イタリア料理のプロに訊く! 和食とは全然違う「タイ」の捌き方・調理法の違いとは?
食楽web
魚が美味しい季節です。日本人の多くは、「魚」と言えば寿司や和食としていただくのが一番! と考える人が多いと思いますが、世界中には魚を使った料理は無数にあり、特にイタリアでは、魚の素材を活かした定番メニューが数多くあることで知られています。
しかし、日本人・イタリア人双方にとっての「魚料理」に対する考え方はどんな点が同じで、どんな点が違うかまではよくわかりません。また、例えば「鯛」丸ごと一匹を使い、どれだけのイタリア料理に転じることができるのかも、慣れていないとなかなか見えてこないものがあります。
京成高砂『トラットリアた喜ち』の須堯泰彦シェフ。若い頃にイタリアの各地を巡り、「日本人の口にイタリアンは合う」と確信。以降、複数のイタリア料理店で調理の経験をし、2008年に独立し出店
そこで今回は、東京・京成高砂にあるイタリア料理の名店で、特に魚料理が人気の『トラットリアた喜ち』の須堯泰彦(すぎょうやすひこ)シェフに教えを請い、そのなんたるかを学ぶことにしました。
和食・イタリア料理に共通するものは何?
そのときどきの魚の仕入れでメニューが変わるのも『トラットリアた喜ち』の楽しいところ。写真はメカジキとチェリートマトとバジルのペペロンチーノ
須堯シェフは「イタリア料理は日本人の口に合う」と確信し、料理人としての人生を捧げることになったそうです。
「和食・イタリア料理に共通するのは『素材を大事に使う』というところ。特に『魚』料理は鮮度が一番ですけど、この点ももちろん和食・イタリア料理に共通します。そのため、当店では小田原港から料理の素材となる魚を直接仕入れています。
季節ごとに採れる魚は違いますが、例えば冬の今の時期にお店に入っているのはカンパチ、ヤガラ、タチウオなど。カンパチ、ヤガラはカルパッチョにしてお出し、タチウオはソテーにしてソースを添えてお出ししたりします」(須堯シェフ)
『トラットリアた喜ち』には季節ごとに様々な旬の魚が入ってくるそうですが、通念を通して比較的入荷されやすいのが「鯛」だそうです。
「鯛は、生でもヨシ、焼いてもヨシ、煮てもヨシの魚ですので、すごく重宝しています。崩れた身はパスタの具材にもできますし、骨だけでも十分な出汁が出ます。当店のリゾットは鶏ガラと仔牛骨で出汁を取ったものをお出ししていますが、鯛だけの出汁のリゾットも美味しいと思います」(須堯シェフ)
丸ごと一匹の鯛から転じることができるイタリア料理は5品以上!
「鯛は入手しやすい上、様々なイタリアンを作ることができます」と須堯シェフ
確かに鯛はスーパーマーケットの魚売り場で丸ごと一匹のものを年間通してよく目にしますし、なくても注文すればすぐに仕入れてくれるという日本人にとって親しみやすい魚でもあります。サイズによるものの、それでも丸ごと一尾1000円台から買うことができます。
前述の須堯シェフの話と合わせて考えれば、たった1000円台の魚から様々なメニューを作ることもできそうです。果たして丸ごと一尾の鯛からどれだけのイタリア料理に転じられるのでしょうか?
「カルパッチョ、兜焼き、ソテー、アクアパッツァ、パスタなど。これらに加え、リゾットの出汁にすることもできますから、5品以上はできると思います」(須堯シェフ)
特に日本では高級料理の先入観もあるイタリア料理の代表的メニューを、丸ごと一尾の鯛からこんなに転じられるとは! もちろん、そのためには技術はもちろん、調理に使う素材が必要にはなってきますが、料理好き・イタリアン好きの人なら自力で調理してみる価値はありそうです。
イタリア料理の魚のおろし方。和食のそれとの違いは……?
ただし、丸ごと一尾の鯛を買い、イタリア料理にしてみようと思っても当然「身おろし」の作業も自分でやらなければいけません。この「身おろし」、日本とイタリアとでは何かやり方が違うのでしょうか。
「私はイタリア料理しかやったことがないので、和食での『おろし方』の細かいセオリーはわかりません。ただし、普通にご家庭でもやられているような三枚おろしのやり方で十分で、当店でもそうしています。主だったコツ、注意点で言えば『鯛は骨が太いので、ちゃんとした出刃を使ってね』『背びれに手先が刺さったりしないように気をつけてね』くらいです。ですので、和食もイタリア料理も『鯛のおろし方』は同じと考えていただいて良いと思います」(須堯シェフ)
須堯シェフに鯛の身おろしを実践していただきました。まずウロコを丁寧に取ります。「魚を水に漬けると良くない」と言われていますが、須堯シェフによれば「ウロコ取りの際は冷水を浴びさせると、飛び散らないで良い」とのこと。ウロコを綺麗に取ったら頭を落とし、さらに内臓を取ります。頭を調理に転じる場合は、エラを取り、綺麗に水で流します。
身のほうは、背びれに沿って包丁で軽く「切るライン」を入れた後、中骨まで綺麗に包丁を入れていきます。背びれのほうが切れたら、尾びれのほうも同様に包丁入れ、骨から身だけを取り出します。ここまでがいわゆる三昧おろしの方法です。
「素材には謙虚であれ」が須堯シェフの唯一のこだわり
完成した鯛のソテーを乗せたリゾットと、兜焼き。兜焼きにはニンニク、ケッパー、バルサミコなどを合わせたソースをつけていただきます
須堯シェフに鯛をおろしていただいた後、試しに兜焼き、鯛のソテーを乗せたリゾットも調理していただきました。
「兜焼きは、鯛の頭を半分に割ったものを普通に両面焼いて、ニンニク・ケッパー・バルサミコ・オリーブオイル、そして隠し味に麺つゆを適量合わせたソースをつけてお出ししています。また、先ほども言った通り、当店のリゾットの出汁は鶏肉と子牛肉をベースにしたものですので、今回もそれを使っていますが、その上に鯛のソテーを乗せお出しすることはよくあります。もちろん、リゾットの鯛の出汁にして見ると良いと思いますよ」(須堯シェフ)
この兜焼き、鯛のソテーを乗せたリゾットをいただきました。兜焼きのほうは、和食のそれと調理法・魚の味はほぼ同じであるのに、付け合わせのソースにより途端にイタリアンの風合いになっています。香ばしく焼かれた鯛の頭と、脂とコラーゲンたっぷりの身の甘味との調和が癖になり、もちろん白ワインなどがガンガン進みそうな味!
リゾットはお店で出しているもので、注文後迅速にサーブできるよう、予め仮調理を終えているもので作っていただきました
そして、リゾットのほうは、程よいコクのある出汁、絶妙な固さで炊かれたお米、チーズや野菜類、白ワインの風合いが複雑に入り組み、これもまた絶品! これだけでも十分贅沢な味に仕上がっているのに、さらに鯛のソテーをいただけるわけで、この上ない豪華なイタリアンだと思いました。
「取材などをお受けする際、『料理のこだわりはなんですか?』とお尋ねいただくことがあります。しかし、私自身はそんなにこだわりがないんですよ(笑)。あくまでも『美味しいイタリアンを日本で手に入る食材で作りたい』『素材を生かし、日本人により親しんでいただけるようなイタリアンを作りたい』という思いがあるくらいで。
ただ、一つだけ言えることは『素材には謙虚。より素材を生かした料理をお出ししたい』ということです。イタリア料理も和食やはり『素材』が命で、特に魚は鮮度が良いものが一番美味しいです。このことから言えるのは、良い素材さえ手に入れ、素材を生かした調理をすれば、ご家庭でも美味しいイタリアンを作ることができるかもしれません。興味がある方はやっていただくのも良いと思います」(須堯シェフ)
素材には徹底したこだわりを持つ須堯シェフ。『トラットリアた喜ち』店内で水菜を育てるほか、畑できゅうりも栽培しているそうです
ここまでの話の通り、『トラットリアた喜ち』のイタリア料理は素材の味を存分に引き上げたメニューばかりです。また、例えばイタリア料理に不慣れな年配の方やお子さんなどでも、すぐに親しんでいただけるような、どことなく和の印象も感じさせるメニューもあります。是非一度、“魚×イタリアン”を味わいに『トラットリアた喜ち』に行かれてみてはいかがでしょうか。
(撮影・文◎松田義人)
●SHOP INFO
店名:トラットリアた喜ち
住:東京都葛飾区高砂5-46-3 スカイコート高砂第3 1F
TEL:03-6658-5765
営:11:30~15:00(L.O.14:00)、17:30~23:00(L.O.22:00)
休:水曜