【▲ 火星のエリシウム平原に設置されている火星地震計「SEIS」(中央のドーム状の装置)(Credit: NASA/JPL-Caltech)】


アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)は5月9日付で、NASAの火星探査機「InSight(インサイト)」がマグニチュード5と推定される火星の地震(火震)を検出したと発表しました。JPLによると、今回発表された地震は火星での観測史上最大の規模となります。


■発電能力の低下に悩まされつつも成し遂げられた延長ミッションでの成果

2018年11月にエリシウム平原へ着陸したインサイトは、火星の内部構造解明を目的に開発された探査機です。着陸翌月の2018年12月に設置された火星地震計「SEIS」(Seismic Experiment for Interior Structure)は、今回の発表までに1313件の地震を火星で検出しました。SEISが検出した地震波の解析によって、火星のコア(核)が液体であることをはじめ、コアのサイズ、地殻の厚さなどがこれまでに判明しています。


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【▲ NASAの火星探査機「インサイト」の想像図。左手前に置かれているドーム状の装置が火星地震計「SEIS」(Credit: NASA/JPL-Caltech)】


JPLによると、マグニチュード5と推定される地震は2022年5月4日に発生しました。これまでに検出された火星の地震で規模が最大だったのは、2021年8月25日に発生したマグニチュード4.2(推定)です。マグニチュードの数値は地震のエネルギーを対数で表したものであるため、マグニチュード5の地震で放出されたエネルギーはマグニチュード4.2の約16倍となります。


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インサイトの主任研究員を務めるJPLのBruce Banerdtさんは「SEISが設置されて以来、私たちは大きな揺れを待っていました。この地震は他に類を見ない惑星内部への視野をもたらしてくれるに違いありません。火星に関する新たなことを学ぶために、研究者たちは今後何年にも渡ってこのデータを分析するでしょう」と語っています。


【▲ インサイトが2022年5月4日に検出したマグニチュード5の地震の震動記録(Credit: NASA/JPL-Caltech)】


今回発生したマグニチュード5という地震の規模は、インサイトのミッション中に検出されると予想されていた規模の上限に近いといいます。インサイトのミッションはもともと着陸から2年間(火星での約1年間)の予定でしたが、2022年12月まで延長されており、今回の地震検出は延長されたミッション期間中の重要な成果のひとつとなりました。


ただ、インサイトは発電能力の低下に悩まされ続けています。インサイトの太陽電池アレイの上には火星の砂が積もっており、特に大気中の塵が増える冬の間は、得られる電力がより少なくなってしまいます。


【▲ 2019年3月と4月に撮影された画像を使って作成されたインサイトのセルフィー。着陸から半年も経っていないが、すでに太陽電池アレイを覆う埃が目立つ(Credit: NASA/JPL-Caltech)】


JPLによると、マグニチュード5の地震を検出した数日後の2022年5月7日には、インサイトのシステムがセーフモードに切り替わる電力の基準値をわずかに下回ったといいます。積もった砂が塵旋風に吹き払われない限り、延長ミッションを最後まで続けるのは困難な状況のようです。


なお、NASAは米国東部夏時間2022年5月17日14時(日本時間5月18日3時)から、インサイトの成果や電力の状況、そして今後のミッションに関するメディア向けのテレカンファレンスを予定しているとのことです。


 


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Image Credit: NASA/JPL-CaltechNASA/JPL - NASA's InSight Records Monster Quake on MarsNASA - NASA to Provide Update on InSight Mars Lander

文/松村武宏