずっと付けてたら、いつかは結婚指輪と交換してくれるって言ってたから。だから、あの指輪じゃないとダメなのに(泣)」

ほしの「えりちゃん、今から、海の底に指輪探しに行って来ます。ンンン、もしかしたら、このミッションによっては、これが最後の会話になるかもしれません。あ、でも、先ほどのえりちゃんの指輪の強奪によって、今、右肩を脱臼しかけているので、ンンン、状況はさらに厳しくなりましたが必ず指輪を探し出します。じゃあ、えりちゃん、またね(海へ、ハケる)」

山田「ケンジくーん!」

SE(効果音) 波の音

ほしの「(戻って来る)」

山田 「ケンジ君、どうしたの?」

ほしの「クラゲに刺されて帰ってきました、ンンン」

言わずもがなだが書き起こしはひとつのキッカケであり、これからパーパーを見る機会があればぜひその上で彼らの笑いを思い巡らしてもらいたい。と思いきや、来月3月に開催される初単独ライブ「ほいほいはひふへほ」は追加公演も含めて5公演すでに前売完売だ。

腰かけでも単独ライブはやる、しかも完売。ラジオでトークしていたが、タイトルの「ほいほいはひふへほ」だけあいなぷぅが考えたそうだ。そういうライブだ。あと、あいなぷぅは「カレー食べれない」そうだ。そんな人もいるんだ。「考えるな、感じろ」対応するしかない。

腰かけて腰かけて回り回って、彼女が女優で存在感を発揮する日が来ても驚かない準備をしておきたい。