「CSR企業」ランキング1~10位

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ランキング上位企業の顔ぶれに変化はあるのでしょうか(写真:アフロ)

ESG(環境・社会・ガバナンス)、SDGs(持続可能な開発目標)といった言葉が急激に広まっている。「CSRは古い。これからはESG、SDGsを進めなければならない」という話もよく聞くようになった。だが、そこで語られている内容は、われわれからするとデジャブのようにほとんど代わり映えしない内容が多いのも事実だ。

たとえばCO2排出削減、生物多様性、社会課題解決ビジネス、人権デューデリジェンス、女性管理職比率、在宅勤務などなど。どれも10年前の『CSR企業総覧』(当社刊)に掲載している情報ばかりだ。グローバルな動きで求められるレベルは年々上がっているものの本質的なところはほとんど変わっていない。

現在の動きは、ESGやSDGsという新たな見方(ルール)も含まれた「企業の社会的責任(CSR)」が求められているというのが正しいように感じているのだが、いかがだろうか。

KDDIが2年連続でトップ

さて、東洋経済新報社は相変わらず「企業の社会的責任(CSR)」と財務の両面を重視。「幅広いステークホルダーに信頼される会社」を見つけるため、「東洋経済CSR調査」データベースを基に2007年から「CSR企業ランキング」を作成し発表している。


15回目となる今回は『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)(ESG編)』2021年版に掲載する1614社を対象にCSR143項目、財務15項目で総合評価を行った(ポイント算出方法など、ランキングについての解説はこちら)。


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なお、本ランキングは『週刊東洋経済』3月6日号ですでに発表済み。また、上位800社までのさらに詳しい得点の内訳などランキングの詳細は『CSR企業白書』2021年版に掲載している。ここで今回ご紹介する上位500社のランキングはこれらのダイジェスト版であることにご注意いただきたい。

では、ランキングを見ていこう。トップは昨年に続き2年連続でKDDI(575.7点)だった。人材活用15位(96.0点)、環境31位(94.9点)、企業統治+社会性3位(99.4点)、財務4位(285.4点)とバランスよく得点した。

「KDDIフィロソフィ(社会への責任を果たす)」を中心に「安全で強靭な情報通信社会の構築」「多様な人財の育成と働きがいのある労働環境の実現」「エネルギー効率の向上と資源循環の達成」「ICTを通じた心豊かな暮らしの実現」などをCSR活動のマテリアリティ(重要課題)に掲げている。

「KDDIが目指すSDGs」として、社会課題の大きさとKDDIが通信事業者としてより貢献できる事業領域の観点から8つの社会課題領域を設定。2030年を見据えた「KDDI Sustainable Action」を策定している。 

企業活動で人権に関して悪い影響を与えないよう予防や軽減策を行う人権デューデリジェンスを実施。サプライヤーと連携した紛争鉱物の取り組みやCSR調達に関する取引先へのアンケートなど、サプライチェーンでの人権問題等が起きないよう取り組んでいる。

海外での活動も幅広い。モンゴルで光ファイバーネットワークによる地域ネットワーク構築、ネパールではカトマンズに隣接する小中学校(10校)のeラーニング環境整備とロボットプログラミング教育などを実施。コロナ禍での医療機関への医療物資寄付、自社の社会貢献サイトでの募金受付といった貢献も行ってきた。

順位を上げたNTTの強み

2位は昨年3位から上昇した日本電信電話(NTT)の572.0点。人材活用35位(93.9点)、環境21位(96.2点)、企業統治+社会性9位(98.3点)、財務7位(283.6点)だった。

有給休暇取得率は88.7%と高水準。介護休業は最大1年6カ月まで取得可能など高い数値や制度が並ぶ。

障害者雇用率は2.70%と法定雇用率2.3%を大きく上回る。特例子会社、NTTクラルティでは、四肢・内部・精神障害者は電話応対業務・電子化業務、知的障害者が紙すき事業、視覚障害者はWebアクセシビリティ等に従事。それぞれの強みを生かすことで、高いレベルの障害者雇用を実現している。

環境面も強い。データセンターや通信ビルなどでは、中水・雨水利用による飲用可能な上水の使用を削減。NTTグループ自身が実際に発生するCO2排出量の10倍以上を、同グループのICTサービスや最先端の技術を使い、社会全体で削減していくという取り組みを2030年度の達成を目指して進めている。

ほかにもコロナ禍でのテレワーク関連環境構築サービスを無償提供するなど、社会的責務の大きいグループとして幅広く活動している。

3位は2015〜2017年に3年連続トップだった富士フイルムホールディングス。人材活用94.9点(23位)、環境97.4点(10位)、企業統治+社会性98.9点(6位)、財務280.0点(35位)と企業統治+社会性の強さは健在だ。

新型コロナウイルスの治療薬としてアビガンの治験実施や増産対応をはじめ、インフルエンザや結核などの早期診断システムの導入といった感染症対策をビジネスとして推進している。

カタールで乳がん検診が根付くよう装置・システムだけでなく医師・技師・コールセンター等もセットにした検診システムを提供するといった社会課題解決に各地で積極的に取り組んできた。

4位はJT(569.4点)。人材活用96.0点(15位)、環境92.3点(75位)、企業統治+社会性97.7点(18位)、財務283.4点(8位)。社会的責任の観点から「JTグループ調達基本方針」を調達の基本姿勢として策定するなどサプライチェーンマネジメントのレベルは高い。

5位は昨年4位からひとつ順位を下げた花王(568.7点)。樹脂使用量の少ない包装や紙等のCO2排出量の少ない素材への切り替えを進めている。

6位は2020年12月に上場廃止となったNTTドコモ(567.2点)が昨年2位からダウンした。

7位は未上場のサントリーホールディングス(565.9点)。財務評価用の情報も回答し、総合ランキングの対象となっている。「サントリー天然水の森」として約1万2000haの面積で水源涵養活動を展開。

ステークホルダーとの約束である「水と生きる」という言葉のもと、商品の製造に使われる地下水の持続可能性を保全するため、国内工場で使用する地下水量の2倍を育むという目標を立て2019年に達成した。

以下、8位大和ハウス工業(565.6点)、9位トヨタ自動車(563.1点)、10位キリンホールディングス(562.6点)と続く。

大きく順位を上げた企業は?

今回、大きく順位を上げたのは75位→25位の中外製薬(554.5点)、106位→41位の資生堂(548.5点)、95位→47位のエーザイ(546.0点)など。ESGで定評のある実力企業が順位を上げてきた。

101〜200位では、J.フロント リテイリング(528.4点)が195位から105位に上昇。198位から131位に上昇した島津製作所(523.4点)などとあわせ100位入りも見えてきた。

200位台では、241位H.U.グループホールディングス(494.7点)が昨年340位から上昇。2年前は432位で毎年100位前後上昇している注目企業だ。292位NOK、J-POWER(いずれも484.7点)もさらに上昇が期待できそうだ。

301位以下では、305位にパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(483.1点)が初登場。356位日本ペイントホールディングス(469.8点)、387位ヒロセ電機(461.5点)、406位奥村組(456.7点)、453位EIZO(447.1点)をはじめ今後を期待させる企業も多く登場してきた。

評価項目の各部門トップは、人材活用はANAホールディングス(総合43位)。同社は海外事業所における現地雇用社員の管理職比率を部課長クラス20%、マネジャークラス60%を目指すなどダイバーシティの取り組みが進んでいる。


環境はイオン、資生堂、J.フロント リテイリング、熊谷組の4社がトップ。


企業統治+社会性はNTTドコモとオムロンだった。


CSR3部門の合計はSOMPO ホールディングス(295.8点)が昨年に続き1位だった。


財務部門では東京エレクトロンがトップ。総合でも29位とトップクラスを狙える位置にいる。同社は先日発表した「『離職する人が少ない大企業』ランキングTOP100」で離職率わずか1.0%だった。障害者雇用率、女性管理職、有給休暇取得率などはまだ改善の余地はあるものの、多くの従業員は満足して働いている様子がうかがえる。


さて、ESGやSDGsなど非財務情報の視点で企業を見る際に利用できるのが『CSR企業総覧』や東洋経済CSRデータだ。CSR(企業の社会的責任)やサステナビリティという考えをベースに幅広く情報を集め、一般的に言われているESGやSDGsといった内容もほぼ網羅している。

こうした基本情報があれば、あとは必要な部分を取捨選択していくことで適切な企業評価も可能となる。『週刊東洋経済』7月3日号で発表した「SDGs企業ランキング」は企業の社会的責任といった義務的な面のウェートを減らして作成した。CSRを基本にして別の視点を取り入れれば、多くの評価作成が可能になる。今後もこうした新たなランキングを積極的にご紹介していきたいと考えている。