テレビ局の中から″バイラルメディア″を作ろうなんて発想は出てこない~元フジテレビ解説委員・安倍宏行氏インタビュー後編 - BLOGOS編集部
※この記事は2014年08月08日にBLOGOSで公開されたものです
元フジテレビ解説員、安倍宏行氏へのインタビュー。前編に続き、後編ではテレビ局におけるネット活用の可能性や、今後のネットメディアについて話を聞いた。「3.11以降、既存メディアの信頼が毀損された」
―テレビ報道がネットで代替される部分もあるのではないかという議論も出てくると思います。テレビマンとしては、ニコ生の"会見全編そのまま生放送"のようなものを見ていて、やっぱり適切に編集した方がいいと思うのか、CMも編集も気にせず全部見ることができるのは視聴者にとっても良いことだと思うのか、どちらなんでしょうか。
安倍:もちろん、そういうことがネットで行われていることは知っていると思いますが、多くのテレビマンは見ていないと思います。局員のネットリテラシーは驚くほど低いですから。僕はTwitterを実名で始めたのも早かったし、利用できるものは利用したほうがいいんじゃないか、というスタンスでしたが。
だからこそ、テレビからネットに配信していくということもどんどんやったら良いと思います。ただテレビの映像をネットに垂れ流すのではなく、ネット用に撮影したものを流すとか、編集し直すのも良いと思います。そんなにお金をかけなくてもいいんですから、ハンディカメラで撮った名物記者の解説動画でも良いと思いますよ。
―ご著書の中で、「テレビはなぜネットに勝てないのか」というトピックがありますが、現実問題として、ネットメディアと比較すれば、取材力もノウハウもリソースも、圧倒的にテレビの方が持っていると思いますが。
安倍:ネットの世界で何が起きているかということも、多くの局員が知らないと思います。例えば、芸能人の薬物問題を追いかけている女性のインタビューが某局のニュースで流れて、ネット上でテレビ局のヤラセ・仕込みじゃないか、と話題になりましたよね。そのテレビ局の知人に「めちゃめちゃdisられてるよ」と伝えて、聞いてみました。一人は幹部、一人は中堅の記者でしたが、「なにそれ?」と言っていましたから。
ネットであれだけ騒ぎになっているですから、「たまたま撮っただけだ」というならば、Twitterの公式アカウントでそうつぶやけばいいと思います。そうしないから、ネット上では"真相は闇の中"みたいになってしまう。「編集してる」「操られてる」「韓流押しだ」みたいな話もそうですよね。中の人は一生懸命、24時間汗水垂らして取材しているのに、気の毒だなと思うんですよ。僕も震災直後、講演で「お前の局は噓ばかり流してんじゃない!」と怒鳴られたこともありますし。
確かに、テレビが相手にしている視聴者の全体からすれば、ネットはクローズドな世界だとは思います。ただ、拡散力もあるし、3.11以降、既存メディアの信頼が毀損された部分もあると思うんです。ネット上で“マスゴミ”と言われるような動きが、加速したという感じがするんです。ただ一方で、それにピンと来てないテレビの中のも大勢いると思いますが…。
元になる記事が劣化していけば、キュレーションどころではない
―予算の制約や環境が厳しくなる現状で、テレビ局は今後どういうコンテンツの出し方、経営が求められるのでしょうか。安倍:ニュース番組が無くなることはないと思いますが、速報性はネットに勝てません。寝る前にネットでチラっと見たものを、朝起きて「今入ったニュースです」と言われても、もう「すでに知ってます」となってしまう。だから、そこにもう一工夫、解説や分析などが必要になると思います。
僕がやっている「Japan In-Depth」も、Yahoo!JapanさんのTHE PAGEのような、ニュースの背景や分析をコンパクトに提供する試みです。
地上波のニュース番組にもそういうコーナーを作って、ストレートニュースの中の何本かは、じっくり解説、分析し、しかも継続して報道するということが大事なんじゃないかなと思います。チャレンジングな話ではありますが、フジテレビの場合、ニュースの視聴率が不調ですし、大きな異動もありましたから、新しい事ができるんじゃないかと思います。
せっかくたくさんの記者がいて、映像の蓄積もあるのですから、それらをうまく有効利用すればいい。それに、もっと記者を画面に出すべきだと思います。それが地上波でできないのであればネットに場を作ればいいでしょう。そうすれば記者たちのモチベーションも上がるでしょうし、もっと取材して掘り下げてやろう、という気持ちにもなると思うんです。活躍の場がない、取材したものを出す場所がないとなると、やる気もなくなりますから。
―現在は、バイラルメディアが話題になっていますが、ネットメディアはオリジナルコンテンツを作る力が弱いので、テレビ局が持っている映像などを活用すれば、優位に立てると思いますが。
安倍:僕もそう思います。ただ、現状のテレビ局の中からそういう発想は出てこないような気がしますね。リスクがあると思ってしまうんだと思いますね。報道局にそんな「新しいことをやれ」と言っても、もともと少ない人数の中からさらに人を割くなんて…となってしまう。
―安倍さんが運営している「Japan In-Depth」とテレビの連携も、面白いのではないでしょうか。
安倍:「映像がこれから来る」ってみんな言うじゃないですか。でも、活字メディアの中に張り付けた映像ってあんまり見られないんですよね。動画専門のバイラルメディアやYouTube、ニコニコ動画などにいけば映像を見るんですが、何故か日本では活字メディアの動画って見られないんですよね。だから何かの工夫が必要だと思いますね。将来はわからないですが。
アメリカのニュースサイトやテレビ局のサイトは、番組をストリーミングしていたり、写真もどーんと大きく、視覚に訴えるデザインになっている。でも、日本の新聞社のサイトはテキストだらけですからね。「Japan In-Depth」は800字目安で、スマホでも読みやすく、ページングもしなくていいようにしています。
―まさに今、ニュース・キュレーション・アプリがブームです。一方で、キュレーションする素材の部分、オリジナルのニュースを作る動きが細ってしまう可能性もある、という議論はあまり見られませんね。
安倍:これはずっと言っているのですが、本末転倒な部分があると思うんですよ。大元のコンテンツを作るところがもっと出てきてもいいと思ってるんですよね。アメリカでは著名な記者がどんどん実験的なサイトを作ったりしているじゃないですか。
日本でそういう動きが出てこない理由の一つには、やはり日本の記者は既存メディアに高給で囲われてるからということがありますよね。でも、みなさん書きたいっていう欲求はあるんですよ。「Japan In-Depth」には産経新聞の記者や、現役官僚、これは匿名ですが、書いています。そういうのを見ていて、生きのいい30代の人なんかにももっと出てきて欲しいですよね。まあ、「給与捨ててやりますか」というと難しい部分があるでしょうが(笑)。
でも、そういう部分に危機感を持って、誰かが警鐘鳴らさないと、「キュレーションだなんだ」ってうつつを抜かしている間に、元になる記事が劣化していけば、元も子もないですよ。
やっぱり良質な記事を量産していくニュースメディアがもっと増えていいと思いますし、私自身も良質な書き手を探すのが毎日の至上命題です。きちんとPV稼いでくれる記者という意味では、皮肉なことにPVが視聴率に取って代わっているわけですが、一つの指標ではありますからね。中国・韓国ネタが喜ばれるのはどこのメディアだってそうだと思いますが、そういう記事ばかりになると、自分で自分の首を締めることになると思うので、あまりPVは稼がないけれども、いろいろな書き手を揃えて、多様な視点を提供しようと頑張っています。
―本日は、どうもありがとうございました。
■プロフィール
安倍 宏行(あべ ひろゆき)ジャーナリスト、「Japan In-Depth」編集長。1955年東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、日産自動車入社。1992年フジテレビ入社、報道局取材センター記者。経済担当キャップ、政治担当キャップ、ニューヨーク支局特派員・同支局長、経済部長を経て、2006年解説委員。2002年からはニュースジャパンのキャスター、2009年からはBSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターも務める。2013年9月、フジテレビを退社、株式会社安倍宏行を設立。
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