米国の副大統領のカマラ・ハリスは12月1日(米国時間)の午前、バイデン政権で初開催となる国家宇宙会議の議長を務めた。今回の会議では、ハリスをはじめとする政界のリーダーたちが、今後の民間、商業、軍事の宇宙活動における優先事項の概略を説明している。

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伝統的に副大統領が議長を務めてきたこの種の会議だが、ハリスは女性として、また有色人種として初めて主導した。外交政策の経験はかなり豊富なハリスだが、宇宙政治の分野に本格的に足を踏み入れるのは今回が初めてとなる。

「宇宙探査はわたしたちを月へ、火星へ、そして太陽系の端へと連れていってくれます。一方で、わたしたちが暮らしている惑星に目を向ける責任もあると確信しています」と、ハリスは言う。会議はワシントンD.C.の米国平和研究所で開催され、その模様はインターネットで配信された。

このときハリスを紹介したのはアリゾナ州選出の上院議員で元宇宙飛行士のマーク・ケリーで、「宇宙探査は未来の世代を鼓舞する素晴らしい可能性を秘めています」と語った。そしてケリー自身も、「ニールとバズ(いずれもアポロ11号の宇宙飛行士)」から刺激を受けたのだという。

前政権の宇宙政策の多くを支持

米国の国家宇宙会議は、宇宙観測から宇宙船などの打ち上げ、通信、安全保障まで、あらゆる宇宙関連のことがらを扱う政府機関の政策と優先事項の調整を目的としている。1989年にジョージ・H・W・ブッシュ元大統領が創設し、ダン・クエール副大統領が議長を務めた。

その後は1993年に解散したが、ドナルド・トランプ前大統領が17年に復活させ、当時のマイク・ペンス副大統領が議長を務めて8回にわたって会議を開いた。今年3月にはバイデン大統領の国家安全保障顧問が、バイデン政権は国家宇宙会議を復活させると発表していた。

今回の会議には10を超える連邦機関のリーダーが顔を揃え、宇宙産業と軍のアドヴァイザーも参加している。バイデン大統領はこの会議に合わせて、教育省、労働省、農務省、内務省の各長官と国家気候変動顧問の5人を新たに国家宇宙会議のメンバーに加える大統領令に署名した。メンバーを追加したのは、米国の宇宙活動の恩恵が社会全体に広く適用されるようにするためだと、ハリスは説明している。

ハリスはまた、バイデン政権の目標をまとめた「米国宇宙優先事項構想」を発表した。この構想は、前政権の政策の多くを引き続き支持しているようだ。例えば、「アルテミス」と呼ばれる月面探査計画に対する財政支援、宇宙軍の軍事部門の構築、宇宙開発におけるライヴァルである中国とロシアに対する競争力の強化、科学技術教育への投資、軌道上の混雑とごみを制限するための拘束力のないルールや規範に対する継続的な支持、商業宇宙産業の成長促進などである。

この構想はまた、「宇宙は現代の戦争にとって極めて重要」であるとし、気候変動対策に役立つ地球観測衛星の開発を推進するよう求めている。

「責任ある宇宙利用の明確な規範がなければ、国家および世界の安全保障が脅かされる危険性があります」と、ハリスは指摘する。そして、2週間前に起きたロシアの衛星攻撃ミサイル実験は「無責任な行為」だったと断じた。

実際にロシアの実験によって1,500個ほどの宇宙ごみが軌道上に発生し、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士が11月30日(米国時間)に予定していた船外活動を実施できなくなった。今回の実験や中国、米国、インドによるこれまでの実験で発生した高速で移動する破片は、宇宙ごみが軌道上に何年間も残り続けて宇宙船を脅かす恐れがあることを示している。

「ごみを発生させる衛星攻撃兵器の実験を自粛することに、すべての国が同意することを望みます」と、国防副長官のキャスリーン・ヒックスは会議で語っている。

宇宙空間における責任ある行動の規範づくり

ヒックスやハリス同じように、バイデン政権のほかのメンバーも宇宙空間における責任ある行動の規範づくりを支持すると語っている。とりわけライヴァル国の宇宙船が近くを飛行する際に、誤解や計算違いによって争いが生じる状況を避けるためにも必要というわけだ。

ほかの政府関係者も同様の主張をすでに公の場でしてきた。例えばロイド・オースティン国防長官は7月、こうした規範は「宇宙分野におけるリーダーシップ」の一部だとメモに記している。上院商業委員会のトップメンバーたちは11月29日にハリスに宛てた書簡のなかで、ロシアの兵器実験は「地球低軌道の安全性と持続性を無謀にも脅かした」と指摘した。

また、宇宙軍の宇宙作戦部長であるジョン・“ジェイ”・レイモンド将軍はワシントン・ポスト紙に掲載された意見記事で、「行動をとらないことの代償はあまりにも高い」と結論づけている。

これらの政府高官たちはまた、地球低軌道での活動が増加しているいま、商業宇宙産業に対する規制を最適化し改善する必要性も強調した。ジーナ・レモンド商務長官は、飛び交うごみとの衝突を避けるためだけでなく、ごみをさらに増やしかねない衛星同士の衝突を防ぐためにも、宇宙交通をよりよく管理する必要があると指摘している。

それには軌道上の何千というごみを追跡し、今後の軌道を予測する「宇宙状況認識」が必要になる。この大がかりな監視作業を現在は国防総省が担当しているが、衛星のメガコンステレーションの増加と宇宙ごみの急増に伴って、その作業はますます困難になっている。商務省は、軍事用宇宙船を除くすべての民間および商用宇宙輸送を管理する独自の試作システムを開発しており、「今後数年間で」運用を開始する予定だとレイモンドは言う。

最後に国家気候変動顧問のジーナ・マッカーシーは地球上の問題、特に気候変動への対処にあたって宇宙発の技術が果たせる役割に注目を促した。そのためには、地球観測衛星、気候研究、気候適応プログラムに政府が引き続き投資する必要がある。

「最先端の地球観測プラットフォームを活用して宇宙にアクセスすることで、極めて重要な気候データがもたらされています」と、マッカーシーは語る。そして具体例として、氷床コアデータ、海面レヴェルの測定、藻類ブルームの観測を挙げた。

この発言の数週間前には、スコットランドのグラスゴーで国際気候サミット(COP26)が開催されている。バイデンは米航空宇宙局(NASA)の幹部とともに出席し、熱波や山火事、ハリケーン、洪水、干ばつに関するNASAの知見と研究について力説した。

協調することの重要性

この会議をリモートで見守っていた宇宙および気候の専門家たちは、宇宙会議は宇宙ごみ問題を前進させるだろうとの楽観的な見方を示している。また専門家たちは、衛星攻撃実験の自粛に関するヒックスの発言を讃えた。

「実質的に衛星攻撃兵器の一時的な禁止を呼びかけているわけです」と、超党派のシンクタンクSecure World Foundationのワシントン事務所長を務めるヴィクトリア・サムソンは言う。「数年前には見られなかったことだと思います」とサムソンは続けた上で、今後このような危険な事件が起きないようにするために行動規制を設けるという考えが、国家宇宙安全保障の世界では徐々に広まってきていると主張した。

「米国がリーダーシップを発揮するひとつの機会だとは思っていましたが、キャスリーン・ヒックスのあの発言は非常に前向きな兆候だと思います」と、連邦政府が出資する軍事研究センター、Rand Corporationで宇宙事業イニシアチヴを率いるブルース・マクリントックは言う。

ハリスは安全保障問題を頻繁に強調しながらも、最終的には協調の重要性を訴えるメッセージを伝えようとした。

「わたしたちの惑星は壊れやすいもの、美しいものです。そしてこの惑星には、異なっているところもあれば、同じところもある数十億もの人々がひしめき合っています」と、ハリスは語る。「宇宙から見れば、人類はみなひとつです。わたしたちは宇宙における活動を通して、米国民のみならず全人類に利益をもたらす機会を手にしています」

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