欧州車を中心に設定されてきた「クリーン・ディーゼル」が逆風に立たされています。ハイブリッドと同様に、環境対応技術として推進されてきたディーゼルに未来はあるのでしょうか。

欧州車はなぜディーゼル推しだったの?

 2010年代中盤、欧州車ブランドの多くは「ディーゼル車はいいですよ」としきりとアピールしていました。おすすめの理由は「燃費がいい」「低回転からの力強い加速」「燃料費が安い」といったものです。また、「かつてのようにまっ黒な排気ガスは出ません」と、“クリーン・ディーゼル”という呼び方も生まれました。


マツダCX-5。マツダ車の多くはディーゼルモデルをラインアップしているが、米国向けの後継車であるCX-50はディーゼルが設定されない(画像:マツダ)。

 実際に、ディーゼル・エンジンは、低回転域で力強いトルクを生み出すため、車両重量の大きなクルマに搭載すれば、大柄のクルマを軽快に走らせることができ、さらに高速走行中のエンジン回転数を抑えることで燃費や快適性を高めることができます。また、燃費性能でもガソリン・エンジンよりも上回ることが多く、そもそも燃料となる軽油も安いというメリットがあります。

 つまり、走りがよくなって、しかも経済的。特に高速道路を長距離巡航するという使い方に、ぴったりなエンジンだったのです。そのため、欧州ブランドの多くは「環境問題(燃費の向上)はハイブリッドではなく、ディーゼル・エンジンで対応する」という姿勢をとっていました。

 ところが、2015年にフォルクスワーゲンによる違法ソフトウェアを使った規制のごまかし、いわゆる“ディーゼル・ゲート事件”が発覚。ディーゼル・エンジンに対する印象は最悪なものとなってしまいます。その後、フォルクスワーゲンは環境問題対策の方針を、ディーゼルからEVへと一転。そして、この流れを、他の欧州ブランドも追従します。日本車がハイブリッドで環境問題を解決しようというのに対して、欧州勢は、それを飛び越えてEVに向ったのです。

 ちなみに欧州勢がハイブリッドをやってこなかったわけではありません。ただ、欧州勢のハイブリッド車は日本のハイブリッド車ほどの好燃費を実現することができませんでした。これもハイブリッドを飛び越えてEVに向った理由のひとつのはずです。

 では、もうディーゼルは、終わった技術なのでしょうか?

メリット多大なディーゼル でも結局はコスト…?

 それを考察する前に、ディーゼル・エンジンとは、どのようなものかどうかを振り返ってみましょう。

 まず、ディーゼル・エンジンの良いところは何でしょうか。ざっと挙げれば、以下のようになります。

・低回転で大きなトルクが出る=大型で重いクルマに向いている。
・トルクが大きいから、低回転でも高速走行ができる=高速巡行中のエンジン回転数を低く抑えることができる=快適。
・燃費向上の余地が大きい。
・原油を精製する過程で、軽油ができるので、それを使わないのはもったいない。
・軽油は安くて経済的。

 続いてはデメリットです。

・排気ガスをきれいにするのが大変=浄化装置が必要で、お金がかかる。
・不快な音や振動が大きい=対策にお金がかかる。
・現状の燃費性能では物足りない=さらなる性能向上が必要。


フォルクスワーゲン8代目ゴルフ。2022年1月にディーゼルモデルが追加された(画像:フォルクスワーゲン)。

 ちなみにディーゼル・エンジンの燃費性能向上の方策にハイブリッド化があります。ガソリン・エンジンと同様にディーゼルもハイブリッド化すれば、飛躍的な燃費性能向上が期待できるのです。

ただし、もともとディーゼル・エンジンは高いという悪条件があり、それにさらにハイブリッド化をすれば、もっと高くなってしまいます。つまり、ディーゼル・エンジンの最大の問題は“高コスト”ということでしょう。

ディーゼルは今こそ乗るべき?

 この“高コスト”という問題をクリアするのに必要なのは競争でしょう。数多くの自動車メーカーがディーゼル・エンジン車を販売し、性能や価格の競争を行うのが一番です。ところが現状では、欧州勢はエンジン開発から撤退。アメリカのメーカーは、もともとディーゼルには熱心ではなく、日本メーカーも全体としては及び腰という状況です。

 かつてディーゼル・エンジンを搭載していた「エクストレイル」を販売していた日産も、現状のエクストレイルはエンジンとハイブリッド車のみとなりました。三菱自動車は、ディーゼルを搭載した「パジェロ」が廃番となり、今ではディーゼル・エンジン車は「デリカD:5」のみという寂しい状況です。


三菱デリカD:5。ディーゼル・エンジンはアドブルー(尿素水)を使う尿素SCRシステムを採用(画像:三菱自動車)。

 ただし、トヨタは、「ランドクルーザー プラド」「ランドクルーザー」「ハイラックス」という大型のSUVには、依然、ディーゼル・エンジンを搭載しています。また、マツダは「MX-30」と「ロードスター」以外の全車種にディーゼル・エンジンを搭載。国内で最もディーゼル・エンジンに力を入れるメーカーとなっています。

 また、バイオマス由来のカーボンフリーのバイオ・ディーゼル燃料の研究も進んでいます。これが本格的に実用化されればディーゼル・エンジンでもカーボンフリーを実現できるかもしれません。

 とはいえ、世界を見わたしてみれば、今やディーゼルを熱心にやっているのは、ごく一部というのが現状。そんな寂しい状況では、ディーゼルの競争が盛り上がるはずもありません。つまり、ディーゼル・エンジンが直面する“高コスト”という問題をクリアするのは相当に厳しいと言えます。

 マツダは頑張っていますが、この先のディーゼルの未来は、決して明るいものはありません。そういう意味で、ディーゼル・エンジン車に乗りたいのであれば、早いうちがよいのでは。迷っているなら、さっさと購入するべきではないでしょうか。