「働く者を犠牲にする成長戦略は描くべきではない」 連合・古賀会長が「雇用規制緩和」政策を批判 - BLOGOS編集部
※この記事は2014年01月21日にBLOGOSで公開されたものです
労働組合の全国中央組織である「連合」の古賀伸明会長が1月17日、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見をおこなった。安倍政権が進めようとしている「労働分野の規制緩和」について、「働く者を犠牲にするような成長戦略は描くべきではない」と批判し、雇用や派遣労働の規制緩和に反対する姿勢を鮮明にした。当日の古賀会長のスピーチをまとめて、以下に紹介する。(取材・構成/亀松太郎)
「解雇の規制緩和」よりも「雇用の創出」を優先すべき
一昨年12月に現在の自公政権が発足すると、いわゆるアベノミクスの三本目の矢としての「成長戦略」を描く中で、労働分野の規制緩和が叫ばれるようになった。成熟産業から成長産業へ、失業なき円滑な労働移動をはかるために、行き過ぎた雇用維持から労働移動支援型へという政策シフトが行われ、最初に検討されたのが「解雇規制の緩和」だった。しかし連合としては、労働移動のためには、解雇規制の緩和を行うよりも先に「雇用を作る」ことが優先されてしかるべきだと考えている。つまり、優先順位が全く違う。しかも雇用労働分野の政策は、働く者の代表が参加しない政府の各種会議で議論されている。
たとえば、一定額の金銭の支払いをすれば、使用者が労働者を自由に解雇できるという「解雇の金銭解決」。これは国会でも議論され、政府は「事前型の解雇の金銭解決」と名づけたが、世界中をみても、事前に金銭を払えば自由に解雇できるという法律を持っている国はない。
また「限定正社員制度」の議論も問題がある。これは、勤務地や職務を限定して雇用される正社員のことで、これまでも非正規労働者のキャリアアップをはかるための人事制度として、労使で十分に話し合いながら導入してきた。
現在もそういう条件で働いている社員は多くいて、連合はそのような働き方をすべて否定しているわけではない。しかし今の政府から、正社員制度改革だとか、解雇ルールの見直しという文脈で改めて提案されたことから、急に生臭い議論になった。
限定正社員の場合は、勤務地や職務が消滅したことを理由に労働契約を終了しても、解雇権を濫用したことにならない、つまり「解雇しやすい社員を増やす」という目論見で議論が提起されたのだと、私たちは考えている。
「日本型新裁量労働制」は格差の拡大につながる
最近は「日本型新裁量労働制」という労働時間規制の緩和も検討されている。その中身は、わが国独特のみなし労働時間による裁量労働制ではなくて、労働時間規制の適用除外、すなわち「ホワイトカラー・エグゼンプション」のようだ。これはわが国ではかつて「残業代ゼロ制度」と言われて、政府が導入に失敗しているのだが、それがまた出てきた。こうした提案の内容は、雇用が不安定で処遇の低い労働者を増やし、格差を拡げる可能性がある。私たち連合は、こうした内容が明らかになるたびに、政府や国会、世論に対して問題点を指摘してきた。
すると今度は、全国区では困難が多いので、地域限定で規制緩和をしようという「国家戦略特別区域制度」を創設するという新たな提案が出てきた。その特区内では、雇用契約の条項として「解雇の要件や手続き」を設けて、それを裁判規範とする法改正を行う――そういう内容の提案がなされた。
さらに特区内では、「残業代をゼロにする」という提案もでてきた。外国企業の立地を促進するのが、その目的とされている。だが、外国企業は本当にこういう地域に進出したいと思ってるのかどうか、疑問だ。
むしろ日本国内に一箇所でも労働者保護ルールが緩い地域を作れば、全国でワークルールの引き下げ競争が起こることを私たちは憂慮している。また、地域によって異なるルールが適用されるのは、法の下での平等を定める憲法にも反するのではないかと思う。
昨年12月に国家戦略特別区域法が成立したが、世論の動向もあって、政府・与党は結局、外国企業などに雇用ルールをアドバイスする「雇用労働相談センター」を特区内に置くことを盛り込んだぐらいでとどまった。
雇用の安定が「経済成長」のために不可欠
だが、いま進められている雇用労働分野の規制緩和は、これだけではない。たとえば、厚生労働省の審議会では「労働者派遣法の規制緩和」が提案され、公労使の三者間で、現在も攻防が続いている。派遣労働は世界各国で導入されているが、世界標準というべき二つのルールがある。一つは雇用と使用の分離した派遣労働は、臨時的・一時的だということ。もう一つは、派遣先の同一業務の労働者と派遣労働者の均等待遇の原則だ。EUの派遣労働指令にもとづくEU諸国はもちろん、中国や韓国でもこのルールは導入されている。
しかし、いまの政府案には、このルールは実質的に盛り込まれていない。世界標準の二つのルールが担保されなければ、派遣労働は使い勝手のいい労働力として活用され、一生派遣で低賃金という労働者が急増していく可能性が十分ある。
政府の産業競争力会議では「雇用分野の規制は岩盤規制だ」と言って、日本経済の復活のために、雇用規制は打ち破らなければならないものだと考えられているようだ。しかし、生身の人間の営みである労働をモノやカネと同列において、人が当たり前の生活を営むための最低限度のルールまでも「岩盤規制」とか「既得権益」と非難し、働く者を犠牲にするような成長戦略は描くべきではない。
日本は就業者の約9割を雇用者が占める「雇用社会国家」だ。雇用の安定と質の向上こそが、経済の安定と成長にとって、最も重要な要素だと考えている。働く者が安心して暮らせるように、私ども連合は全力を挙げて、安定的なワークルールを守り、すべての労働者がディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現できるようにする。そのことを推進するのが、我々の社会的使命だと考えている。