共謀罪施行 「『関係ない』と決めるのはみなさんではなく警察官」 - 渋井哲也
※この記事は2017年07月22日にBLOGOSで公開されたものです
テロ等準備罪(以下、共謀罪)を新設した改正組織的犯罪処罰法が7月11日、施行された。この日、「共謀罪創設に反対する百人委員会」(代表、足立昌勝・関東学院大学名誉教授)が新宿駅西口で抗議集会「共謀罪をぶっ飛ばせ!!」を開いた。西口以外でも、東口、南口、東南口でも抗議のスタンディングを行なった。
これまで小泉純一郎政権で3度、国会提出されたものの、成立しなかったが、安倍晋三政権の下で4度目の提出、成立した。これまでの共謀罪反対運動に関わり、百人委員会の事務局長でもある、フリージャーナリストの林克明さんに話を聞いた。
中間報告の妥当性をもっと審議すべきだった
――共謀罪の成立過程についてどう思っているか
めちゃくちゃでしたよね。まず今年の1月10日に、安倍総理が共謀罪の必要性を訴えた。そこから少しずつマスコミが取り上げたが、最後の最後まで、まともな答弁がなかった。特に、金田勝年法務大臣。途中で、林真琴刑事局長に答弁をまかせていた。それに野党の合意なく、参院法務委員会を飛ばした。委員会での審議終結もなく、採決もせず、本会議への中間報告にした。
中間報告にしたのは政治的にも、法的にもおかしい。審議が終わらないのに、このまま審議していると、会期が延長となってしまう。(大阪府豊中市の国有地を小学校建設の際に購入した価格が評価額の14%だった)森友学園の問題や、(愛媛県今治市に獣医学部の新設をめぐって便宜を図った疑惑がある)加計学園の問題で、会期を延長したらまずいのではないかとなったのだろう。こうした中で、中間報告という形にした。
日本の国会は衆参ともに委員会で法案などを審議して、本会議に送ることが原則で、もともと中間報告は、緊急事態の場合か、委員長が野党で審議拒否をしている場合などに限られている。 今回の中間報告をした参院法務委員会の委員長は公明党。つまり与党が委員長だ。これまでの中間報告は野党が委員長で審議引き伸ばしと判断されたときに、中間報告という手段が取られたことがある。与党が委員長で中間報告は異例だ。 審議の時間が足りなければ、会期の延長を求めるべきだった。また、中間報告をするのなら、本会議でそれが妥当だったのか、緊急事態だったのか、委員会の状況をきちんと審議すべきだった。何がなんでも成立させたかったのだろう。
――過去の共謀罪の提出よりも、今回のほうが反対運動が盛り上がったように思うが。
法律の内容そのものがおかしい。安保関連法の時は、そうは言っても即、市民に直接影響が来ない。しかも、(共謀罪の対象犯罪が)277という数の多さ。これによって、捜査の範囲、監視対象が広がることになる。社民党の福島瑞穂議員は「治安維持法が277できるようなものではないか」と言っていたが、それも絵空事ではない。
最初に共謀罪が提出されたのは10年ほど前。その時代にはまだ余裕があったのではないか。当時から3回目の提出までは、秘密保護法も安保関連法も成立もない。憲法第9条に絡んで集団的自衛権の行使の閣議決定も変わった。その意味で危機感が違う。外堀を埋められている状況だ。改正刑事訴訟法の絡みもある、(裁判所でさえ本人確認をしない)匿名の証人も証拠採用がされるようになった。そうなれば、これまでと状況がまるで違う。
活動家を狙い撃ちではなく、一般人に監視対象が拡大される?
―― 共謀罪の危険性をあらためて
犯罪が起きなくても捕まえられる。既遂の前は未遂があるが、その準備段階から捜査の対象になる。さらにその前の計画段階から任意捜査は可能と政府側は国会で答弁してきた。極端に言えば、思った瞬間から対象になりかねない。もちろん、「思った瞬間」というのは一般人がどう判断するのではなく、それを判断するのはあくまでも警察ということだ。
刑法は具体的に事件が起きた時に初めて処罰するのが原則だ。未遂罪や準備罪があるものは一部だ。しかし、共謀罪は、277の共謀について、被害がまったくなくても、家宅捜索され、パソコンやスマホを押収されることになりかねない。しかも、罪を確定させるためには、対象になった人以外にも捜査をすることになる。つまり、相当な人数が監視の対象になるということだ。
反政府運動や反基地運動、特定の党派に入っている人は、共謀罪がなくても、すでに逮捕や家宅捜索されている。その意味では、むしろ、活動家にとってはあまり関係ないのかもしれない。特定の人を狙い撃ちというよりは、監視対象を一般人に拡大したということになる。常時監視をする警察官がこれまでよりも増えることになるんじゃないか。つまり、限りなく、一般人を監視することになる。
自分は関係ないと思ったとしても、「同意」や「暗黙の同意」などは、捜査段階では警察が判断することだ。友人や親戚、ネットの友人などが一人でも対象になれば、自分も監視されてしまいかねない。結局、どこまでやるかは捜査機関の胸先三寸だ。「そんなのは関係ない」と思うのは個人の自由です。しかし、「関係ない」と決めるのはみなさんではない。あくまでも警察官だ。
共謀罪以外のこれまでの犯罪では、冤罪の場合は「でっち上げ」の証拠がでてきたり、論理構成がされる。証拠を作り上げようとする。しかし、共謀罪は客観的な証拠は必要ない。合意したというのであれば対象になってしまう。共謀罪となるには合意のあとに準備行為が必要になるが、準備行為はなんだって関連づけられる。
―― ただ、共謀があったとしても、対象は「組織的犯罪集団」の場合はずだが
なんでもない集団が「組織の目的が一変した」とみなされば、組織的犯罪集団になる。会社で脱税をしようと共謀したとして、その場合が「組織の目的が一変した」とみなされれば、適用される。その場合、会社全員がなるとは考えにくいが、特定の部署が組織的犯罪集団とみなされかねない。
著作権法が対象犯罪になっているので、同人誌もかなりやられる可能性が出てくる。現在、著作権侵害は親告罪だが、共謀罪は親告罪ではない。となると、著作権侵害は事実上、親告罪ではなくなるのではないか。著作権侵害を親告罪じゃなくしたら、ネット上は大変なことになりかねない。
監視のために「共謀罪情報センター」の設置を!
―― 今後はどうしていくのか
(共謀罪が)忘れられないように、継続的に共謀罪反対の訴えをしていきたい。それには共謀罪を監視するシステム、具体的にはまずは相談窓口が必要だ。これまでも冤罪事件でもあったが、当番弁護士制度のようにいつでも連絡ができる窓口が必要だろう。そのためには47都道府県の弁護士会が活躍してもらうのがいいと思う。例えば、「共謀罪情報センター」を設置してほしい。また、共謀罪で事情聴取されたり、家宅捜索されたり、逮捕されることもあるだろうが、そうした場合のために、対策マニュアルの発行も考えている。
今は、安倍政権への批判が高まっている。共謀罪をなくすには究極的には政権交代が必要になる。その方法の一つは野党結集。しかし、既存の野党では無理。もちろん、暴走は止められるかもしれないが、政権交代まではいかない。共謀罪の成立過程でも、野党は本当に抵抗したのか?と思う。民進党への不信感がある。本気で成立させないようにするためには、審議拒否のチャンスもあったし、委員会室封鎖という手段もあった。何もしてない。そのためにも、新党の結成が望まれる。一つのアイディアとしては、生活が苦しい人を対象にした政党が必要だ。