″みなさんの期待に応えられるよう頑張りたい″~「マッサン」亀山エリー役のシャーロット・ケイト・フォックスさん - BLOGOS編集部
※この記事は2014年11月06日にBLOGOSで公開されたものです
5日、NHKで放送中の朝の連続テレビ小説「マッサン」で玉山鉄二さん(亀山政春役)とともに主演を務めるシャーロット・ケイト・フォックスさん(亀山エリー役)が会見を行った。9月末に放送を開始した同作は5週連続で視聴率20%以上を記録、モデルとなったニッカウヰスキーの「竹鶴」などの商品が品薄状態になっていることも報じられるなど、好調だ。
フォックスさんは1960年に放送が始まった連続テレビ小説史上初めて外国人で主役に抜擢され、いまも撮影が継続中だ。会見には制作統括を務めるNHKの桜井賢チーフ・プロデューサーも同席、フォックスさんの奮闘ぶりを紹介したほか、会場には主人公のモデル・竹鶴政孝氏の孫にあたる竹鶴孝太郎氏も姿を見せていた。
フォックスさんの冒頭発言
両親が今日の私の姿を見たら、どんなに誇りに思ってくれたことでしょう。今日、車に乗ってここ(有楽町の日本外国特派員協会)に来る途中、窓の外の皇居を見てこう思ったんです。「どうして私はここに来ることができたんだろう」って。そして、こう思ったんです「いま私がやってることが、本当に信じられない」と。この会場に入ったときも同じ気持ちでした。私は今日、みなさんの前に座れることができて本当に光栄です。本当にありがとうございます。
オーディションの募集告知を見たのはもう1年以上前でしょうか。
その募集告知にはドラマの名前は書いてありませんでした。「朝ドラ」であることも書いてありませんでした。そこにはただ、ある一人の女性の生涯を追うという内容で、撮影は日本でする、ということだけが書かれていました。
私は「おもしろうそうじゃない、そんな経験めったにできないものだろうし」と思い、応募したんです。それから長い間、何も連絡はありませんでした。
私は当時、女優としてやっていくために、ウェイトレスをしたり、ベビーシッターをしたり、と、生活を支えるためにあらゆる仕事をしなければなりませんでした。
そしてある日、クリスマスの2日前だったでしょうか、一通のEメールを受け取ったんです。そのメールは「日本に来て、スクリーンテストを受けないか」というものでした。そのとき、応募したことは完全に忘れてたんです。最初は、それが現実だと思えませんでした。これは絶対何かのジョークだわって(一同笑)
そして、まだ寝ていた母親の寝室に走っていき、3歳の子供のように飛びついて「日本に行くことになったわ!」と言ったんです。それで、母親もそのメールを見て「どうやらそのようね」って(笑)
日本にはじめていくことになって、すごくこわかったんです。私は日本語がしゃべれないし、初めて一人でスタジオに入り、笑顔の桜井さんに会ったときも「誰この人?」って(笑)
オーディションでは、せりふも忘れてしまって、手足も震えていました。おかしな英語を話し、顔もヘンな顔で。でも演技はやめませんでした。カットといわれるまで続けたんです。スタジオを出るときに見た、桜井さんの顔はいまでも覚えています。
また、ある日、自分の前に150話分の脚本が並べられたことがありました。
私は思いました「これは私をこわがらせるためにあるんじゃないかしら」って(笑)。
でも、同時に、これがこれから私たちのやることなんだ、大変だけど、とてもエキサイティングなことじゃないの、と感じました。
いまやっている全てのことが、私の人生の中で最もハードなことだと感じていますが、同時に、今までの人生で最もやりがいのあることをしているとも感じています。
私は日本に来て、より強い女性になりましたし、強い俳優にもなりました。そして、より強いビジネスマン、ビジネスウーマンと言ったほうがよいでしょうか、になりました。日本は私に全てを与えてくれたんです。桜井さんは私に特別な何かを見出し、このようなリスクをとってくれて、本当に勇気があると思います。彼は私が逃げ出さないということをNHKに証明しなければいけなかったんですからね(笑)。
(冗談で)パスポートも取り上げるんですからびっくりしましたよ(笑)
でも、彼がこんなに信用してくれて、私は本当に幸運です。
そして、いま自分のやっていることに本当に驚かされています。このような信じられないくらい良い環境で、ひとつの芸術に関われることは本当にすばらしいことだと感じています。
先日、大阪でイベントがあったのですが、1500人以上が私たちのトークを見に来てくれました。私はみなさんの優しさに本当に圧倒されました。そして「朝ドラ」がみなさんにとってどういう意味を持つのかを理解したんです。そして、自分の負っている、日本のみなさんやキャストに対する義務を感じました。
これからも、みなさんの期待に応えられるよう、がんばりたいと思います。(日本語で)これからも本当にがんばります。本当にありがとうございます。
桜井賢さんの冒頭発言
連続テレビ小説というのは、日本では"朝ドラ"として親しまれる伝統あるシリーズです。私はその91作目を任され、用意した企画の中で出てきたのが「マッサン」でした。
夫婦のこの波瀾万丈な物語に魅力を感じたんですけれども、実現は相当ハードルが高いだろうとも思いました。
広島、大阪、スコットランド、北海道と、ロケーションを見つけるだけでも大変、しかもヒロインは外国人。当時のウイスキーの製造過程をどうやって再現するのか…。ムリだろう、そんな思いがありました。
昨年の3月にダメ元で上司に企画を見せると、意外にも「良いんじゃないか、実現しよう」と背中を押してくれ、その英断には今でも感謝しています。ゴーサインいただいた時に上司に頂いたのは、「伝統ある朝ドラだけれども、挑戦が必要だ」という言葉でした。「マッサン」も、挑戦の塊のようなドラマです。
シャーロットは、全部で150回、一週間で90分の分量の台本を日本語で演じ、見事なエリーを演じ抜いてくれており、視聴者からも反響が届いています。
彼女が選ばれるにあたって行われたオーディションも朝ドラの伝統です。たくさんの候補者の中から選ばれた原石のような新しい、若い才能が10ヶ月に及ぶ撮影の中でヒロインが成長することと、物語の中で主人公が成長していくのがシンクロしていくのも醍醐味、魅力です。
その中でも、「マッサン」はもっとすごいことが行われているドラマです。
シャーロットの日本滞在は1年に及び、故郷の家族と離れ、その中で日本の言葉を覚え、日本のことを知って奮闘している姿が物語の中のエリーの人生に重なっていくというのが大きな魅力となることを確信していますし、実感しています。
まだまだ撮影が続いてますが、大変幸運と言いますか、ツキに恵まれているなと思います。運無しではここまで至らなかったと感じています。シャーロットに会えたことが宝くじの一等当せんに近い(笑)、そのくらいラッキーなことだと実感しています。
朝ドラの制作で心がけていることは、関わっていただくキャストひとりひとりにとって、作品に参加したことが次の何らかのステップ、未来になれること。そんな仕事としてやり遂げなければいけないと肝に銘じています。
まだまだ道も途上ですから、私もその役割を果たせているかわかりませんけれども、シャーロットさんが大きな未来を切り開けることを祈っています。
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質疑応答
ー日本に来て最も驚いたことは?また、アメリカに帰ったら、日本文化をアメリカ人に教えるなど、何か日米お互いの意識を高めるような活動をしたいと考えているか?
フォックス:みなさん、「日本に来て最も驚いたことは?」という質問をするのですが、もう7ヶ月前のことなので、実際覚えてないんです。もういまは日本が家みたいなものですから。
そうですね、礼儀正しい自己紹介、名刺やお辞儀は新鮮だったでしょうか。
あとは、東京の女性たちが本当に服を美しく着るということでしょうか。彼女たちはこんな(手でヒールの長さを表現して)に高いヒールを履いて、その上自転車に乗るんです。いったいどうやっているのかしら(笑)
アメリカに帰ってからのことは、本当に何も計画がないのです。流れに身を任せたいと思います。何が起こるかわからないですしね。
日本は私に全てを与えてくれて、私の人生の一部となっているので、本当に日本を去るかどうかもわかりません(笑)
ー予算はどのくらいかかっているのか(会場笑)
桜井:予算についてここでは名言するのは避けさせていただきますが(笑)、確かに今回のドラマは、いつもの朝ドラよりもお金がかかりますが、お金かけずにやるには、一度セットを建てたら撮り切ること。つまり、俳優にはより一層厳しい条件がつきつけられることになります。
大阪の「住吉酒造」のセットを建てたら3週間で全て撮り切る。広島では2回建てましたが、9月の3週間で第6週~第15週まで、そのシーンを全部撮りました。その間10年以上の年月が経ち、色々なことがあったことになっており、その中で演じるというのは負担がかかります。この挑戦がいかに厳しく、いかに負担になっているかですが、シャーロットさんは見事に乗り切ってくれています。
ー物語の背景には今も現役の営利企業であるウイスキー会社がある。公共放送であるNHKが、特定企業の物語を扱うことについては。
桜井:ニッカウヰスキーもサントリーウイスキーも美味しくいただいております(笑)。 本当にこの2大企業スポンサーになってくれればプロダクションがどれだけラクかと思いますが(笑)、そんなことは一切ありません。
もう歴史だと思うんですね。80年、90年前の時代の"日本のものづくり"のひとつのモチーフとして、私たちはウイスキーを選ばせてやらせていただいてますけれども、今の時代、どこかちょっと時代が閉塞感があります。元気がない。
僕も子どもを持つ親ですけれども、僕の青春時代は大人になることが楽しみな時代でしたが、今はどこか未来に対して明るいものを見つけにくい。でもかつて日本人には自動車などのテクノロジーで時代を切り開いていくエネルギーがありました。
そのモチーフとして、ジャパニーズ・ウイスキーという歴史の背景をいただきながら、その中で夫婦のドラマを描くということを選びました。結果としてジャパニーズ・ウイスキーが世界中うで売れていただければ、それは素敵なことだと思いますけれども。
ー朝ドラは50年以上にわたって、厳しい時代背景や社会環境の中で生きる女性、働く女性を描いてきた。今、さかんに「女性の社会進出」が言われているが、作品づくりで意識されていることや、視聴者からの反応の変化はあるか。
桜井:今の、女性の生き方が変わってきていることと、このドラマとが何かつながることを感じていたかというと、それはなかったかもしれないです。 もちろんこのドラマの企画を育てるなかで私自身発見したことではありますが、シャーロットさん演じるエリーさんはスコットランドからきた外国人であり、明治や大正の時代背景を背負った時に、実はその目線は現代人の私たち目線であったりするということです。 もちろん亭主関白だったり、今よりももっと強烈な時代だったと思うんですけど、その時代にエリーが「違う」と思うことは、今の我々が「違う」と思うことだったりすると思います。
その中で彼女が「素敵だ」と見つけるものに、古き日本の良さがあること。そこに改めて光を当てることができると、そういうこともこのドラマの仕掛けなのじゃないかなと、脚本の羽原大介さんと話しながら作ってきました。
また、視聴者からの反応にビビッドに反応でするのは難しいので、来年の1月か2月ごろの放送には何か反映するかもしれませんが、確実に収録の中でシャーロットさんから学ぶことはあって、羽原さんと苦労したのは、外国人のメンタリティだったら、こういうときにどう思うんだろう、どう怒るんだろう、ということです。もちろん取材もしているのですが、シャーロットの中でもたくさん違和感があると思うんですね。ですから現場の収録の中で彼女が感じたことを、よりのびのびする表現できるシチュエーションを台本の中で作ってきました。
ー日本の法律やルールおかしいと思ったことは?
フォックス:私は日本に住んではいますが、ずっと撮影してるので、法律について勉強する時間はないんですが、たとえば、タトゥーに対する意識などは日本よりアメリカのほうがゆるい(厳しくない)と感じています。
ースコットランドで撮影する予定は。
桜井:スコットランドに連れて行って撮影をする予算はありませんでした(笑)。残念ながらエリーとマッサンが歩いていたのは、日本のスコットランド・北海道です(笑) もし、このシリーズが大ヒットして、続編があれば、「エリーの里帰り」というエピソードをスコットランドで撮影できるかもしれません(笑)
・NHK連続テレビ小説「マッサン」
・@Charlotte_K_Fox - フォックスさんのTwitter