流行の歌が「感染するように」はやる過程はウイルスの感染拡大と共通点を持っている
ヒットソングが流行するとき、「伝染するように」もしくは「感染するように」という表現が用いられることがあります。これはあくまで爆発的な広がり方を例えたものですが、2021年9月下旬に発表された研究では、そのような流行をした音楽・曲・歌は実際に、病気の感染拡大と同様のモデルで理解できる多くの共通点があると示されました。
Modelling song popularity as a contagious process | Proceedings of the Royal Society A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences
Viral Songs And Infectious Disease Have More in Common Than You'd Think, Study Finds
https://www.sciencealert.com/the-popularity-of-some-songs-spreads-like-an-infectious-disease-study-finds
研究では、2007年から2014年の間にNokiaの携帯電話からダウンロードされた曲を追跡し、その中から感受性感染症回復(SIR)モデルとして知られる感染症の一般的なモデルに合う曲を抽出しました。流行する曲をダウンロードするユーザー数の増加を曲線にした時、病気と同様の社会的メカニズムが働いているかもしれないと研究チームは考えたとのこと。
病気の感染過程を記述したSIRモデルは、全人口を感染する可能性のある者(感受性保持者)、感染者、感染する可能性の低い者(免疫保持者)へ分割し、時系列に応じてどのように感染が拡大していくかを確率計算で表したもの。音楽もこれと同様に、緊密なコミュニティで広がるとまず感受性の高い人が流行に飛びつき、そこの集団が使い果たされるとピークに達し、減少し始めて流行が収束する、という波及過程があると研究チームは予想しました。
人気上位の曲がどれくらいの期間でダウンロードされていったのかという人気拡大モデルを、SIRモデルと同様の計算方法と照らし合わせたところ、950曲のサンプルのうち87.2%の828曲がSIRモデルによって適切にキャプチャされたとのこと。感染症の拡大メカニズムを適切に表したSIRモデルとの一致は、曲の人気の根底にある社会的要因をキャプチャすることができると研究チームは論じています。
音楽の流行については、2006年の社会学研究では同じセットの音楽が異なるグループで流れた時に最も人気の曲が分かれることが示されたり、2009年の神経メカニズムの研究では10代の若者が他人の意見により曲への感想を変える可能性が高いと示されていたりと、曲・歌というものが社会条件によって広まる伝染性を持つものであることが示唆されています。
最新の研究では、曲のファンがどのようなダウンロードあるいは音楽の共有を行うかという動作を特定できたとのこと。例えばイギリスではポップスが最も人気な傾向があるにもかかわらずエレクトロニカ音楽の方が最も速く人気を博して普及しましたが、それはエレクトロニカのファンが「影響を受けやすいコミュニティ」であることが理由だと考えられるそうです。そのためエレクトロニカは「感染力が高い」ジャンルで、より短くより速い流行を経験するため、爆発的に人気が生まれるように観測されます。
論文では、この疫学モデルを用いた音楽の研究により、さまざまなジャンルのファン(感受性の高い集団)の特徴を推測して、曲の人気を促進するメカニズムを明らかにしたり、リリースされた曲が成功するか失敗するかを予測できたりといった可能性もあると述べています。