※この記事は2017年12月13日にBLOGOSで公開されたものです

第二次世界大戦の時代。北欧の国・ノルウェーはナチスドイツの侵攻を受け、危機に瀕した。降伏か、抵抗か――。究極の選択を迫られた君主の葛藤を描いた映画『ヒトラーに屈しなかった国王』が12月16日から劇場公開される。ノルウェーのアカデミー賞(アマンダ賞)8部門を受賞した秀作だ。現代の民主主義社会で、国王はどのようにふるまうべきなのか。報道カメラマン出身で、政治体制への関心も強いエリック・ポッペ監督にインタビューした。

国民に近い存在だったノルウェー国王

――第二次世界大戦に関して、ノルウェーと日本は共通点があります。自国が降伏するかどうかで、君主が大きな役割を果たしました。現代の社会で、君主という存在はどうあるべきでしょうか?

ポッペ: 私は君主というものは、政治的な権力を持つべきでないと思っています。というのは、君主は選挙で選ばれた存在ではないからです。そういう考えからすると、君主制は非常に古めかしいものです。ヨーロッパの王室をみると、多くは昔ながらのスタイルで、国王と国民の距離が非常に遠いですね。

ところが、(映画の主人公である)ノルウェーのホーコン国王は違いました。彼は、1905年にノルウェーがスウェーデンから独立したとき、デンマーク王室からノルウェーの国王となりました。当時、デンマークの王子だった彼は、ノルウェーの国民から「国王になってほしい」と請われたのです。

ノルウェーに来たホーコン国王は、憲法というものを理解していました。彼は「国を統治するのは国民であり、国民に選ばれて議会がある」と考えていました。議会は国民が求めることをなすものだ、と。そして、国王も国民に仕える存在で、「憲法を守るために国王がいる」と言いました。

つまり、いままでの君主制のモデルをひっくり返すようなことを言ったんです。それによって、ノルウェーの君主制はいま、世界で一番モダンな君主制だと言われていますし、とても国民に近い存在なんですね。

――この映画でも、ホーコン国王と一般の国民が普通に会話する様子が描かれていますね。

ポッペ: ノルウェーでは、国王は政治的な権力を持っていません。この映画の中でも、ドイツの侵攻があった最初の日には、ホーコン国王は何も言っていないんです。しかし、政府があまりにも何もせず、ドイツに占領されようとしているのを見て、「それは国民が求めることではないだろう」と思って、行動に出ました。

いまでもノルウェーの国王は、国民との距離が近く、何か災害や危難があったとき、率先して国民の中に入っていって、人々をサポートします。そうすることで、国民から大きな尊敬を受けているわけです。ヨーロッパの中でも、王制があるべきかという議論が一番少ない国です。

私自身は共和制主義者なのですが、映画に登場するホーコン国王は非常に興味深い存在だと思っています。国民の側に立って、国民のために存在するリーダーです。自分のことではなく、国民を最優先するリーダー。現在の世界各国のリーダーは逆の人が多いので、そういう意味でも興味深いですね。

国家のリーダーとして「奇妙な人」が選ばれている

――ノルウェー以外の政治体制については、どう見ていますか?

ポッペ: いまの世の中を見ていると、どこかシステムが間違っているのではないか、と思わざるをえません。国家のリーダーとして選ばれる人に、奇妙な人が多すぎると思うんです。「なるべきでない人」が大統領になっている。

民主主義は非常にもろいものです。共和制であれ君主制であれ、国民がシステムを監視して、民主主義を守らないといけないのですが・・・。

たとえば、アメリカでは貧富の差が非常に大きく、革命が起こるのではないかというほど、貧しい人たちがさらに貧しくなっている。そういうシステムの問題について、私たちはもっと議論すべきだと思います。

――共和制が必ずしもベストとは言えないということでしょうか。

ポッペ: アメリカだけでなく、ロシアも中国も、システムがうまく機能しているわけではないでしょう。ヨーロッパを見ると、フランスは革命によって共和制になったわけですが、うまくいっているときとそうでないときがある。ドイツの共和制は、一番強いモデルのような気もしますが、最近の歴史をみるとあまり誇れない部分がある。

結局、どのような政治体制が良いのか、議論を続けることが大事だと思います。

君主制はこれからの10年で、崩れていく国が多いでしょう。ノルウェーの君主制は非常に強いですが、イギリスやスペインなど他の国の君主制は弱くなっています。たとえば、スペインでは、王室のメンバーが裁判にかけられるという出来事もありました。

ただ、私はこの映画を「君主制」に関する映画というよりも、「リーダー」に関する映画と考えています。これまでアメリカやフランス、ドイツなどで上映されましたが、観客は「国王の映画」というよりも「強いリーダーの映画」として観ていたと思います。

――ドイツのベルリン映画祭で上映されたということでしたが、観客の反応はどうでしたか? ナチスドイツが他国を侵攻する話なので、ドイツ人の反応が気になります。

ポッペ:ドイツ人もこの映画を気に入ってくれたようです。なぜかというと、(映画に登場する)ドイツ公使のブロイアーが、戦争を止めようと動いた「善きドイツ人」だったからです。

これまでブロイアーのことは、ドイツ国内であまり取り上げられていないし、映画にもなっていない。だから、ドイツ人にとって、こんな人物が存在したということは大きな驚きだったようです。

――最後に、この『ヒトラーに屈しなかった国王』について、日本の観客に「ここを見てほしい」というポイントはありますか?

ポッペ: 今日的な意義がなければ、第二次世界大戦の映画をもう一つ作る理由はないし、見る価値もないでしょう。この映画を観ることによって、日本の政治のモデルについて考えたり、話したりするきっかけにしてほしいですね。

また、この映画はハリウッドでありがちな、白黒のはっきりした勧善懲悪ものではありません。ホーコン国王は自分の決断が正しいかどうか、常に疑いを持っていて、混乱もしていました。特に侵攻初日はものすごく混乱していましたが、そういう側面も描くことが大事だと思っています。

実際の戦争は、白黒が簡単につくようなものではありません。誰がヒーローで、誰が悪役かというのは、現実の世界ではそんな簡単にわからないんですね。そういう意味で、第二次世界大戦における日本を描いた映画についても、白黒のついていないものを観てみたいと思います。

人間はさまざまな状況の中で、良くないことを仕方なくやってしまったり、強制されてやってしまったりすることがある。そういう「真実」について、少し距離を置いて描くことで、議論が巻き起こるようにしたい。つまり、「誰がヒーローで、誰が悪役か」「誰が白で、誰が黒か」がはっきりわからないというところを、この映画で見てほしいと思います。