超新星爆発の直前にもガスを激しく放出? 赤色超巨星の観測結果が示唆
【▲ 生涯最後の年にガスを激しく放出する赤色超巨星を描いた想像図(Credit: W.M. Keck Observatory/Adam Makarenko)】
カリフォルニア大学バークレー校のWynn Jacobson-Galánさんを筆頭とする研究グループは、赤色超巨星が超新星爆発に至るまでの最後の数か月間における活動についての研究成果を発表しました。今回の成果は、死を迎えつつある大質量の恒星の活動をより良く理解するための突破口になると期待されています。
■超新星爆発の130日前に増光した様子が捉えられていた
恒星は内部で起きる核融合反応をエネルギー源として輝くと同時に、自重で潰れないように自らを支えてもいます。青年期から壮年期の恒星では水素の核融合反応がエネルギー源となっていますが、中心部分の水素が使い果たされるとその周辺で核融合反応が起きるようになり、恒星の外層が膨張して赤色巨星や赤色超巨星へと進化していきます。
恒星の最期はその質量によって異なると考えられていて、太陽の8倍以上ある比較的重い恒星は超新星爆発を起こして中性子星やブラックホールを残すいっぽうで、太陽の8倍以下の比較的軽い恒星は超新星爆発を起こさずに白色矮星へ進化するとみられています。たとえば、太陽やシリウスは白色矮星になりますが、ベテルギウスは超新星爆発を起こすとされています。
2020年9月16日、後に「SN 2020tlf」と名付けられる超新星をハワイの小惑星地球衝突最終警報システム「ATLAS」が検出。追加観測の結果、この超新星は「うしかい座」の方向およそ1億2000万光年先にある銀河「NGC 5731」で発生した「II型超新星」(※)だったことがわかりました。超新星に至ったのは質量が太陽の10倍ほどの大質量星として誕生した赤色超巨星で、爆発時点では直径が太陽の約1100倍まで膨張していたと推定されています。
※…「コア崩壊型」や「重力崩壊型」の超新星とも。参考記事:存在が予測されていた「電子捕獲型超新星」ついに観測 国内アマチュア天文家も貢献
研究グループによると、SN 2020tlfが発生した領域は突発天体(超新星のように電磁波の強さが突発的に増す天体)の検出を目的とした「Young Supernova Experiment」というプロジェクトのもとで、ハワイの掃天観測システム「パンスターズ(Pan-STARRS)」を使って2020年1月から観測が行われていました。ATLASによるSN 2020tlfの検出に先立つ約130日前、パンスターズは後に超新星爆発を起こす赤色超巨星が大幅に増光した様子を捉えていたといいます。
【▲ 赤色超巨星が電磁波やガスを激しく放出した後にII型超新星へ至る様子(アニメーション画像)(Credit: W.M. Keck Observatory/Adam Makarenko)】
パンスターズによって検出された増光は、超新星に関する従来の理解に反するものだったようです。発表によると、これまで超新星爆発前に観測することができた赤色超巨星はどれも比較的静穏で、激しい物質の放出や増光が示されたことはなかったといいます。今回の観測結果は、赤色超巨星の少なくとも一部では爆発直前の時期に内部構造が大きく変化し、星が崩壊する直前にガスが激しく放出される可能性を示すものとなりました。
通常のII型超新星に至った赤色超巨星における爆発前の活動が直接観測された例は過去にないと指摘するJacobson-Galánさんは「これは死の直前における大質量星のふるまいを理解する上での突破口です」と語ります。
また、SN 2020tlf検出後の追加観測データは、超新星を起こした赤色超巨星が高い密度の星周物質(星の周囲に存在するガスや塵など)に取り囲まれていたことを示しているといいます。研究グループは、パンスターズが検出した超新星前の活動によって放出されたガスと、この星周物質は同じものではないかと考えています。
Jacobson-Galánさんは「この発見がもたらした『未知』にとても興奮しています」とも語っており、恒星進化の最後の数か月間の様子を明らかにする上で、SN 2020tlfのような超新星のさらなる観測が大きな影響を及ぼすだろうと期待を寄せています。
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Image Credit: W.M. Keck Observatory/Adam Makarenko
Source: W.M.ケック天文台 / ノースウェスタン大学
文/松村武宏