眼圧が高まるなどの理由で視神経が圧迫されて視野障害が広がる「緑内障」は、失明の原因となり得る病気です。この緑内障に有効な薬剤を内蔵し、眼圧を感知して放出するスマートコンタクトレンズを、中国の研究チームが開発しました。

Intelligent wireless theranostic contact lens for electrical sensing and regulation of intraocular pressure | Nature Communications

https://doi.org/10.1038/s41467-022-29860-x

'Smart' Contact Lens Could Help Treat a Leading Cause of Blindness, Scientists Say

https://www.sciencealert.com/newly-developed-smart-contact-lens-could-treat-the-second-leading-global-cause-of-blindness

緑内障は、視覚情報を脳に伝える視神経に障害が生じ、不可逆的な視力低下や失明を引き起こす眼科疾患群の総称で、世界中で数百万人がかかっているといわれています。視神経に障害が生じる理由にはさまざまありますが、何らかの理由で眼圧が高まって視神経が圧迫されると緑内障になると考えられており、緑内障の治療には、眼圧を下げるための点眼薬、あるいはレーザー治療や外科手術が行われます。

しかし、眼圧は活動状態や睡眠・覚醒の周期によって変動するため、定期的な監視は非常に難しく、緑内障の初期症状が周辺視野に現れることが多いため、早期発見しづらいとされています。

そこで、目にピッタリと密着するコンタクトレンズが、緑内障をはじめとする目の病気に対する治療法として注目を集めています。ただし、小型で柔軟性があり非常に薄いコンタクトレンズに電気回路やセンサーを組み込むのは非常に難しいものがあります。

中山大学のチェン・ヤン氏らの研究チームは、目に刺激を与えないように複数のセンサーを埋め込み、レーザーカットで雪の結晶のようなデザインを持つコンタクトレンズの製造に成功しました。このレンズは急性閉塞隅角緑内障の治療用に設計されているとのこと。



開発されたコンタクトレンズは、抗緑内障薬であるブリモニジンでコーティングされており、極薄の空気膜を挟み込んでいるとのこと。この空気膜を電気回路にひっかけて、眼球からの圧力で空気膜が圧縮された時に眼圧の変化を感知するという仕組み。そして、イオン導入という技術でブリモニジンがレンズの裏側から眼球に処方されるという仕組み。

記事作成時点で、このコンタクトレンズはブタとウサギの眼球でテストされているだけで、ヒトでの臨床試験を行うにはもう少し時間がかかる模様。しかし、ブタとウサギの眼球を用いたテストでは、予定通りにブリモニジンを眼球に送りこみ、眼圧を急速に下げることに成功したと研究チームは報告しています。

ヤン氏は「このスマートコンタクトレンズの方法は、他の眼科疾患にも応用できる有望な治療法となり得るものです。また、コンピューターの回路基板の大規模でコストパフォーマンスのよい製造プロセスと互換性があり、他のスマートコンタクトレンズよりも比較的容易に製造することが可能です」と述べました。