日本人はロシア料理を誤解してる? ロシア人に「ロシア料理」の正解を聞いてみた!
まだまだ知らないことがいっぱいのロシア料理についてお届け! | 食楽web
日本の家庭料理の定番に数えられるロールキャベツ。これ、実はロシア料理だというのをご存知でしたか? 他にも魚卵のイクラはもともとロシア語で、ロシアでも当然のことながらイクラと呼ばれています。
ビーツやピロシキ、ビーフストロガノフ、ボルシチなど、日本でも有名なロシア料理は数多くありますが、日本で出合うロシア料理は現地でもそのままの料理なのか、気になりませんか?
そこで今回はその実態を探るべく、旧ソ連構成国のウズベキスタン出身のロシア人と、日本人とロシア人のハーフを招集。日本人の食べ方やロシア料理について詳しく解説してもらいました。
錦糸町駅から徒歩5分。ロシア人が美味しいと認めるロシア料理スカズカへ。左が旧ソ連のタシケント出身のニゴラさん 。右は日本人の父とロシア人の母を持ち、幼少期は日本とウラジオストクを行き来していたバイリンガルのインナさん
今回、実態調査として訪れたのは、東京・錦糸町にあるロシア料理店『スカズカ』。そして、ロシアの食文化について語ってくれたのは、ニゴラさん(日本在住15年)と、ロシア人の母を持ち、幼少期は日本とウラジオストクを行き来していたインナさんです。
ロシアのロールキャベツは中身が肉だけじゃない!
ロシアで一般的な家庭料理のロールキャベツ
編集部:今回は、ロシアの料理について伺いたいんですが、まずは日本でも家庭料理として定番中の定番ロールキャベツについて。これはロシアではどんな位置づけの料理ですか?
インナさん:とても日常的なものです。日本で言えばラーメンくらい一般的な食べ物です。中身もいろいろあるんですよ。
編集部:日本では、牛や豚のひき肉をキャベツに巻いて煮込むのが普通ですが、ロシアでも同じですか?
インナさん:伝統的なロシアのロールキャベツといえば肉が一般的ですが、旧ソ時代に、かさ増しのために蕎麦の実や米などを入れ始めました。それが意外と美味しかったので、今もひき肉と蕎麦の実や米を混ぜて作ることも多いです。割合的には5:5、それかひき肉6:米4とか。家庭によって違いますね。
ロシアのロールキャベツの中身にはお肉と米、ニンジンなどの野菜が入る
編集部:お米も入れるんですね。巻く葉はキャベツがメインですか?
インナさん:基本的にはキャベツが多いけど、うちではビーツの葉っぱで巻いたりもします。あとはキャベツの漬物で巻いたりすることもあります。
編集部:味はどうでしょう?日本ではトマトベースやコンソメ味が多いですが。
ニゴラさん:うちはインナちゃん家とちょっと違って、玉ねぎと1種類のお肉を入れます。例えば羊肉が多くて、次は牛肉。たまに鶏肉とお米を入れます。お米はちょっとだけ。昔はお肉が高かったから米や蕎麦の実を入れたりしていたけど、最近はそうでもないです。味はやっぱりトマト味になります。
スカズカのロールキャベツの中身はお肉
インナさん:うちもトマト味です。それにサワークリームをたくさんのせて食べます。酸味があるのでとっても美味しいんですよ。
編集部:なるほど、やはり家庭や地域によってさまざまなんですね。ロシア、広いですもんね。
ニゴラさん:そうですね。他にもトルコ料理で「ドルマ(ドーマ)」と呼ばれるロールキャベツに似たような料理があります。これはぶどうの葉っぱにお肉を入れて巻いたもの。これもよく食べます。それ以外にパプリカも使います。
インナさん:パプリカの中にお肉を詰めて煮ます。
編集部:皮として使うんですね。日本でも似たような料理で、ピーマンの肉詰めがあります。これは焼くことが多いですけど。
ボルシチ、ロールキャベツをはじめ、伝統的なロシア料理を紹介
ニゴラさん:基本的に何でも代用できます。「キャベツはないね、でもパプリカはあるよ」となれば、あるものでなんでも巻いてしまえばOKです。ロシアは冬が長いこともあり、ロールキャベツはキャベツがある時期の料理。キャベツがない時期は他の野菜で代用します。
編集部:ロールキャベツは季節料理だったんですね。
インナさん:そうです。うちはキャベツがない時期は、塩漬けにしていたキャベツを巻いて作るので、1年中食べてますね(笑)
日本では健康食品として話題のビーツ! ロシア人はどう食べる?
一見お芋のように見えるが、中身は鮮やかな赤色をした実のビーツ
編集部:日本では健康食品として認知されているビーツですが、ロシアでは定番の食材ですよね?
ニゴラさん:ロシアでも健康的な食品ということでよく食べます。例えば血液がサラサラになるとか。
編集部:ロシアでも健康食品というイメージなんですか?
インナさん:というより、昔から普通に食べられていて、今、そういう注目のされ方をしているというだけだと思います。ロシアでは日常的によく食べています。日本で言うと大根のような感じです。
ニゴラさん:ビーツは安くて調理も簡単なので、ロシア人は本当によく食べます。素晴らしい赤さでしょ? ボルドー(赤ワイン)の色でしょ? いいでしょ(笑)
編集部:キレイな赤ですね。ビーツを使った代表的な料理といえば、何ですか?
インナさん:ボルシチです! 一般的なボルシチは、野菜とお肉、そしてビーツを入れたスープです。
この赤みはビーツの色。薄い色のビーツはゴールド色になるのだとか
ニゴラさん:もともとはウクライナ料理なんです。ウクライナからロシアに来てロシア料理になりました。赤いボルシチと白いボルシチがあります。
編集部:白いボルシチ?
ニゴラさん:ビーツは赤以外の色がたくさんあるんですよ。例えば、赤いビーツの代わりにホウレン草や、ビーツの葉っぱや、他の野菜を使ったりもします。
インナさん:野菜は、あるものを入れる感じ。根菜とか。ナスも入れたりしますよ!
ニゴラさん:えー、ナス入れたのは知らないです。家庭によって違うんですね。
具たくさんのサッパリとしたスープ。日本のようにシチュータイプではなく、新鮮野菜を食べるスープといった感じ
編集部:日本で言う味噌汁みたいなものですか? 冷蔵庫にある野菜を適当に入れるみたいな?
インナさん:私はそのイメージに近いと思います!
ニゴラさん:え~。私はやっぱりお肉とビーツとキャベツ、玉ねぎ、ニンジンというイメージです。
編集部:住んでいる地域でこれも違うのですね。
ニゴラさん:そうかもしれないけど、このスープはお肉も入るからボリュームもあって、これだけ食べれば結構満足できます。
インナさん:そうですね。スープだけど肉も入るし、オールインワンですね。(笑)
知ってるけどピンとこない! ピロシキ、ビーフストロガノフの真実
ロシアではお惣菜パン的な存在のピロシキ。生地も工程も中身も日本では考えられないくらいの種類があるピロシキ
編集部:次に、ピロシキについて。噂によると、実は種類がたくさんあるんですよね? 日本でメジャーなのは、揚げパンにミートソースのようなものが入っている感じなのですが。
ニゴラさん:ピロシキは簡単にすぐ食べられて、お腹いっぱいになるのでいいですよ。日本でいうおにぎりみたいな感じです。普通のパンのように焼いたり揚げたり、中身も違うけどこれは全部ピロシキと言います。
編集部:ピロシキ=おにぎりだったんだ……!
インナさん:まず具材ですが、めちゃくちゃ種類があります。肉はもちろん、炒めたニンジン、煮キャベツやジャム、リンゴを入れたピロシキがあったり、地域によっては魚を入れたりもします。
ニゴラさん:あとキノコも! 私が好きなのはカッテージチーズです。
編集部:おお~、かなり種類豊富ですね。調理法にも違いが?
インナさん: あります。エリアによってバラバラで、中国に近いところでは蒸したり揚げたりするんですよ。ヨーロッパに近い地域は揚げたり、焼いたり。例えばシベリア鉄道で旅をしていると、ウラジオストクでは蒸しや揚げ、終点に近づくと、焼きタイプが多くなってきます。
編集部:シベリア鉄道でピロシキ食べ歩き! 楽しそうですね。乗ってみたくなりました(笑)
日本のイメージと違う白いビーフストロガノフ。ロシアでは白!
編集部:ビーフストロガノフについてはどうでしょう。ロシアを代表する料理の一つですよね?
インナさん:はい、メイン料理の代表格です。お肉とソース、そして付け合わせのジャガイモが定番のスタイルです。
編集部:これ、ちょっとびっくりなんですが、ビーフストロガノフは白いんですか? 日本ではシチューのような茶色のイメージですが。
ニゴラさん:えー、日本では茶色なの? ロシアでは白いですよ。ビーフは牛肉、ストロガノフは人の名前です。ストロガノフさんが料理人に「食べたことのない料理」とオーダーして作らせたもので、その料理人がサワークリームを使って作ったのが、ビーフストロガノフ。だから白いんですよ。それに、ビーフだけじゃなくて、チキンもポークもあるんです。
編集部:それ、もはや“ビーフ”ストロガノフじゃないけど……。いいんですか?
インナさん:ロシアのレストランでは、チキンもポークもビーフストロガノフです。ちゃんと店員さんに聞かないと、チキンが出てくることもよくあるんですよ。これはロシアあるあるですね(笑)
ニゴラさん:だから最近は肉の種類を書くところも多くなりました。あと日本人は、ロシア人はビーフストロガノフを毎日家で作っていると思っていますが、全然違います! これはレストランで食べるものです。
インナさん:作るのがとても大変なので、ロシアの高級料理という位置づけなんですよ。
マヨネーズの消費世界一。スーパーでは棚一面のマヨネーズ!
ロシアの定番の調味料。左がサワークリームのようなスメタナ、右はマヨネーズ
編集部:先ほどから、ボルシチにもビーフストロガノフにもサワークリームが出てきますね。
インナさん: サワークリームはよく使います。ボルシチや肉にもかけて食べます。それとマヨネーズも大好き!
編集部:噂によると、マヨネーズの消費量が世界第1位なんですよね?
インナさん:おおー、やっぱりそうですか。
ニゴラさん:マヨネーズ、大好き!
編集部:日本ではサラダなんかにかけて食べることが多いのですが、ロシアではマヨネーズはどう使うんですか?
インナさん:ロシアには「セリョートカ」というニシンのオイル漬けやビーツ、ゆで卵で作るサラダがありますが、この上にたっぷりと塗ったり、あとはポテトサラダなどにいっぱいかけて食べるのが好きなんです。
ニゴラさん:ロシアのマヨネーズはたくさん種類があります。スーパーでは壁一面マヨネーズ。100種類以上売っています。
編集部:えー、そんなに!?
ニゴラさん:タマゴとかキノコとか。本当にたくさんに種類があります。
インナさん:うずらの卵のマヨネーズとか。あとは○○専用マヨネーズというのもあります。BBQ専用とか、肉用、サーモン用、グリル用とか。
編集部:スゴイ! 本当にいろいろあるんですね。日本だと数種類といったところです。
ニゴラさん:そうそう。だからびっくりしました。初めは売り切れたのかと思って翌日も行ったけど、やはり同じで。友人に聞いたら、日本では他のマヨネーズはないと聞いて、びっくりしました(笑)。ロシアでは細く分かれているし、マヨ大好きだから衝撃でした。
編集部:食卓には必ずいろんなマヨネーズがあるということですか?
インナさん:そうですね。3、4種類あります。いろんな味をディップして食べるのが楽しみなんです。
日本では知られていない、オススメのロシア料理を教えて!
スイーツ系も食事系もあるロシアのクレープ「ブリヌイ」
編集部:最後に日本人が知らなそうなオススメ料理があったら教えてください。
インナさん:私のオススメは「ブリヌイ」。これはロシア版のクレープです。中身は、甘いものもしょっぱいものもあります。家族で休日の朝に20枚くらいまとめて焼いて、日本の手巻き寿司のように好きな具材を入れて食べたりします。女性はみんな好きだからデートにもぴったりです(笑)
ニゴラさん:あとは「ペリメニ!」
いろんな具材を詰めたかわいい水餃子の「ペリメニ」
編集部:「ペリメニ」、小さくてかわいい水餃子という感じですかね。
インナさん:これも定番のロシア料理ですね。家族全員で作って、いろんな中身を作って作り置きしておくんです。100個とか。忙しい時に冷凍庫から出して、茹でてすぐ食べられるので便利です。
ニゴラさん:形はラビオリみたいでかわいいでしょ。クラシックなレシピだと中身は牛豚の合い挽き肉と玉ねぎ。鶏肉と玉ねぎ、玉ねぎの代わりに、キャベツなどもあります。食べ方はサワークリームと一緒に食べたりスープに入れたりもします。似ている食べ物はヴァレーニキと言う甘いのもあります。カッテージチーズを入れてハチミツをかけたり、サワークリームを入れたりスープに入れたりもします。
ここまでの会話で、ずいぶんロシア料理に対する認識が変わったような気がします。マヨネーズの種類の多さにびっくり。いっぽうでロシア人は、マヨネーズの種類の少なさに驚いていたなんて、想像もしていませんでした。
あと、国土も広いけど、料理の定義も広い! ピロシキは生地も中身も揚げても焼いても蒸しても、全然違ってもピロシキなんですね。ロシア料理は、日本人でも食べやすいものばかりでとっても美味しいので、ぜひ挑戦してほしいです。
ロシア人も認めたお店はここ!
ロシア第5の都市ニジニ・ノヴゴロドの出身のユリア店長は日本語もok
今回協力してもらったお店は、『スカズカ』。オープンは2008年、本格的なロシア料理が食べられると人気の店。ウラジオストク出身のシェフが作る料理はロシアの家庭料理が中心でメニューも多く、ロシアのビールやウオッカなどお酒も豊富。本場さながらの味が楽しめます。店内のマトリョーシカやロシアの民族衣装の装飾と、スタッフの衣装もかわいくて、女子ウケすること間違いなし!
●SHOP INFO
店名:スカズカ (SKAZKA)
住:東京都墨田区江東橋 4-19-12 近代ビル2F
TEL:03-3632-5772
営:18:00~24:00
休:日曜
●著者プロフィール
矢巻美穂(やまき・みほ)
国内外の旅行雑誌を中心に活動するカメラマンで、撮影から執筆・編集作業まで行う。単著としてネパール、台湾、ウズベキスタン、韓国などのフォトガイドブックを執筆。近著は『東京で台湾さんぽ』(イカロス出版)。また、YouTubeで「旅ちゃんねる MinMin Tour」をオープン。これまで取材に行って、本当に美味しかった店や行ってよかった人気スポットを紹介。