DaiGo “生活保護差別発言”で謝罪も、支援団体が危惧「間接的に人を殺している」
メンタリストのDaiGoさんが、自身のYouTubeチャンネルで8月7日、生活保護を利用する人やホームレスの人たちを侮辱し、排除する発言をして問題となっている。
一度ネット上に出た言葉は、自分にずっと付いてまわる
発言をした動画はすでに非公開になっているが、
「生活保護の人たちに食わせる金があるんだったら、猫を救ってほしいと僕は思うんで」
「自分にとって必要ない命は軽いんで。ホームレスの命はどうでもいい」
「いない方がよくない? 正直、邪魔だしさ。プラスになんないしさ。臭いしさ。治安悪くなるしさ。いない方がいいじゃん」
と、生活保護利用者やホームレスの人の命を軽んじて、いなくていいと言いきって排除するもの。とうてい許されるものではない。保護猫を飼い、猫の保護活動に寄付をするなどの活動を熱心にしているDaiGoさんだが、猫の命を大事に思うなら、人の命をどうして大事に思えないのだろうか。
さらにDaiGoさんは、
「もともと人間はね、自分たちの群れにそぐわない、社会にそぐわない、群れ全体の利益にそぐなわい人間を処刑して生きてきてるんですよ。犯罪者を殺すのと同じですよ。犯罪者が社会の中にいると問題だし、みんなに害があるでしょ? だから殺すんですよ。同じですよ」
と、「殺す」といった殺害を示唆するような言葉まで使っていたのには驚く。たとえばネットで誰かへ殺害予告をすると威力業務妨害罪などが適用されるが、不特定の誰かだとしても、そういう重い言葉だと果たしてどこまで自覚していたのだろうか。
また元の動画は非公開になったものの、YouTube上には問題の発言だけを切り取って投稿されていたりもする。発言はいまも彼の口から発せられる言葉としてネット上にあり、たまたま見た生活保護を利用する誰かを傷つけることもありえるし、インフルエンサーが発したこれらの言葉に同調する人が出てくることもある。これまでユーチューバーとして活躍してきた彼なら、そうしたことだって想像し得るであろう。一度ネット上に出た言葉は自分にずっと付いてまわり、その責任を問われ続けることになる。
当然ながらこれら発言には数多くの批判が集まったが、すぐには謝罪には結びつかず、その後も自身のYouTubeチャンネルで、
「自分の税金が生活保護の人たちにまわるぐらいだったら、猫にまわしたいと思うんですよ」
などとも言っていた。野良猫を保護することにもちろん意義はあるが、それと生活保護を同列で語るのは違う。生活保護は憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を権利として具体化したもので、国は生活に困窮する市民に対してその程度に応じて必要な保護を行う。
そして批判の声がさらに高まった13日夜、DaiGoさんは「間違ったことを言ったので謝罪します」とした動画を配信(15日深夜に非公開に)。そこで長年ホームレス支援活動をしているNPO法人「抱樸(ほうぼく)」の奥田知志氏と連絡をとって、近々、奥田氏が活動をする福岡・北九州市へと赴くことを話した。奥田氏のことをDaiGoさんは、
「2020年には赤坂御所に招かれて天皇皇后両陛下に生活困窮者支援について、なんかこう説明とかしてるみたいなんですけど、その方にさっそく連絡をとって行かせてほしいと話しました」
と言うが、なぜわざわざ北九州まで、このコロナ禍に? 都内にも困窮者支援団体はいくらでもあるだろう? と不思議に思わざるを得ない。
命に優劣をつける権利が
自分にあるという考えは危険
そうした謝罪そのものも生活保護やホームレスの人たちへの理解に欠け、差別的なものだと指摘するのが、生活困窮者支援を長年続けている、一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表の稲葉剛さんだ。
「13日夜の謝罪では生活保護利用者全般や、ホームレスの人たち全般に対する差別を取り下げたわけですが、そこで使われているロジックが『頑張っている』という表現なんですね。抱樸へ行って奥田さんと話をするというのも、抱樸が支援したホームレスの人の『半分以上、57%ぐらいの人が復帰する。そのおかげで僕らが払ってる税金が無駄にならないで済むわけじゃないですか』と話していて、ホームレスの人たちの中でも頑張っている人は生きる権利を認めてあげていいよという話です。
それは、生産性とか、自分の好みとか、頑張ってないと自分が思う一部の人たちを社会から抹殺しても構わないという根本的なところが変わっておらず、線引きを変えただけです」
そもそもDaiGoさんの一連の発言について稲葉さんは、
「(7日の動画の)発言のすべて、あまりに問題が多すぎてどこが問題かひとつに絞れないほどですね。根本的には死刑制度の例を出して、処刑してもいい、殺すといった言葉を使い、優生思想があります。命に優劣をつける権利が自分にあるという考えが、いちばん危険だと思います。他者の生きる権利を決定できると思っていて、その矛先がホームレスの人たちと生活保護の利用者に向かっている」
と言う。そのことでホームレスの人たちや生活保護利用者が傷つくことも心配されるが、それと同時に稲葉さんは「生活保護の利用が妨げられること」を懸念している。
「ただでさえ生活保護の利用をためらう方がたくさんいらっしゃるのに、制度から困窮者を遠ざけてしまい、間接的に人を殺してしまいます。またホームレスの人たちについてかなりひどい言葉で差別して、『いないほうがいいじゃん』とまで言っている。昨年も岐阜と渋谷区で路上生活の人が襲撃によって殺されていますし、90年代半ばから全国で襲撃によって命を奪われた方は20数人います。ほとんどが若者による襲撃ですが、元々そういうヘイトクライムが日本各地で起こっている状況で、さらにヘイトクライムを誘発しかねない発言をYouTubeでチャンネル登録者数が250万人にも及ぶインフルエンサーとされる人がするのは、偏見をさらに助長する危険なものです」
命を選別し、命を危険にさらす恐れのあるDaiGoさんの発言はとてもこのまま沈静化すれば終わり、というのではすまない。つくろい東京ファンドはじめ都内で生活困窮者支援を行う4つの団体は14日に『メンタリストDaiGo氏のYouTubeにおけるヘイト発言を受けた緊急声明』を発表した。
それでも生活保護を後回しにする厚労省
そこではDaiGoさんに反省や謝罪にとどまらず「動画がヘイトスピーチに該当する内容であることについて真の理解に至ったうえで、改めて発言を真摯に反省・撤回し、生活保護利用者、ホームレス状態にある人々に謝罪すること」を求めている。
さらに「『処刑』や『殺す』という言葉を用い、特定の人たちを社会から排除・抹殺することを正当化することは、ヘイトクライムやジェノサイドを誘発しかねない反社会的行為であることを認識し、この点についても明確に発言を撤回し、謝罪すること」を求めた。
この提案が報道されると15日、DaiGoさんはスーツ姿で「昨日の謝罪を撤回いたします」という動画を再度、配信した。
しかし稲葉さんが指摘していた「頑張っている」というロジックは変わらず。
「何かから抜け出そうと努力している人は評価されるべき」
「(生活保護利用者の中に)努力している人がいっぱいいます」
「自分はこんなに頑張れない。ひたすら後悔の念」
と、頑張っていることを基準としており、その基準によって他人が生きることの権利を阻害していることに考えが至っていないままだった。
世の中にはさまざまな理由で頑張りたくても頑張れない人はおおぜいいる。そもそも、頑張るという、その基準は誰が決めて、誰が判断するのか? そんな抽象的な概念で、人が生きることを邪魔することは決してあってはならないだろう。DaiGoさんの「頑張る」というその基準は自分の価値観であり、それを他者に押しつけることは間違っていることに気がついてほしい。
コロナ禍に於いて、生活に困窮する人は増えている。しかし、生活保護を利用する人は実は増えていない。稲葉さんによると、
「厚生労働省が13日に生活保護の申請は国民の権利ですとした呼びかけをツイートしたことはよかったんですが、ホームページでは、生活を支援するためのメニューを紹介するページを、広告費をかけてまで宣伝しているのに、そこには最初のページに生活保護が出てきません。貸し付けの話がいちばん最初で、生活保護はページの最後にPDFのリンク先があって、そこに飛ぶと、18ページ目にやっと出てきます。生活保護の担当課はがんばっていても、厚労省全体として生活保護を後回しにしようとしているのかもしれません」
と、国の対応にも疑問を呈している。生活保護を利用することは憲法で定められた権利だ。臆することなく、申請をしてほしい。
なお、8月31日まで『あしがらさん』(https://www.youtube.com/watch?v=euXpt3bwAq8)というホームレスの男性を追ったドキュメンタリー映画がYouTube上にて、無料で公開されている。これはDaiGoさんの発言に対しての、監督の飯田基晴さんの反論だという。ホームレスの人たちのこと、生活保護について考えるきっかけになってくれるはずだ。
和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。