アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間4月12日、NASAの火星探査機「MAVEN(メイブン)」のプロジェクトとアラブ首長国連邦宇宙機関(UAESA)の火星探査ミッション「エミレーツ・マーズ・ミッション(EMM)」が、科学的協力と観測データの交換に向けたパートナーシップに合意したことを明らかにしました。


現在、アメリカとアラブ首長国連邦(UAE)はどちらも火星の大気を調べる探査ミッションを実施しており、MAVENとEMMのパートナーシップがもたらす科学的なメリットに期待が寄せられています。


【▲ NASAの火星探査機「MAVEN」の想像図(Credit: NASA)】


古代の火星は表面に海や湖ができるほどの水があったと考えられていますが、現在の火星は大気が薄く、表面から液体の水も失われています。NASAのMAVENは時間とともに変化した火星の気候についての洞察を得るために、火星の上層大気と電離層を観測しています。MAVENはユナイテッドローンチアライアンス(ULA)の「アトラスV」ロケットを使って2013年10月に打ち上げられ、2014年9月に火星の周回軌道へ入りました。


MAVENの主任研究員を務めるカリフォルニア大学バークレー校のShannon Curryさんは今回の合意を受けて、火星の上層大気と下層大気の結びつきや、上層大気から宇宙空間へと大気の一部が失われることによる下層大気への影響をより良く理解できるでしょうとコメントしています。


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【▲ UAESAの火星探査機「HOPE」の想像図(Credit: UAE Space Agency)】


UAESAのEMMは、UAE初の火星探査機「HOPE(ホープ)」(※)による火星探査ミッションです。HOPEは火星を約55時間で1周する軌道を周回しており、火星の上層大気と下層大気の関係性をより深く理解するための観測を行っています。


※…アラビア語で「アル・アマル」とも、アル・アマルは日本語で「希望」の意


HOPEは日本の「H-IIA」ロケット42号機によって日本時間2020年7月20日に打ち上げられ、2021年2月10日に火星の周回軌道へ入りました。ちなみにHOPEが火星に到着したのと同じ日には、中国の火星探査機「天問1号」も火星の周回軌道へ入っています。


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【▲ 火星探査機HOPEの「EXI」を使って2022年1月5日に撮影された火星(Credit: Emirates Mars Mission/EXI)】


この画像は、HOPEに搭載されている多波長イメージャー「EXI(Emirates eXploration Imager)」を使って2022年1月5日に撮影された火星です。撮影時の高度は約4万500kmで、HOPEはちょうど明暗境界線(昼夜の境目)を見下ろすような位置にありました。


画像には2つの巨大な砂嵐が捉えられています。1つは幅約2500kmで、東から「大シルチス」(昼側の中央付近に見える南北方向に伸びた暗い地域)に迫っています。もう1つは幅約2300kmで、南半球の巨大な衝突盆地「ヘラス平原」を覆い隠してしまっています。


EMMのプロジェクトディレクターを務めるOmran Sharafさんは、EMMは発足当初から強力な国際協力とパートナーシップによって定義されたプロジェクトであり、他の火星探査ミッションと共に取り組み、観測データを共有することでより深い洞察を導き出し、パズルをつなぎ合わせるための機会を喜んでお受けしますとコメントしています。


 


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Image Credit: NASA, UAESA, Emirates Mars Mission/EXINASA - NASA, UAE Mars Missions Agree to Share Science DataUAESA - Emirates Mars Mission

文/松村武宏