「裏オプを誘ってくる客もいましたが、断りました」JKビジネスの店舗での勤務経験を持つ1人の女子高生の証言 - 渋井哲也
※この記事は2018年02月06日にBLOGOSで公開されたものです
女子高生であることをセールスポイントにしてに、男性客らに対して接客を行う「JKビジネス」を規制する東京都の条例が昨年7月1日に施行されて、半年が過ぎた。しかし、その後もJKビジネスを巡って、逮捕者が出ている。
報道されているケースでは、条例違反だけでなく、児童買春や児童福祉法違反(淫行させる行為)などの摘発もある。JKビジネスで働く(あるいは、働いていた)女子高生を取材していると、通信制高校に通う生徒だったり、高校中退者も多かった。中退でも、高校3年生の年齢であれば、「18歳」をうりにする店舗も存在する。
そんな中、特に家庭環境に問題があるわけでもなく、進学校に通っている梨枝(仮名、17)も一時期、JKビジネスで働いていた。
働いていたのは秋葉原のJKコミュ
梨枝が働いていたのは、秋葉原のコミュニケーションルームだった。部室のような空間で、机ごしに男性客と話をする。飲食の提供はない。ただ、男性が店舗に行く前に、外の飲食店で食べ物を購入し、持ち込むのが通常のサービスだ。話を聞いていると、筆者も一度だけ行ったことがある店舗だった。
秋葉原の一角には、JKビジネスやメイドカフェなどで働いている女性たちが路上で店の宣伝を行っている場所がある。そこに梨枝も立っていた。筆者が行ったときにも、そこで立っていた女子高生から声をかけられ、ついて行った。飲食の提供はないというので、飲み物などは近くにあるファストフード店で買っていたのを記憶している。店の中は、机と椅子があるだけで、学校の教室か部室をイメージさせる。筆者が利用したときもそこに座って話をしただけだった。
梨枝は高校1年生の11月から1月中旬まで働いたという。この頃はすでに「JKビジネスは、性犯罪被害の温床」といった情報が流れている時期だった。しかし、梨枝はそうした情報に触れることはなかった。ツイッターで、店舗のアカウントを見つけ、友達と一緒に面接に行くと、新しい店舗だったこともあり、即採用が決まった。
「店内は明るいです。白を基調したもので、子どもがいる場所をイメージさせています。目的はお金ではないですね。友達に誘われて、面白そうだったんです」
男性客との話は、楽しかったという。友達感覚であり、最高齢は70歳がおり、男子高校生が来たこともあったという。月に一回は女性客を相手にしたこともあった。
「アニメや漫画が趣味なので、そうした話をしたり、恋愛相談に乗ったりしました。70歳の方の場合は、孫の話をしていました。話すのが苦手なお客さんが多かったのですが、どん底だった人の体験談も聞けたり、いろんな話をすることで、人見知りしなくなりました」
働いて変わった男性へのイメージ
梨枝は男性と話すのが苦手だった。中学のときはクラス内の立場がよくなかったため、馴染めていなかった。卒業式のときに、嫌がらせを告白されたが、いじめを自覚したことはなかった。ものがなくなったことはあったというが、自分の注意力不足の問題だと思っていた。
「にぶいんでしょうかね」
高校は地元から離れた女子校に通っている。男子が苦手というのも、学校選択の理由だった。中学時代の男子のイメージは「いじわる」「暴力的」というものだった。そんな梨奈だが、JKビジネス店で働いたことで、男性へのイメージが変わっていった。
「高校は休憩期間かな?と思っていたんです。でも、お店で働いて、男子への先入観がなくなりました」
では、美奈にとって通常のアルバイトとの違いは何か。
「アルバイトは労働力って感じです。私でなくてもいい。でも、この仕事はモチベーションがあがります。なぜがというと、指名されるのは、“私”だから。バイトに行かなきゃ、という気持ちになりました」
必要とされる感覚は、通常のアルバイトよりも自尊感情を抱けるのだろう。男性客らがどのように見ているのかは別だが、少なくとも、梨枝の営業スタイルは「友達感覚」だった。
公式なオプションはそれほどない。指名料金のほかは、ポラロイド写真を撮る「チェキ」ぐらいだった。店外に出る「裏オプション」は、“公式”にはNGだが、そこは自己責任ということだった。中には、稼ぐために、裏オプもしている女子高生もいた。しかし、梨枝は裏オプを断っていた。
「(裏オプを)誘ってくる客もいましたが、だるいから断りました。もともと忙しいんです。部活や単発バイトもしていたり、友達と遊ぶ時間も必要です。誘いに乗った人の話を聞いて、“そういう人もいるんだな”と思ったくらいだった。JKとして求められて、その誘いに乗れば、稼げます。何も知らない高校生はそっちに走るでしょうね。ただ、私の感覚では、他のバイトでも言い寄られたら同じじゃないか、って思っていました」
「稼ごうとしたわけではない」
報酬のシステムは、当初は、完全歩合制だった。指名料の千円分は自分に入る。そのほか、時間ごとに男性客らが支払うサービス料の半分が女の子たちの報酬になる。しかし、報酬システムが見直され、時給になっていく。梨枝は1日に何人ぐらい男性客らがついたのか。また、報酬はどのくらいだったのか。
「1日、3人から10人ぐらいです。一人もお客がつかない子もいました。あまり出勤したほうではなかったので、月4万から5万円です。運もあると思うんですが、指名はあまりもらっていなくて。私は稼ごうとしたわけではないですから」
月4~5万円というのは、現在しているアルバイトとほぼ同じ報酬だ。高校生のアルバイトとしては、少ないわけでも、高いわけでもない。JKビジネスで働く他の女子高生の話を聞くと、洋服を買いたいと思っていたり、学費の足しにしたりと、様々な用途だ。梨枝は稼いだお金をどうするつもりだったのだろうか。
「何かのために貯めているというわけではないんです。というよりも、何かあったときのために貯めているんです。もともとお金の使い方が荒くないですし、物欲はないんです。姉からのお下がりがあるので、洋服はあります。普段は制服ですし、学校は化粧やピアス、アクセサリーが禁止。特にお金に困っているわけではないんです」
「長い時間、人と話せるようになったし、成長はありました」。ただ...
そんな梨枝が、約2ヶ月でJKビジネスをやめたのはなぜだったのだろう。
「ちょうどインフルエンザにかかったんです。バイトを休もうと連絡すると、『診断書を見せて』と言われたんです。面倒だと思って、行かなくなりました。短期でバイトを辞めることになりましたが、このバイトが当たり前になっていたら、もしかすると、外の誘いにも乗っていたかもしれません」
その後、梨枝はJKビジネスに関する注意喚起を目にすることになる。
「サービスとして割り切っていたために、特に男性客とはトラブルはないんです。(友達スタイルの営業だったためか)求められていないので、LINE交換もしていません」
そのチラシには、「それはJKビジネス!こんなバイトは危ないよ!」などと書かれていた。例示として、添い寝やハグ、マッサージをする「JKリフレ」、散歩や観光案内などの「JKお散歩」、テーブルやカウンター越しに客と話す「JKカフェ」、制服や水着、コスプレの撮影や着替えをする「見学・撮影」、客と同席し、会話や占い、ゲームをする「JKコミュ」とあった。梨枝が働いたところはまさに「JKコミュ」だった。
「働いた店は優良店でした。長い時間、人と話せるようになったし、成長はありました。短期間しか働いていないので、悪い影響を受けていないというのもあるんでしょうね。ただ、世間知らずになっていたかな。バイトを辞めた後に、学校で、藤田ニコルちゃんの写真がある、JKビジネスの注意喚起のチラシが配られました。さすがにリフレは危ないと直感で思っていましたが...」
JKビジネスで働いていた女子高生たちは「性犯罪被害」を受けていた人ばかりではない。また、家庭環境が複雑な女子高生もいたりするが、梨枝の家庭環境は特に問題にする点もないという。JKビジネス取材の印象として、心の隙間があったり、寂しさを抱えている女子高生もいたりするが、梨枝にはそうした背景を感じなかった。