プロテインが健康には逆効果である理由を解説します(写真:ほんかお/PIXTA)

「自宅での筋トレ後に」「低糖質ダイエットとして」「美容のために」飲む人が増えているプロテインですが、むしろ「体を壊す」と指摘するのが牧田善二医師です。新著『医者が教えるあなたの健康が決まる小さな習慣』を上梓した牧田氏が解説します

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タンパク質の過剰摂取は腎臓の機能を悪化させる

最近、「プロテイン」や「アミノ酸」といった、タンパク質を補給するためのさまざまな機能性食品が出回っています。テレビでも盛んに宣伝されていますし、関連商品はコンビニでも簡単に購入できます。ちなみにプロテインはタンパク質を横文字にしただけで、タンパク質は分解されるとアミノ酸に変わりますから、両者とも「タンパク質」という理解でOKです。

いずれにしても、そのようなものを口にするのは、健康に逆効果だということを、ここでは強調しておきたいと思います。タンパク質の過剰摂取は、気づかぬうちに腎臓の機能を悪化させるからです。

腎臓は人間が命をつなぐための解毒作用を担っており、腎臓が働かなくなれば、尿毒症を起こし(つまり全身に毒が回り)即、命を落とします。QOL(生活の質)が高い人生を送るために、非常に重要な臓器なのです。

私は早くから、「糖尿病や肥満には糖質制限食が有効である」と述べてきました。基本的に糖質制限食では、ご飯やパン、麺類といった炭水化物を減らす代わりに、肉や魚、野菜などのおかずを中心に食べてもらいます。だから、必然的にタンパク質の摂取量が増えます。

しかし、自然の食品から摂っている分には、よほどのことがない限りタンパク質の過剰摂取は起きません。

問題は、粉末や液体の、つくり出された不自然なタンパク質です。それらプロテインやアミノ酸をスポーツクラブのインストラクターにすすめられて飲み始める人が多いようです。すでに腎臓が悪くなっているかもしれない高齢者にまですすめるケースも見受けられます。もちろん、インストラクターには悪気はなく、「健康にいいから」とすすめているわけです。

そのときの理由として、「激しい運動をすると、筋肉が分解してエネルギー源として使われるから、積極的にプロテインで補わないと筋肉が減ってしまう」という、間違った説明がよくなされているようです。

また、美容のためにプロテインやアミノ酸がすすめられることもあります。「筋肉や内臓だけでなく、皮膚も毛髪もほとんどタンパク質でできているのだから、それをしっかり補わなければ健康も美容も維持できない」というわけです。

明確に述べておきますが、どちらも誤りです。まず、本当に筋肉が減るのかについて誤解を解きましょう。

筋トレをしたり、体を絞り込むダイエットを行ったりするとき、その燃料として体内に貯蔵されているグリコーゲンがブドウ糖に戻されて使われます。グリコーゲンはそれなりの量がありますから、なかなか燃料切れにはなりません。いよいよそれを使い切ってしまうと、今度はようやく脂肪細胞にため込まれた脂肪が燃え始めます。だから、肥満者が少し運動をしただけでいきなり脂肪を燃やしてやせることはできないのです。

もし、その脂肪まですっからかんになってしまったら、はじめて筋肉が利用されます。しかし、現代社会でそんなことは起きません。狩猟や採集で生きてきた私たちの祖先は、絶えず飢えていたはずです。それでも動物を追えるほどの肉体を維持していたのですから、タンパク質を絶えず補給しないと筋肉が保てないということはないのです。

アミノ酸は体内に一定量ためられる

では、なぜタンパク質は積極的に補充しなくても大丈夫なのか。それは、私たちの体に「アミノ酸プール」という素晴らしいシステムが備わっているからです。プールという名の通り、私たちは体内に一定量のアミノ酸をためています。しかも、そのアミノ酸は再利用できるのです。

アスリートが筋肉を鍛えるとき、強い筋トレを行って一度筋肉を壊しますね。その修復過程で筋肉は太くなっていくことから、「筋トレをすれば筋肉が壊れてしまうので、プロテインで補充しなければタンパク質が足りなくなる」と思い込んでいる人が多いようです。しかし、壊された筋肉のアミノ酸は、再利用されます。

繰り返し確認しておきます。肉や魚、大豆など普通に口にしている食べ物からのタンパク質は、最終的にアミノ酸に分解されます。加えて、壊れた筋肉やコラーゲンなどから再利用されるアミノ酸もあります。それで十分なのです。

十分に足りているアミノ酸は、筋肉や皮膚などの細胞をつくり直すことに使われ、余った分はプールされます。ただし、アミノ酸プールは、一定量だけをためておくようにできており、それ以上に余ったアミノ酸は、腎臓で尿素窒素などに分解され尿として体外に出てきます。

ここで、プロテインやアミノ酸という高濃度のタンパク質を摂取すれば、いったい何が起きるでしょう。アミノ酸プールはどんどんあふれ、分解作業を強いられる腎臓に過度な負担がかかりっぱなしになるわけです。あえて、体を壊すようなものを摂取するのはやめましょう。


(画像提供:KADOKAWA)

腎臓を守るうえでは肥満も大敵

肥満は、2型糖尿病や高血圧、心筋梗塞、脳卒中の重要因子であると同時に、腎臓を守るうえでも大敵です。太ることで、すでに起きている慢性腎臓病を悪化させるだけでなく、新たに腎臓病を発症しやすくなることがわかっています。

今ではすっかり知られるようになった「メタボリックシンドローム(症候群)」は、高血圧、高血糖、高コレステロール、高中性脂肪、内臓肥満などが複数起きている状態ですが、これら5つの要素のうち3つあると、腎臓病を発症する割合が1.6倍に上がります。さらに、4つあると2.5倍、5つなら3.2倍と、リスクが跳ね上がっていくのです。

また、BMI(肥満度を判断する国際的指数)が高い人は、標準範囲内の人に比べ、透析を必要とするような末期腎不全になる確率が大きく上がります。具体的には、BMIが30〜34.9だと3.6倍に、35〜39.9で6倍に、40以上ともなると7倍にアップします。

肥満者はがんにも罹りやすくなります。2016年の「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」に国際がん研究機関が発表した研究によると、太ることで大腸がんは1.3倍、膵臓がんは1.5倍、胃がんと肝臓がんは1.8倍、食道がんは4.8倍、子宮がんに至っては7.1倍も発症確率が上がることがわかったそうです。

このようにがんが増えるのは、太ると脂肪組織の炎症を起こすからです。体の中で起きる炎症は、がんだけでなく、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、腎臓病の大きな原因でもあり、肥満は命を縮めることそのものなのです。

逆に、体重を減らせば健康体に近づきます。専門的な研究で、4.5キロの減量によって血圧が下がり高血圧症は予防できるということがわかっていますし、2.25キロ減らすだけで心疾患を40%も減らすという報告もなされています。

ところが、多くの人にとって減量は難しく、太るのは簡単なのです。そのため、ほとんどの国で国民の肥満解消は喫緊の課題となっています。とくに深刻な肥満大国アメリカでは、「バリアトリック手術」という胃を小さくする手術さえ当たり前のように行われています。胃を小さくしてしまえば食べる量が減り、体重が減るという、単純明快な理論です。

なんだか大事のようですが、腹腔鏡を用いてお腹を切り開くことなく行えます。日本でも、極端な肥満者には保険適用が認められ、徐々に受ける人が増えています。

高血糖や腎臓病に飛躍的な効果

バリアトリック手術による肥満治療は、単純に体重が落ちるだけでなく、高血糖や腎臓病に飛躍的な効果をもたらすことがわかっています。


アメリカで、この手術を受けた2144名の患者さんに対し、7年間の経過観察を行った結果が、2018年に報告されています。それを見ると、慢性腎臓病のリスクが半減され、すでに悪化していた尿アルブミン値、血清クレアチニン値などの数値がかなり改善されたということです。

もっとも、あなたがこの手術を受けなくてはならないほどの肥満者である可能性は限りなく低いでしょう。私がここで述べたかったのは、ゆめゆめ肥満を軽んじてはならないということです。

私は毎朝、体重計に乗り、その増減によって1日の食事内容を考えています。医者として当たり前のことだと思っていますが、それは健康を考えるあなたにとっても当たり前のことなのです。

体重管理は、健康のための一丁目一番地だという認識を持ってください。