一富士二鷹三なすび 都心で富士山のご利益にあずかれる「富士塚」で初詣 - 蓬莱藤乃
※この記事は2017年12月31日にBLOGOSで公開されたものです
初日の出は富士山の頂上でご来光。憧れますけど、そんな大がかりなことをしなくてもいいんです。
我々のご先祖様たちは江戸の昔から、お金をかけて遠くまでいかなくても富士山のご利益にあずかれるようにと、都内や関東各地の神社の片隅にミニチュア富士=富士塚をたくさん作っています。
江戸時代後期から昭和初期にかけて、富士山に登拝する富士講が大流行しました。
関東各地に富士講というグループが作られ、その数は江戸八百八講と言われるほどの人気でした。講のみんなでお金を積み立てして、年に一度の富士山の山開きの日に合わせてくじをひいて、富士山にいく人を選び出します。選抜メンバーは富士山に登り、浅間神社にお参りしてご利益を頂戴する、富士山そのものを信仰する修行プラス旅行サークルのようなものです。
また富士講では富士山に行けない人、例えば昔の場合だと女性や体力のない年配者や子供にも富士山のご利益をと、富士山に似せた富士塚が江戸を中心に関東各地に作られました。小さい富士山に登って、そのテッペンから遠くの富士山を遥拝したようです。 江戸市中を舞台に富士山入りの浮世絵が多く描かれましたが、その中にも富士塚がちょいちょい出てきます。富士山に富士塚、人が集まる神社や景勝地ではよく見られた風景だったようです。
現在では夏の富士山の山開きに合わせて、富士講が今でも活動を続けているところを中心に、富士塚でも山開きが行われています。その時の華やかさといったら。
普段は神社の裏手にひっそりとたたずんでいる富士塚も、富士講の方々や世話人の皆さんの手で下草を刈ってもらって浄められ、地域の人が集まって老いも若きも賑やかに、みんなが家族の健康や長寿を願って富士塚に登ります。
大人たちは麓で一杯ひっかけていたり、山頂で自撮りするインスタ女子がいたり、子供たちは何度も駆け上り駆け下りたり。
そういうハレの日の富士塚はなんだかうれしそうに見えます。歴史ファンには、いにしえの人々の、幸せを求める思いが今に伝えられている様子を見て、ジーンとくること請け合いです。都内だけで100基以上あるとも言われている富士塚は、あなたの住む場所の近くの神社にもあるかもしれません。
今回は、お正月のハレの日にハレ仕様で公開されるメジャーな富士塚と、いつでも登ることができるオススメの富士塚をいくつかご紹介します。
国の重要有形民俗文化財 練馬区「江古田富士」
まずお正月に登拝可能でおすすめなのが練馬区にある『江古田富士』。練馬区の茅原浅間神社。境内の奥に直径30メートル、高さ8メートル、都内でも最大級の富士塚『江古田富士』があります。
こちらは国の重要有形民俗文化財に指定されている貴重な富士塚です。
普段は富士塚に立ち入ることができないのですが、7月の山開きと神社の例祭が行われる9月、そしてお正月の三ケ日だけ開かずの門が開かれ、地域の皆さんを中心に参拝客が多く詰め掛けます。
富士塚登山口では一対のお猿さんの石像『神猿』がお出迎え。途中、天狗の像や富士講の碑、神様を祀っている祠など、登山道沿いに富士塚内の貴重なものを間近で見ることができます。また引きの画で見ても、冬の角度の浅い日差しが差し込む富士塚は神々しい姿をしています。
ミニチュア富士とはいえ、作った富士講『小竹丸祓講』は本気です。本家の富士山のようにゴロゴロ石の登山道や、富士山から溶岩=黒ボクを運び入れて、できるだけ富士山に近い形にしてありますので、足元はスニーカーなど、トレッキングできるくらいの準備をしてお出かけ下さい。それから現地は神社です。登拝には午前9時から午後3時までと時間制限がありますので、午前中などなるべく早い時間に行くことをおすすめします。
練馬区小竹町1-59-2 茅原浅間神社
アクセス:西武池袋線「江古田駅」からすぐ。
高級マンションの狭間に佇む 新宿区「成子富士」
続いては、お正月の7日間だけ神事として富士塚をオープンしている新宿の『成子富士』。西新宿の成子天神社。間口の狭い都会の境内を参道に沿ってどんどん進み、拝殿でご挨拶を済ませて、北に向かう参道を行くと、超リッチな高層マンションの影に隠れるようにして佇む浅間神社と『成子富士』が鎮座しています。
高さ12メートルの巨大な富士塚に圧倒されます。登ったぞとブログにあげてる方もいらっしゃるように、普段の日でも登拝できなくはなさそうなのですが、天神社が一般公開しているお正月の7日間に厳かな心持ちで登拝するのが正しい在り方かと思われます。
こちらの富士塚は九十九折りの細い石段が頂上まで続く登山道で、足場はかなり不安定です。さらに12メートルとかなり高いので、ここもやはりトレッキングできる運動靴で登ることをおすすめします。
周囲を背の高い高いマンションやビルで囲まれていますので、遠くの景色を堪能することには不向きです。が、富士塚探訪は妄想力を試される小旅行でもあります。
昔の人が富士塚を作った時には見晴らしがよかったはず。この成子富士は西新宿の高台のキワを利用して作られたものですから、かつては武蔵野の平野、その先の富士山まで見渡せたのでしょう。そういう景色を頭の中で想像しながら登拝すると、より富士塚を楽しむことができます。
そしてもうひとつお得な情報です。この成子天神の境内の中だけで七福神がお参りでき、さらには浅間社の女神・木花咲耶姫をプラスして八福神巡りが出来るところは全国でも例を見ない天神社自慢の神事だそうです。西新宿のパワースポットでのお参り、いかがでしょうか。
新宿区西新宿8~14~10 成子天神社続いてはいつでも登ることができる都内の富士塚のおすすめをいくつか。
アクセス:東京メトロ丸ノ内線・西新宿駅下車徒歩1分
都内の富士塚最高峰 品川区「品川富士」
徳川家康が戦勝祈願に立ち寄るなど、何かと歴史の表舞台に出てくる北品川・品川神社の龍がからまる派手な鳥居をくぐり、石段を真ん中まで登ると、踊り場の左側にまたひとつ鳥居が出てきます。そこが『品川富士』の入り口です。5合目まで登ると、お中道といって富士塚周囲を1周できるルートがあって、ぐるりと回ると、品川神社の境内に入り込んみ、富士塚の神様・浅間神社にたどり着きます。
浅間神社前には『富士』に『カエル』で『無事帰る』の石像、そして狛犬を長年研究してきた『こま研』と三遊亭円丈師匠が寄贈した雲に乗る狛犬がいます。お尻を跳ね上げた様子がとても可愛い狛犬です。
お中道から再び品川富士登山道に戻って頂上へ。高さ15メートルは都内の富士塚最高峰。眼下には京浜急行線と第一京浜。品川宿だった商店街が南北に走り、遠くにレインボーブリッジが見えます。先に歌川広重の東海道五十三次『品川 日の出』などや「江戸名所図会」など、品川宿を描いた浮世絵を見ておくと、眼下に広がる江戸前の海に街道に打ち寄せる波しぶき。妄想力の助けになってくれることでしょう。
あ、富士塚の頂上は、高いところが苦手なひとには、震える高さかもしれません。
品川区北品川3-7-15 品川神社
アクセス:京浜急行新馬場駅北口下車1分
都内最古の富士塚 渋谷区「千駄ヶ谷富士」
寛政元(1789)年、烏帽子岩講によって築造された都内最古の富士塚『千駄ヶ谷富士』。千駄ヶ谷の鳩森八幡神社内にあって、麓には四季折々の花が咲く華やかなミニチュア富士です。登山道がいくつもあって、高さは6メートルほどですが、山頂に近づくにつれて険しくなるので、山頂ではちょっとした達成感も味わえます。
境内は新宿や原宿・渋谷に程近いところにあるというのに漂う静寂な空気。都会のオアシスですので、訪れるだけでも魂が静まる気がします。
またお向かいには将棋会館がありますので、最近の将棋ブームを身近に感じることが出来るかもしれません。名物の鳩くじはインスタ映えします。
渋谷区千駄ヶ谷1-1-24 鳩森八幡神社
アクセス:東京メトロ副都心線北参道駅徒歩5分、 JR千駄ヶ谷駅または都営地下鉄大江戸線国立競技場駅 徒歩7分
富岡八幡宮と間違えないで 江東区「砂町富士」
天保4(1833)年築造。南砂町駅から荒川方向に歩いた先に富賀岡八幡宮、通称元八幡の名前で知られている神社があります。その境内の奥に砂村浅間神社、立派な富士塚『砂町富士』が鎮座しています。こちらの富士講『御水講』は未だ現役で、ものの本によると酒豪ぞろいの豪傑集団だと紹介されていました。
富士塚の標高はおよそ5メートル。海抜0メートル地帯であっても、ここは『江戸名所図会』や『江戸名所百景』にも出てくる、遠浅の海に桜並木の景勝地。
江戸時代には遮蔽物はなく、美しい浜辺からの富士山の眺めは良かったそうです。
ゴロゴロと大きくてとがった岩が積み重なった富士塚の正面(西側)に吉田口、背面(東側)に大宮口、北側に須走口と登山道があしらわれ、本家富士山そっくりに模倣した本格派の作りになっていました。
麓には落石があるので登らない方がいいですよと立て札があります。それでもお好きな方はしっかりした靴を履き、自己責任で登ってらっしゃいました。コンクリートで固められた頂上には、東西南北と方位が彫られていて、西を指す先にはヒスイ色をした『大日如来』の碑。そこで拝むと、遠く富士山を遥拝している形になります。
江東区南砂7-14-18 富賀岡八幡宮
アクセス:東京メトロ東西線 南砂町駅下車徒歩10分
一富士二鷹三なすび発祥の地 文京区「駒込富士」
本郷通り沿いの駒込富士神社、小高くなった境内そのものが富士塚の『駒込富士』です。境内の高さは6メートル。かなり急な階段があって、周囲の急斜面には溶岩の黒ボクがあしらってあるので、ここが富士塚であることは、通な皆さんなら一目瞭然。
また町火消し、鳶の纏の意匠が彫られた、赤・緑・白といったカラフルな石碑が幾つも見られます。こちらは氏子ではなく町火消しらによって組織された富士講によって過去は運営されていたそうです。
高さ6メートルの境内。江戸時代なら将軍家専用道路・岩槻街道を見下ろし、武蔵野の平野の先に丹沢の山並み、そして富士山。いい景色だっただろうと想像できます。でもビルに囲まれていますので、ここでもあなたの妄想力が試されます。
それからお正月の初夢で見るといいといわれる『一富士二鷹三なすび』、『駒込は一富士二鷹三茄子』と川柳に詠まれたことから生まれたそうです。
駒込の名物は富士神社・8代将軍吉宗が置いた鷹匠屋敷に名産の茄子。通りの教育委員会が置いた案内板に書いてありました。町歩きすると勉強になります。これも富士塚のご利益かと思われます。
文京区本駒込5-7-20 駒込富士神社
アクセス:東京メトロ南北線駒込駅/JR駒込駅から徒歩12分、東京メトロ南北線本駒込駅から徒歩13分、都営地下鉄三田線千石駅から徒歩12分
護国寺の境内を猫がご案内 文京区「音羽富士」
文京区の護国寺の中にあります。多くの富士塚は神社の中にありますが、都内で寺院の境内にあるのはここだけ。お線香の香りに包まれる富士塚は珍しいです。昔は京都から勧請した今宮神社も護国寺の中にあって、そちらにくっついていたものが明治の神仏分離令で今宮神社だけ護国寺の山道・音羽通りを下った江戸川橋にお引っ越し。富士塚は残されました。
護国寺の境内に上がる階段の右脇に富士塚があって、富士塚といえばお猿さんの像が出迎えてくれるケースが多いのですが、こちらでは境内に住み着いている猫さんが『こっちだよ』と案内してくれることも。猫好きかどうか、ここの猫たちには分かるようです。
高さおよそ6~7メートルの富士塚山頂に浅間神社があって、ここでお参りが出来ます。
かつては境内の下を流れる神田川を超えて丹沢の山々の向こうに富士山が見えたそうです。護国寺の目の前の坂は富士見坂。海抜30メートル級の台地の傾斜を利用した、景色のいい場所に立地していたことが分かります。
ついでに境内を上がって護国寺もお参り。江戸時代には度重なる大火を免れ、明治期の神仏分離令を官軍に敷地を提供したおかげで乗り切り、太平洋戦争の戦火からも免れた、奇跡のお寺のパワーも全身に浴びてきましょう。
文京区大塚5-40-1 護国寺このほか、千住大川町、荒川沿いの氷川神社内にある『千住大川富士』、北区の十条富士神社の『十条富士』など、いつでも登拝可能な富士塚は探せば案外出てきます。
アクセス:東京メトロ有楽町線 護国寺駅徒歩1分
いずれも木陰があって、気持ちのいい風が吹き抜ける素敵な場所に立地しているのです。
富士塚とその周囲が持つ清々しい空気、この機会にぜひ一度ご体験ください。