※この記事は2017年06月11日にBLOGOSで公開されたものです

2020年に控えた東京オリンピック。

オリンピックといえば、様々な「環境浄化」の口実となるが、その中でも特に問題になっているのが「受動喫煙の防止」だ。

オリンピックが行われるのは東京都だが、厚労省が屋内原則禁煙の方針を掲げたのも、オリンピックの影響が強いことは疑いようがない。

単なるスポーツイベントであるにもかかわらず、オリンピックは様々な政治的要素を入れ込んで肥大化し、いつの間にか「スモーク・フリー」という受動喫煙のない状態を保つことがオリンピック開催都市の義務になってしまっているようだ。

個人的にはたかだかスポーツのイベントで、国民の生活が大きく変わるような条例や法を作らなければいけないなら、そんなイベント辞めちまえとしか思えないのだが、もうどこかの誰かが勝手にわざわざ貧乏くじを都税をドブに捨てながら招致してしまって、運悪く決まってしまったので仕方ない。

さて、本題。

BuzzFeedが、日本医師会副会長である今村聡氏に、なぜ日本の受動喫煙対策が進まないのかをインタビューしていた。(*1)

今村氏は本来は受動喫煙の防止は極めて合理的であるにかかわらず、政治が票を意識して対策を打てないのだという。 しかしこれは、政治に対して期待を持ちすぎだろう。

そもそも政治というものは合理的な判断で動くようなシステムになっていない。特に日本の政治は「個人よりも法人」を大切にする意識が強いのだから、喫煙で健康を損なう人を減らすよりは、タバコ販売に関わる業者を守るほうが大切であると考えているであろうことは言うまでもない。 それでもまだタバコに関しては、たばこ税の度重なる増税など、タバコ産業に対して強い姿勢で臨んでいると言えるレベルである。少なくともデフレ大国の日本で、僕が子供の頃には180円とか200円だったタバコが、440円や460円と、2倍以上の値段になっているし、販売本数も右肩上がりで減っている。(*2)

それよりも重要な指摘は、最後の方に書かれている、この部分であると、僕は考える。

「非喫煙者の受動喫煙も防がなければならない。そのために、屋内の完全禁煙を進めていく。分煙では受動喫煙を完全には防げないことも明らかになっていますから、「吸うのであれば外で吸ってください」というのが順当です。ここまでが、たばこの健康上の害についての対策です。

ところが、日本では屋内よりも先に、屋外の規制の方が進んでしまった。歩きたばこの禁止や喫煙所の撤去はマナーの問題です。世界的にも段階的な対策が行われてきた経緯もあり、日本でも現在喫煙をしている方からいきなり喫煙の習慣を奪ったとして、いたずらに反発を招き、議論が進まないだけです。」(*1)

日本では2002年の東京都の千代田区を先駆けに、自治体などがこぞって路上喫煙の禁止を推し進めてきた。(*3)

そこには健康増進の意識があったのか、環境美化の意識があったのか、子育ての安全安心への意識があったのか。理由はそれぞれだろうが、確実に各自治体での「路上喫煙禁止条例ブーム」があった。

しかし、そうした条例は結局は「ルール」になり得なかった。なぜルールになり得なかったかと言えば、それはこのルールは全くフェアではないからである。

ある場所で喫煙を禁止するのであれば、喫煙できる場所を作る。公的な喫煙所の積極的な設置がルールを決める際のフェアネスであったはずが、禁煙の範囲に比べて「あるだけマシ」というレベルでしか無く、喫煙所の数は極めて少ない。

それでも良しとされたのは、当時はまだ「居酒屋など、タバコを吸う人がいるのが当たり前の場所で吸えばいい」と考えていた人が多かったからだろう。

千代田区で路上喫煙が防止になったのが2002年。その前年の2001年に公共広告機構(今のACジャパン)が、タバコを火の付いた松明に例えて、それが子供の顔の近くを通ることの危険性を指摘したCMを放送した。(*4)

このCMはこの当時の路上喫煙禁止の意味合いを正しく伝えている。つまり当時の意識としては「タバコが子供にとって危険であるから、路上喫煙は禁止するべきだ」という意識であり、副流煙の害というのはそれほど強くは意識されていなかったのである。さらに、もっと昔からの「吸い殻のポイ捨て」という問題意識がくっつき、タバコそのものの健康被害よりも「タバコを吸うことによる他人への迷惑」こそが強く問題視されていたのである。

だからこそ、外でタバコを吸うことによる他人への迷惑が強く問題視された結果、むしろ「タバコは屋内で吸うべき」という誘導がされていったのである。

一方で、海外の喫煙問題の認識はそうではなく、タバコそのものの健康への害が一番の問題であると認識されている。なので煙が籠もってしまう屋内での喫煙には厳しいが、煙が抜けやすい屋外での喫煙には比較的寛容なルールが設定されている。(*5)

これは逆に言えば海外では屋外に出ればタバコが吸える、つまり喫煙者の権利が守られているからこそ、屋内を厳しくしてもルールを運用できるのである。

一方、すでに自治体レベルで、屋外での厳しい条例が設定されている日本で、屋内での喫煙禁止に対する批判の声が大きいのは当然のことである。方や他人への迷惑、方や健康リスク。その本来異なる2つの問題から出立した2つの異なるルールが、オリンピックが来るからと悪魔合体してしまうのでは、全くルールとしてフェアではないのである。

僕は、少なくとも各自治体による路上喫煙禁止ルールの徹底的な緩和を行わない限り、屋内完全禁煙は不可能であると考える。そしてそれは少なくともオリンピックイヤーには間に合わないだろう。

僕としてはいっその事、屋内完全禁煙をできないことをもって、東京でのオリンピック開催を返上してほしいんだけどねぇ。小池と安倍、ついでに猪瀬あたりがマリオのコスプレで世界中のオリンピック委員会を回って土下座行脚すればいいんだから。

*1:今、本当に受動喫煙をなくすには、どうすればいいのか 日本医師会副会長に聞く(BuzzFeed Japan)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170606-00010004-bfj-soci
*2:国内紙巻たばこ月次販売実績速報(JT)https://www.jti.co.jp/investors/library/business/domestic_cigarette/index.html
*3:路上喫煙に過料2000円 賛否両論の「千代田区ルール」は今(NEWSポストセブン)http://www.news-postseven.com/archives/20161031_460681.html
*4:歩きタバコ|広告作品アーカイブ(ACジャパン)https://www.ad-c.or.jp/campaign/search/index.php?id=372&page=74&sort=busine
*5:どうなる?たばこ“新ルール” 広がる波紋(NHK クローズアップ現代+)https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3908/1.html