ちょっとしたことで怒っては、学校の友達とケンカになる。ときには、勢い余って、相手を殴ったり、蹴ったりしてしまう…。これまで、そんな問題行動をとる数多くの子どもたちの背景と向き合ってきたのが、児童精神科医の宮口幸治先生です。そんな宮口先生に、キレやすい子どもたちへの対処法を伺いました。

キレやすい子どもの問題行動を減らす3つのトレーニング

 

●感情を数値化し怒りをコントロールするトレーニング

「他人に手を出したり、暴言を吐いたりする子たちの多くは、他人のなにげない所作や言動に対して、『バカにされた』という怒りが原因にあります。逆に言えば、原因をたどって子どもたちが自分の怒りを客観視しコントロールすることができれば、問題行動を減らすこともできるのです」

では、どうしたら怒りを客観視しコントロールできるのか。そこで、宮口先生がまず紹介するのは、少年院などでも実際に行われている「違った考えをしよう」のトレーニングです。

「必要なのは、“この一週間にあった嫌な気持ち”を記載できる1枚のシートと鉛筆だけです。そこに、この一週間に起きた嫌な出来事について、具体的に『いつどこでなにが起こったのか』『その出来事に遭遇した時、自分はどう思ったのか』『どんな気持ちになったのか』。また、『その感情をパーセンテージにすると、どのくらいだったのか』を確認しながら、怒りをコントロールする練習をしていきます」

たとえば、自分の子どもが友達とケンカになった場合。なぜそんなことが起こったのかを、下記のような形で分析してもらいましょう。

【いつどこで】 例)3月1日に廊下で

【なにがあったのか】 例)Aさんがすれ違ったときにぶつかってきた

【どうしたか、どう思ったか】 例)そのとき、僕のことがきらいでわざとぶつかってきたんだと思った

【どんな気持ちで、何%くらいの強さだったか】 例)怒り80%

 

こうやって具体的に起きた出来事を言語化し、数値することで、子ども自身が、自分の感情を客観的に整理することができるのです。

 

●「怒り」以外の別の考え方を、いかに見つけるかを学ぶ

次に、このトレーニングにおいて大切なのが、「別の視点で、その状況をとらえなおす」ということ。

「自分の怒りの理由を実際に確認した後に、ほかの見方ができないかを聞いてみましょう。たとえば、相手がワザとぶつかってきた』のではなく、なにかにつまずいただけという可能性があります。この可能性を思いついて、『そこに悪意はなかったんだ』とわかれば怒りはかなり収まるはずです」

こうやって物事の見方を変える訓練をすると、「ワザとぶつかられてにらみ返した。このとき怒りを80%感じた」と答えた子も、「ワザとでなく、つまづいてぶつかったならばしかたがない。自分にも経験がある。その場合は、怒りは20%に下がる」と回答するようになるそうです。

「トレーニングを通じて、『もしかしたら自分の勘違いかもしれない』と一度立ち止まって考えてみる経験を積むことで、怒りの度合いを減らすことができます。少年院の子たちはとにかくキレやすい子が多いのですが、このトレーニングを続けることで、頭の中で怒りがコントロールできるようになって、ほとんどキレなくなった少年もいます。一般の学校に通う子であっても、日頃から怒りを感じやすい子には、なおさら効果があると感じます」

●解決方法を増やすための「問題解決トレーニング」

続いて、宮口先生がおすすめするのが、「問題解決トレーニング」です。

「『問題解決トレーニング』は、社会で困った場面に遭遇した時に思考を柔軟にして、自分の力で解決していくための訓練です。問題行動を起こす子どもたちの中には、思考の柔軟性が乏しく、問題を起こしやすい子もいます。

たとえば、『お金がない』という問題があるときに、『人から取る』という解決方法しか浮かばないと、仮にそれが間違った行動であっても、その選択を繰り返してしまいます。そこで、『取る』以外に、『節約してお金を貯める』『だれかからお小遣いをもらう』などの選択肢が浮かべることができれば、問題行動はぐっと減っていきます」

 

●解決方法を教えるのではなく、自分の頭で考えさせる

頭に浮かぶ解決方法を増やすため、効果的なトレーニングが、「自分が困っているシチュエーション」をいくつか想定し、それをどうやって解決するかを考えていくというもの。

「たとえば、『ケンカをしてお互いに会いたくないと言っているAさんとBさん両方に、自分の誕生日会に来てもらうには、どうしたらいいのか』などというシチュエーションで、自分ができる解決策を考えてもらいましょう。実際にこのトレーニングを行ってみると、子ども側からは『お菓子をあげて二人が来てもらう』『AさんとBさんの両方に、嘘を伝えて来てもらう』など、現実社会では通用しなさそうな回答が出ることも多いです」

ただ、ここで重要なのが、簡単には正しい解決方法を教えないことなのだと、宮口先生は続けます。

「正しい解決方法を教えることは簡単ですが、それはしません。なぜなら、いくらいい方法であっても、彼らが実生活で使えなければ意味がないからです。自分たちの頭で考えるからこそ、意味がある。彼らが等身大で出した解決方法を選ばせ、結果を予測させる。その予測した方法でその方法がうまくいくかを判断し、ダメだったらまたほかの方法を考えてもらう。一番大切なのは、いかに柔軟に、いろんな案を出すことができるかです。柔軟な案を自力で出せないと、いくら失敗しても同じ手法しか選べませんから」

 

●学習の土台をつくる「認知機能強化トレーニング」

そして、最後に実践してほしいのが、学習の土台をつくる「認知機能強化のトレーニング」です。認知機能とは、記憶や言語理解、注意力、知覚、推論や判断などのこと。これら認知機能を高めることが、問題行動を減らすことにつながるのだとか。

「運動でたとえると、鉄棒や跳び箱を飛ぶためには、テクニックだけでは困難です。筋力や持久力、集中力などの基礎体力が必要です。認知機能は、まさに学校での各教科を理解する上での基礎体力のようなもの。認知機能が弱いのは、筋力や持久力がほとんどないのに野球でピッチャーをやれというのと同じです」

基礎体力となる認知機能が弱いと、勉強についていくのが難しくなり、結果、挫折経験が増えて、問題行動にもつながり、非行などに走ってしまう子も決して少なくないのだとか。では、認知機能を強化するにはどんなトレーニングが有効なのでしょうか?

「認知機能を強化する前に、その子の認知能力の特性を知っておく必要があります。そこでアセスメントとして活用できるのが、例えば立体図の模写や『ケーキを3等分するにはどうしたらいいか』、特定の記号をできるだけ早く数えるなどといった問題です。実際にやらせてみてその子の弱いところが分かれば、そこに特化したトレーニング(例えばコグトレなど)を通じて、周囲の大人たちは、その子に合った適切なケアを行うことができます」

 

「原因はよくわからないけれども、最近、うちの子がキレやすい」と感じる人は、ぜひ上記トレーニングなどを実践してみてはいかがでしょうか。