※この記事は2014年09月01日にBLOGOSで公開されたものです

「バイラルメディア祭り2014夏」レポート

インパクトのある動画や画像を紹介する記事を配信し、Facebookなどのソーシャルメディアで広く拡散させることを狙う「バイラルメディア」が大きな注目を集めている。「自分でコンテンツは作らず、他人のフンドシで儲けようとしている」と批判されることもあるバイラルメディアだが、その影響力が急速に高まっているのは確かだろう。

そんななか、真夏の8月中旬、東京・渋谷で「バイラルメディア祭り2014夏 2015年のメディアの形を考える」と題したイベントが開かれた(主催:サイバーエージェント)。そこには、いま勢いのある国内バイラルメディアの代表が顔をそろえた。CuRAZYの伊藤新之介氏(株式会社LAUGH TECH)、ViRATESの孫良氏(株式会社まさか)、grapeの吉盛央(よしもり・ひろし)氏(株式会社レディア)、そして、BuzzNewsの高木健作氏(WebtechAsia PTE.LTD)の4人だ。競争が激化するバイラルメディア業界で、どう生き残っていくのか。そのサバイバル戦略が明かされた。(取材・構成:亀松太郎、高橋洸佑)

バイラルメディアの運営者たち。左からBuzzNewsの高木健作、grapeの吉盛央、CuRAZYの伊藤新之介、ViRATESの孫良の各氏。 写真一覧

バイラルメディアも「オリジナルコンテンツ」を作る?

イベントでは、それぞれのメディアの説明に続き、注目のバイラルメディアを運営する4人によるパネルディスカッションがおこなわれた。司会が質問をふり、それに各人が答えるという方式で進められたが、最初の質問は「独自コンテンツ」を作るつもりはあるのか、というものだった。

いまネットでは、バイラルメディアの「パクり」が大きな問題となっているが、この分野で先行するアメリカでは、差別化のために「独自コンテンツ」を作る動きがあるのだという。BuzzFeedがその代表例とされるが、日本ではどうなのか。

―バイラルメディアでも独自コンテンツを作っていくという話があったが、画像や動画中心のコンテンツだとそれ自体パクられる可能性もある。そんななかでも、独自コンテンツを作っていこうと考えているのか。

CuRAZY・伊藤:「独自コンテンツを作るとしたら、完全にブランディングとして。どうしても費用がかさむので、ブランディングのためと考えています」

―それはパクられても、ネタ元になっていればよいということか。

CuRAZY・伊藤:「文句は言えないですよね(笑)」

―逆に「オリジナルコンテンツを作らない」という方針のメディアはあるか。

BuzzNews・高木:「うちはたぶん、独自では作らない。ただ、コンテンツメーカーと提携していこうとは考えています。というのは、実際にバイラルメディアを運営していて、バズるコンテンツとバズらないコンテンツはすごく微妙な差だな、と。その微妙な差をゼロイチで作るというのは、ものすごく難しいことだなと感じています。たぶん今のインターネットだと、それを作るコストが見合わないだろうと思います。

アメリカだったら、そのコストに見合うだけの市場規模がありますが、日本だと結構厳しいと感じています。であれば、テレビや漫画などのコンテンツを持っているメーカーさんと組んでやろうというのが、うちの考えですね」

grape・吉盛:「うちは、いまバイラルメディアの主流になっている面白い画像のまとめや感動する動画の紹介をやりながらも、コストが安いものは自分で作る可能性が高いと思っています。
なぜなら、いまYouTubeから動画を拾ってバイラルメディアをやっていて思うんですが、最終的に一番トラフィックを集めるのは、YouTubeなんですよ。どこでバズっても。

簡単にパクられるので、いろんなところが同じネタを取り上げます。バズる要素が高いネタや動画は、どこのメディアで取り上げてもそれなりに伸びるんですよ。しかし、長いスパンで見ると、バイラルメディアがトラフィックを集めるのは本当に一瞬です。一週間も持ちません。半年とか一年というスパンで見ると、最終的には、YouTubeが一番トラフィックを集めていると思いますね。

なので、オリジナルコンテンツもきちんと作っていく。自前で作ったり、ユーザーさんに作っていただいたものを独自の形で投稿していただいたり。そういった路線を含めて、ネタ元になるという点も重視しています。ただ、おっしゃられたように、単に一発バズらせるためのネタを作るというのでは、コストが全然あわないとは言えます」

ViRATES・孫:「ViRATESの場合、もともと一番やりたいことは、ああいうクソサイトを作ることじゃないんです。
大勢の人に見ていただいて、そこの中で少しでもいいから意義のあるものを伝えたい。たとえば『浮いて待て』を映像にしたものを作って、誰かに見てもらえば、それで命が救われるかもしれない。非常にくだらないものを作りながら、そういう独自コンテンツもやっていきたいという感じですね」

「テレビや出版社に僕らの仕組みを使ってもらいたい」

―メディアとしての「今後の戦略」を教えてほしい。

CuRAZY・伊藤:「コンテンツ的に言うと、テレビに近づけれれば、いろいろ試していけるのかなという感じですね」

―テレビ局と何かやっていくとかいうことか。

CuRAZY・伊藤:「それもそうですが、向こうのコンテンツを持ってくるより、こっちで提供するほうがたぶん楽なので、まずはそっちなのかな、と。なんとかテレビのコンテンツを持ってこれたらいいな、とは思いますが」

ViRATES・孫:「僕らはちょっと変わっていて、世の中が少しでもいい方向に行くためにこの媒体を立ち上げたので、たとえばテレビ局とか出版社とか新聞社とかに、僕らの仕組みを使ってもらいたい。その仕組みはまだできていないんですけど、できたらそれを使ってもらって、全体としていい影響が与えられれば、それでいんじゃないかな、と。もしテレビ局が『高いから使わない』とか言うのなら、タダであげてもいいぐらい。
要はそれで、少しでもいいジャーナリズムができればと思っています。『あんなエロサイトを作っておいてなんだ』という話なんですけど、そういうことを本当はやりたいなと思っています」

BuzzNews・高木:「うちは、文脈のあるコンテンツを作っていきたいなと思っています。目指しているのは、テレビと漫画とゲームの時間をリプレイスしていくこと。テレビとかマンガの何がすごいかというと、文脈があることです。たとえばドラマなら、1話を見たら2話も見たいし、次は3話も見たくなる。その一部をパクったとしても、3話目からパクっても意味がない。
そういう文脈のあるコンテンツというのはオリジナル性ができてきて、ファンもついてくるだろう、と。うちもある程度の規模まで行ったら交渉力が出てくると思っているので、そうなったらコンテンツメーカーさんと組んで、そういう文脈のあるコンテンツというのを用意していきたいなと思っています」

―コンテンツホルダーと付き合っていくうえで、どれくらいのユーザー数や規模があれば、交渉力が出てくると思うか。

BuzzNews・高木:「肌感ですが、一つの目安にしているのは1億PVですね。たぶん、そのあたりにいったんアッパーがあるだろうな、と感じています」

―そこまでのロードマップは?

BuzzNews・高木:「年内にはいきたいな、と思っています」

grape・吉盛:「うちのほうでは、いま大手のCP(コンテンツプロバイダー)さんと『そこ専用に作る』という話が実際に進んでいます。

CPさんにとっては、短期間で大量の新しいユーザーを連れてくるという部分にバイラルメディアの魅力を感じていただいているみたいです。CPさんが独自のブランドネームで作って、それをうちが運用させていただくとか、逆にうちをプラットフォームとして使っていただくとか、その辺はまだ詰まっていない段階で、名前も明かせない状況ですが、そういった動きは進んでいます」

―マネタイズの部分も含めて、今後どういう「ビジネス」を組み立てていこうと考えているのか。

CuRAZY・伊藤:「BuzzFeedと同じところを目指していきたい、というのはあります。なので、記事広は力を入れていきたい。でも現状では、国内はブランディング系のところに関心があるというか、そこまでデジタルマーケティングが進んでいないので、まだ無理かなとは思うんですけど。
一年くらいは赤字垂れ流しの状態で、自分たちでバズるコンテンツを再現できる状態までもっていく。そこからマネタイズをしていこうかなと思っています。いまはクリエイトの部分だけとにかく強化というところですね」

ViRATES・孫:「うちの場合は、見ると『なんだこれ』というサイトなので、そういうくだらないところに広告がたくさんあっても、そんなに怒られない。そこで稼いだお金を動画制作とかに使っていく。すでにそういうマネタイズは、広告系で始めています。
あとは『ネイティブアド』。ネイティブアドって、意味があまり分からないんですけど、『ネイティブアドだ』とうちのプロデューサーが言っているので、それはやる感じだと思います」

grape・吉盛:「うちは、広告メインの部分とデータマイニング的な部分を、2本の大きい柱として考えています。なかでも、ネイティブアドとフィード広告をどうしようかといま考えています。グノシーさんを含め、フィード広告でかなりの収益を挙げている事例もあるんですけど、非常にユーザビリティが悪いので、あまりやりたくないなというのが正直なところなんですが。その辺のバランスを取りながらやっていきたいな、と思っています」

BuzzNews・高木:「目指すべきポイントは、テレビ、漫画、ゲームをどれだけリプレイスできるか。いまはFacebookを攻略して、Facebookの時間を奪っているだけなので、そこから次の一歩として、どう上がれるかというのにチャレンジしていきたいなと思っています。マネタイズでいうと、うちはデータマイニングとかはなくて、広告だけで考えています。

ネイティブアドのところで一つ面白い取り組みをしようと思っているのが、ユーザーに広告を作らせてみようということです。ハガキ職人とか、ジャンプの裏のほうに何か面白いこと書く人とかがいますが、ものすごくセンスがあって、面白いなと思っています。ああいう人たちに広告を書かせたらどうなるんだろうというのは、結構興味があります。広告も面白いメディアというのが最強だと思うので、そういうのを目指していきたいなと、いま実際に動き出したりしています」
(左から)BuzzNewsの高木健作、grapeの吉盛央、CuRAZYの伊藤新之介、ViRATESの孫良の各氏。 写真一覧

有名なバイラルメディアは5つぐらいに絞りこまれていく

―いまから「一年後」のバイラルメディアはどういう世界になっていて、その中で自分たちはどの位置にいるというイメージを持っているか。

ViRATES・孫:「どうなるかというのは全くイメージできていないんですけど、バイラルメディアが出てきたときに最初に思ったのは、2ちゃんまとめサイトぐらいの数は出てくるんじゃないかな、ということ。そのなかからすごく有名なサイトができてくると思うので、そういう5サイトくらいに入りたいと思って始めました。BuzzFeedはたぶんコケると思いますが、来年はなんとかそこに残りたい。できれば自分たちのノウハウを既存メディアとかに使っていただいて、少しでもジャーナリズムに貢献できればと思いながら、エロサイトを運営しています」

CuRAZY・伊藤:「最悪のパターンとして『Zyngaショック』(ソーシャルゲーム会社のZyngaがFacebookとの関係悪化により業績を落とした出来事)みたいなことも・・・。Zyngaの場合は『シェアしたらライフが回復します』的なのが、ザッカーバーグから直々にBANされた。ああいうのがこっちにも起きたら、『投資家の人、すみませんでした』みたいな感じになるかな、と思っています。

そのほかでは、単純なFacebook一本のバイラルメディアではなくて、それ以外のチャネルも拡大させていって、トータルでユーザーを獲得できるようなメディアとして成長できたらいいな、というところですね」

grape・吉盛:「うちもViRATESさんとかと同じ考えで、バイラルメディアは本当に誰でも始めることができるけど、その中でそれなりの量を構築していったところが最終的に残っていくんじゃないかな、と。ユーザーさんに最適化したものを届けていくところが最終的に残っていって、大手はいくつかに絞り込まれる。

いまのアメリカのバイラルメディアの動きとかを見ていると、一年後ぐらいには、総合的な大きいところは1つか2つになっていく一方で、専門性が高いニッチな部分のバイラルメディアがもっと頭角をあらわしてきているんではないかな、と思っています」

BuzzNews・高木:「一年後にどうなっているかは、はっきり言って分からないですが、こうなっていたらいいなという理想形はあります。バイラルメディアが本当に面白いものとしてみんなに認知されて、『ゲームをするくらいならバイラルメディアを見よう』とか、『マンガを読むならバイラルメディアを見よう』みたいな形で、既存の楽しいもののリプレイスができていったら、バイラルメディアとして伸びていくだろうなと思っています。

僕は、バイラルメディアは、『検索エンジンからソーシャルメディアへ』という文脈に乗っていると思っています。検索エンジンのときは『役に立つコンテンツ』を作った会社が勝っていた。リクルートがやったようなメディアがどんどん検索で勝っていった。それがソーシャルメディアに移ったとき、今度は『楽しいコンテンツ』を作った会社が勝っていっている。どれだけ楽しいものを作れるかという戦いになっている。

そうなってくると、バイラルメディアの相手は、テレビや漫画や映画といったエンターテイメントだろう、と。そこにいかに勝てるかというのが、バイラルメディア業界としては勝負なんじゃないかな、と思っています」

関連リンク

・バイラルメディア祭り2014夏 ~2015年のメディアの形を考える~ - SHAKE100(シェイクハンドレッド) - サイバーエージェント
・CuRAZY | 笑うメディア - 株式会社LAUGH TECH
・ViRATES [バイレーツ] - シェアしたくなるニュース - 株式会社まさか
・grape -「心」に響く動画メディア - 株式会社レディア REDEA Inc.
・BuzzNews(バズニュース)  | あなたに驚き、感動、笑いを届けます。 - WebtechAsia PTE.LTD

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