グーグルの新型スマホは“心臓部”ともいえる部品がまったく新しくなった(写真:Google)

グーグルが自社開発スマートフォン「Pixel(ピクセル)」を発売してから5年。新型機でようやく本気を出した。

10月19日(アメリカ時間)、グーグルは「Pixel 6」と上位モデルの「Pixel 6 Pro」を発表した。価格はそれぞれ7万4800円〜、11万6600円〜で、日本では10月28日に発売される。同社のネット通販サイトのほか、日本の通信キャリアではKDDIが6、ソフトバンクが6と6 Proを取り扱う。

今回のピクセルは“初めて”づくしだ。これまで背面のカメラはメインカメラと、超広角カメラか望遠レンズというデュアルカメラだったが、6 Proでは初めて、メインカメラ、超広角カメラ、望遠レンズのトリプルカメラとなり、アップルのiPhoneなど他社の高価格帯スマホに肩を並べた形だ。

カメラの機能を大刷新

ピクセル3以降、一貫して採用してきたカメラセンサーを刷新し、1000万台だったメインカメラの画素数を、6、6 Proでは一気に5000万画素に引き上げた。グーグルはピクセルでの写真撮影について、自社開発のAI(人工知能)による画像処理を重視してきたが、ハードウェアも大きく強化した。

最大のポイントは、グーグルが3年ほどかけて開発した初のスマートフォン向け半導体(SoC、システム・オン・チップ)の「Google Tensor(グーグルテンサー)」である。テンサーについて、ピクセル担当バイスプレジデントのナンダ・ラマチャンドラン氏は「グーグルのスマホにおける最大のイノベーションだ」と語る。


グーグルがピクセルで「最大のイノベーション」と位置づける独自開発のチップ(写真:Google)

グーグルがチップの独自開発を進めたのは、「オンデバイスAI」をより進化させるためだった。これは通信ネットワークに接続せずに、端末上で処理が完結するAIのこと。ピクセルはこれまでも、人物や物の背景をぼかしたり、暗い場所でもはっきりと撮影できたりする写真機能のほか、音声や楽曲の認識機能を端末上で実現してきた。

ラマチャンドラン氏は、「(オンデバイスAIは)通信の遅延がないため動きが速く、かつ、データがサーバーに送られないためプライバシーも保護できる。なるべく多くの機能をオンデバイスで実現したい」と説明する。

ピクセル6シリーズではテンサーを搭載したことで、さまざまな新機能を実現した。音声認識とタイピングを組み合わせた入力を可能にしたほか、LINEなどのチャットアプリにおける異なる言語話者同士のやりとりがリアルタイムに翻訳できるようになった。

さらにグーグルのレコーダーアプリでは英語のほか、日本語やフランス語、ドイツ語の文字起こしに対応。ブラウザやSNSなどで再生される動画の日本語字幕や他言語からの翻訳字幕機能(ベータ版)もピクセル6で初めて提供される。

チップの「統合」で無駄を排除

カメラでは、ブレている顔をくっきりとさせる「顔フォーカス」、写真に写り込んでしまった人物などを取り除く「消しゴムマジック」、長時間露光したような写真を撮影できる「モーションモード」など、多くの新機能を搭載している。一部の機能は以前のピクセルでもアップデート後に利用できるが、「モーションモードはテンサーがなければ機能しない。ほかの機能も処理速度は格段に早い」(プロダクトマネジャーのシェナズ・ザック氏)という。


元の写真(左)から「消しゴムマジック」を使って加工した写真(右)(写真:Google)

これまでのピクセルは一貫してアメリカの半導体大手クアルコムのスマホCPU(中央演算処理装置)である「スナップドラゴン」を採用してきた。グーグルはこのCPUの処理を補助するため、画像処理やセキュリティの専用チップを搭載していた。

だがテンサーではCPUのほか、画像処理やセキュリティのチップ、そしてグーグルのデータセンターで活用されているAIチップ「TPU(テンサー・プロセッシング・ユニット)」を統合した。すべてが自社開発品だ。

これまでは専用チップでソフトウェアのアルゴリズムを作動させ、処理したデータをいちいちCPUに戻していた。テンサーではこの行き来がなくなり高速な処理が可能になったうえ、バッテリーの電力消費も抑えることができるようになったという。

6 Proの価格は128GBのストレージを搭載したモデルで11万6600円と、9月に発売されたiPhone 13 Proの128GBモデルの12万2800円を下回る。性能の単純比較はできないが、ハイエンドモデルとしてある程度の価格での勝負に出たといえる。

これまでピクセルの展開地域は13カ国にとどまっており、世界のスマートフォン市場でのシェアは1%に満たない。グーグルはスマホ市場の中で周回遅れの状態だ。

今回の価格についてラマチャンドラン氏は、「6シリーズでピクセルのビジネスを何倍にも拡大したいという意思の表れだ」と話し、「今後はピクセルブランドを築くためにアグレッシブに(マーケティング)投資をする。われわれはハードウェアビジネスを一から始めたために時間がかかったが、来年にかけて展開地域を増やすなど野心的な計画をもっている」と強調した。

グーグルのスマートウォッチも投入か

日本はピクセルの売り上げで世界トップ3に入る市場で、今後拡大する方針だ。発売当初は5Gの周波数帯の対応がKDDIとソフトバンクのみだが、今後はソフトウェアアップデートによりNTTドコモなど他社にも対応するという。「ラテン言語ではない日本語への対応は手間がかかるが、(機能のカスタマイズとしては日本語対応の)優先順位が高い」(ラマチャンドラン氏)。

グーグルは検索やマップ、ユーチューブなどソフトウェアのサービスで圧倒的だが、ハードウェアのビジネスはまだ道半ばだ。AIの発達でスマホの使い方が変わり、スマホ以外にもスマートスピーカーやスマートウォッチなどが登場し、身の回りのコンピューターはこの5年ほどで大きく姿を変えた。


フィットビットのスマートウォッチ。「ピクセルウォッチ」が出てくる日も近い?(写真:Google)

それだけハードウェアビジネスには拡大余地がある。現にグーグルもスマホ以外に製品群を広げている。2014年にはスマートカメラや温度調節器を手掛けるネストを、2021年初めにはスマートウォッチを手掛けるフィットビットを買収した。ネット上などでは「ピクセルウォッチ」なる新製品が出てくるのではとの憶測が話題となった。

こうした見方について、ラマチャンドラン氏は「スマホだけでなくハードウェアのエコシステム(生態系)を広げることが重要になっている。フィットビットと組織を統合したのも、スマートウォッチを開発する大きな意図があったからだ。楽しみな製品がパイプラインに入っている」と話す。

ソフトウェアでは無敵の巨人となったグーグル。ピクセル6を突破口として、今度こそハードウェアビジネスでも存在感を示せるだろうか。