ヒアリに何度も刺された男・平坂寛氏に聞く 危険な生物との付き合い方 - 土屋礼央
※この記事は2017年08月17日にBLOGOSで公開されたものです
土屋礼央の「じっくり聞くと」。今回は生物ライターの平坂寛さんにインタビュー。平坂さんは「これ、食えるのかなあ」という生物を自ら捕まえては食べている、モノホンの珍獣ハンター。新刊『喰ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)』の発売にあわせ、話題のヒアリに刺された話から、一番マズかった生物まで、今回も「じっくり」聞いています。
◇ヒアリ?ミツバチに刺されたくらいの痛さです
土屋:あなたですね、今話題のヒアリに刺された男というのは!?
平坂:のべ5~6回刺されています。ヒアリは南米原産ですけど、アメリカではテキサス州やルイジアナ州などに定着していて、サンダルに短パンだと、ヤブに入るたびに刺されます。
土屋:テレビを見ていると刺されたら一巻の終わりのような報じられ方をしています。
平坂:毒の耐性には個人差があって、人によっては重篤な状態に陥る場合もあれば、僕みたいに平気な場合もあるんです。
土屋:どれくらいの痛さなんですか?
平坂:ミツバチに近いです。数値で表すと、ミツバチが100ならヒアリは1匹なら40くらいです。ただ、ヒアリの場合は1匹だけに噛まれるというのはまずありえないんです。群れていますから、最低でも10匹、ひどい時には両足にびっちり張り付かれてしまいます。
アメリカで車がぬかるみにはまって、草むらにサンダル履きの足を突っ込んだ瞬間、刺されました。僕がヒアリの巣の上に車を止めていたんです。もー、車は動かないわ、足は刺されるわ。泣きっ面に蜂な状態。
土屋:泣きっ面にアリですね。どうやって振り払ったんですか?
平坂:手で振り払っても、腕にどんどん登ってきますから、落ち着いて、その辺の草を丸めてタワシ状にしたものでこそぎ落とします。英語ではファイヤーアントっていうだけあって、焼かれたような痛みなんです。蜂に刺されても点ですけど、ヒアリの場合は刺される数が多いので面で痛い感じです。
土屋:刺されたら肌はどういう状態に?
平坂:まずは蚊に刺されたような腫れ方でした。徐々に赤みが増してきて、数時間で膿んできます。やがて思春期のニキビみたいに化膿して、熱が出て風邪を引いた時のような感じになります。何度刺されても同じ状態になるので、一度刺されると耐性ができるというわけではないようです。
土屋:もともとヒアリがいる南米の人の場合だと、刺されてもそんなに慌てないものですか?
平坂:屋外に対する認識が日本とは違います。僕が短パンとサンダルでうろついていると「外ではジーンズにブーツだろ」って言われます。もしこのまま日本にヒアリが定着してしまうと、30年後には公園で遊ぶならブーツにジーパンね、みたいなことになるかもしれません。
土屋:ヒアリの定着を水際で食い止めることは?
平坂:定着してしまう可能性は高いです。日常生活で、アリをわざわざ観察しないでしょ。日本にだって刺すアリはいますから、万一ヒアリに刺されてもシリアゲアリだとかほかの毒アリに刺されたものだと勘違いしてスルーしてしまっているかもしれない。気付かないうちに広がってしまうことだって考えられます。もちろん水際で食い止める意見には大賛成です。在来種のアリや生態系へのダメージは計り知れませんから、今、対策を取るべきだと思っています。
◇「やべえ次は心臓だ」セアカゴケグモの恐怖
土屋:セアカゴケグモは?
平坂:3回くらい噛まれています。
土屋:指を”噛ませて”死にかけていましたよね…。
平坂:セアカゴケグモって、こっちに向かって飛びかかってきてすぐに噛みつくものだと思っていたら、延々逃げるんです。また捕まえて「ここを噛んでほしいの」ってぐりぐり頭に指を押し付けてようやく噛むんですよ。
噛まれた感じは「今のがそうなの?」って思う程度でした。でも5分くらい経って手が痺れてきて、10分ほどで肘から先が動かなくなりました。15~20分で左肩が痛みで上がらなくなって、範囲が手から腕、肩とじわじわ上がってくると、「やべえ次は心臓だ」って。
土屋:病院には?
平坂:行かないです。10時間経過してどれだけ腫れるか観察しているのに、治療してしまうと、それがストップしてしまうでしょ。刺され損になっちゃう。
セアカゴケグモの時には『欽ちゃんの仮装大賞』の採点ランプのように「テッテッテテテ」と速く進んでも、ある程度高いところまで行くと「テ・テ・テ…」って遅くなるでしょ。それと同じで痛みの広がりが肩まで来たところでゆっくりになったんです。その時に、これ以上進まないなと確信しました。そういうことを経験すると、前評判よりも毒性が低いのかもと分かるんです。
土屋:腕はいつ普通に動かせるようになりましたか?
平坂:数時間もすればおよそ元に戻ります。実は噛まれた翌日はテレビのロケで釣りをすることが決まっていたんです。その時に釣り竿が持てないとまずいなと、別の意味で焦ってました。ヤバかったですね。
◇捕えて、食べて、刺されて、シビれて
土屋:ヤバいといえば、今回出された本『喰ったらヤバいいきもの』を拝見しました。イグアナの目がドーンとくる表紙で、一見ふざけているように見えるんですけど、読むと、すごく意義のある本。そもそも、捕まえた生き物を食べたり、刺されてみたり、電気ウナギにしびれたりって通常の人間はしないでしょ。進んでやっちゃうのは育った家庭環境ですかね?
平坂:両親がともに生き物が好きで、その血を受け継いでいるなとは感じています。実家が古本屋だったので、入荷してくる古今東西の生き物の本を与えられるわけです。これは面白いと、将来は生き物の本を書く人になりたいと4~5歳の頃には思っていました。
そういう本の著者紹介を読むと、たいてい大学の偉い先生が書いているので、こういう人になれば本を書くことができるんだと研究者を志して、琉球大学の理学部に入りました。でも卒業する頃には「今の時代はインターネットもあるから教授にならなくても文章が書けるんじゃないか」って気づいてしまったんです。あちこち飛び回った方が面白いものが書けるなって思い直しまして、大学院に通いつつフリーのライターとして記事を書き始めました。
土屋:たくさん捕っちゃ食ってますよね。平坂さんの本の中で、一番美味かったのはどれですか?
平坂:表紙にもなっているグリーンイグアナですね! 癖がない、万人が美味しいって言えるレベルの味で、鶏肉に近いです。それでいて豚肉のような味わいもあるんです。
土屋:グリーンイグアナは鶏肉・豚肉レベルの美味さ!?
平坂:匹敵する美味さです。友人に振舞うと、来年も獲ってきてって言われました。カミツキガメもよく食べるんですけど、肉食性が強いからクセがあるんです。でもグリーンイグアナは同じ爬虫類なのにキャッチ&即イートができます。この本で扱っているような大きな個体になると植物や花、果物を食べるベジタリアンなので、身はクセのないクリーンな味わいです。
土屋:この本に載っている生き物たちは、基本食用として売られていないものばかりですよね。
平坂:ヤシガニなら沖縄に行けば売っています。これもめちゃくちゃ美味しいんです。普段木の実を食べているので、蟹味噌がこってり、ピーナッツみたいな香りがします。でも僕は二度と食べないと決めているんです。成長が遅くて食用のサイズになるまに20年近くかかってしまうから。一度個体数が減ってしまうと復活するのにものすごく時間がかかる。違う意味で食ったらヤバいんです。
土屋:じゃぁクソまずいのは? 平坂さんの文章力がすごいので、読んでいるだけで吐きそうになるものもありますが。
平坂:千葉のダムで獲ったオオマリコケムシ!これはひどかった。見た目ゼリー状のまんじゅうですけど、表面のぶつぶつが本体で、残り99%は彼らが出す分泌物。その内容物は住んでいる湖やダムの水なんです。だから食べると基本「沼の味」。沼ゼリーです。口に運ぶと、僕は食べる気満々なのに、喉の奥に弁みたいなものが急に出てきて、ここから先は絶対通さないって脳が拒絶する、そういう味でした。
土屋:ほかには?
平坂:香港の淀んだ川にいたクラリアスって巨大ナマズです。彼らは魚なのにエラ呼吸だけじゃなく、息継ぎもできるから、水中が酸欠でひどい環境になっても生き延びられるんです。本来は食用魚だったはずなので、ドブに住んでいると味が変わるのかと思い立って食べてみたんですが、これがすごい。生物ってこれだけ自分の体が不味くなっても生きて行けるのかって。魚肉なのに石油製品の味がするんです。
土屋:本には『激しく粘りつくようなヘドロの向こう側にほんのりと感じる洗剤の香り』って書いてありますね。
平坂:ヘドロの先をかき分けて、たどり着いたのが洗剤。救いがない(笑)。
土屋:体調は?
平坂:真っ向勝負しても食べられないって判断して、刻んでひたすら洗ってすり身にして揚げて、においを飛ばして食べるっていう反則行為で挑んだんですけど、それでも臭かったんです。延々巨体を揚げ続けて食べたんで、お腹が痛くなりましたが、それはクラリアスが汚染されていたから体を壊したのではなく、揚げ物の食べ過ぎでお腹を壊したんだと思っています。
土屋:ポジティブだねぇ~、こんなデカい魚を全部食ったんだもんね。平坂家はなんでも揚げれば食えるっていう家訓があるそうで。
平坂:そうなんです。今まで2回、揚げても駄目だったもののひとつが、このクラリアスです。
土屋:本の中で、美味しい時は「うんめぇぇぇっー」って『え』の数がやたら多いです。大学の先生なら絶対書かない感じがして、そこが素敵です。
平坂:僕がやっていることはエンタメ性のある行為でもあるので、子供たちや生き物に興味のない人たちにも、本を通じて生き物をちょっとだけでも好きになってもらえたら本望です。
◇親も生き物に対する知識を増やして
土屋:夏休みなので親も子供と接する時間が増えていると思いますが、なんでも触りたがる子供につい「止めなさい」と言ってしまうことも多いです。
平坂:その生き物に毒があるかどうか、親御さんにも最低限の知識を持っていてほしいです。それは難しいことではありません。
人間は食べられる・食べられない、刺してくる、そういうことに関してはものすごく敏感に判断して記録に残す種族です。例えばフグや毒ヘビのように本当にヤバい生物はちゃんと広く周知されていますよね。それでも万一、見たことのない生き物に出会ったら、まずネットや図鑑で調べてみましょう。むやみやたらに怖がる必要はありません。
土屋:僕は寄生虫にビビってしまうんです。あとナメクジの液体には触ってはいけないんじゃないかと。
平坂:ナメクジやカタツムリは広東住血線虫っていう寄生虫を宿していて、確率は低いですが、触った手でおやつを食べて感染する可能性がないとは言えません。
だからといって危ないから触っちゃダメといって遠ざけるのも、教育にとってはどうかと思います。触る時は素手で触らないようにして、もしくは木の上に乗っけて可愛がる。遊んだあとは必ず手洗いなさいと、そういう言い方をするといいんじゃないかと。
海の場合だと、「河口や干潟には毒針を持ったエイがいる!危ないから近づくな!」と教える人もいます。でもそうではなくて「見つけたら離れたところから見なさい」とか「こんな家の近くに毒を持ったドラクエのモンスターみたいな生き物が現実にいるってすごいよな!」って、ポジティブなスタンスで子供と一緒に観察してほしい。そういう教育を推していきたいんです。
土屋:山で注意すべきは?
平坂:蜂はおっかない。それから蛇で気をつけるべきは2種類、ヤマカガシとマムシ。本州にはこの2種類しか毒を持っているものはいません。
ハブの仲間は南西諸島にだけに生息しています。蛇なら何でも危ないから近づくなというのではなく、派手な柄の蛇が2種類いる。こっちがヤマカガシでこっちはマムシ。このいかにもヤバそうな模様をしているのだけは覚えておけと。ほかの蛇も噛むけど死にはしないから遊んでいいぞって、僕はそういう風に教育を受けました。
土屋:それくらいでいいなら、普通の家族でも対応できそうですね。うちの嫁がこの間、昭和記念公園でバッタとカマキリを捕まえてきて、一緒にコオロギも虫かごに入れていたら、すぐにコオロギが食べられてしまいました。殺戮シーンを見せつけられて、あんなに緊張感のある時間はなかったかも。
平坂:そういう惨事が起こるのも経験を通して知るべきだと思うんです。子供がうっかり虫をつぶしてしまったことを過剰にとがめる親御さんを見かけますが、それはかえってよくないんじゃないかと思うんです。
命の大切さを知る上では、そうやってうっかり傷つけてしまうというのも貴重な経験です。「優しく扱わないといけないよ」と教えるきっかけになります。殺して食べている僕が言うのも何なんですけど…。
◇決して僕のマネはしないでください
土屋:それも、先々の為には平坂さんの行為も必要なことです。でも、本を読んでいるとマネしたくもなります。
平坂:常々「僕のマネはしないでください」とお伝えしています。獲って食べるのもいい経験なので、それ自体はいいことなんですけど、どうせなら美味しいものをお子さんと一緒に食べた方がいいと思います。例えば、この夏休みはお子さんと一緒に港でアジを釣ったり、東京だと隅田川でハゼを釣ったり。入口は安全で簡単なものがいいでしょう。
土屋:現時点で、出会いたい生き物にどれくらい遭遇できましたか?
平坂:2%くらいですかね。一生かけても回りきれないと思います。だから「もう死んでもいい」という瞬間が、僕にはずーっとやってこないのかもしれません。
土屋:ご結婚は?
平坂:「危ないのはやめて」って言われて、そういうのが面倒だから別れるというのを繰り返してきているので、「あなたひとりの命じゃないのよ」と言われるようなターゲットを捕り、食べ終えてからかだと思ってます。直近はキングコブラ!
土屋:当分、無理ですね!最後に子供たちに、この夏休みはどう自然と触れ合っていけばいいのか、アドバイスを頂けますか?
平坂:リアルポケモン図鑑を作ってみてはどうでしょうか。名前も知らないような生き物がその辺りの植え込みにいるはずです。出会った生き物をスケッチしたり写真に撮ったり見つけた場所を記録してコレクションすると、それがそのまま夏休みの自由研究にもなります。何よりこの世の中にこれだけ生き物があふれているんだっていうことを実際に触れて学べるかなと思うんです。
土屋:平坂さんもそういう心持ちで世界の珍獣をたくさん捕まえて食べているんですね。これからも体には十分気をつけて。特に泣きっ面にヒアリには気を付けて!
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プロフィール
土屋礼央1976年、東京都国分寺市出身。RAG FAIR として2001年にメジャーデビュー。 2011年よりソロプロジェクト「TTRE」をスタート。ニッポン放送「土屋礼央 レオなるど」、TOKYO MX2「F.C. TOKYO魂!」、FM NACK5「カメレオンパーティ」などに出演中。
・ TTREアルバム「ブラーリ」
・土屋礼央 オフィシャルブログ
・Twitter - 土屋礼央 @reo_tsuchiya
平坂 寛 (ひらさか ひろし)
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがいの生物ライター。『喰ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)』が好評発売中。
個人サイト:Monsters Pro Shop
Twitter:@hirahiroro
Instagram:hiroshi_hirasaka