来年開幕するリーグの名称「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE(ジャパンラグビーリーグワン)」が会見で公表された。

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吉田宏記者のコラム、「リーグワン」が描く未来と課題を考察

 ラグビーの国内新リーグの概要が16日に発表された。18シーズンに渡り日本ラグビーを牽引してきたトップリーグ(TL)に替わり、来年開幕するリーグの名称は「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE(ジャパンラグビーリーグワン)」。参入チームの呼称も同時に発表され、24チームが3つのディビジョンに分かれて、複数総当たりのリーグ戦を繰り広げる。開幕戦が1月7日に行われることも明らかになった。国内リーグとして定着してきたTLを敢えて廃して設立した新リーグが目指すものは何なのか。リーグワンが思い描く未来と課題を考える。(文・吉田宏)

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 ファン待望の新リーグ「リーグワン」が、ようやく全容を見せ始めた。昨年1月から段階的に概要が示されてきたが、会見で初めてリーグ名称を公表。チームのディビジョン振り分けも決まり、開幕へ向けて大きなステップを踏み出した。

 リーグワンは、4つの実現するべきミッションを掲げている。

・ファンが熱狂する非日常空間の創造
・地元の結束、一体感の醸成
・日本ラグビーの世界への飛躍
・社会に貢献する人材の育成

 ミッションの内容を見ると、その多くは2019年ワールドカップ(W杯)日本大会がもたらした遺産を継承しようというものだ。1つの大会では一過性に終わるものを、継続性のあるリーグが引き継ぎ、発展させていこうという思いが読み取れる。このようなミッションも踏まえて、リーグワンがターゲットの中枢に据えるのが普及と強化だ。具体的にいえば、段階的にプロ化へ移行することによるファンの開拓、拡大と、日本代表の競技力向上こそが、新リーグへ舵を切った最大の理由になる。

 参入チームは24。当初発表された25チームからコカ・コーラレッドスパークスの廃部で1チーム減となった。最上位リーグとなるディビジョン1に12、同2、3の6チームの振り分けも明らかになった。各チームの新たな呼称と、ディビジョン分けは下記の通りだ。

▼ディビジョン1
・グリーンロケッツ東葛(千葉・我孫子、柏、松戸、流山、野田、鎌ヶ谷各市)
・シャニングアークス東京ベイ浦安(千葉・浦安市と周辺地域、※仙台市)
・NTTドコモレッドハリケーンズ大阪(大阪市)
・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(東京・江戸川、中央区、千葉・市川、船橋、千葉、市原、成田各市)
・コベルコ神戸スティーラーズ(兵庫・神戸市)
・埼玉ワイルドナイツ(埼玉県)
・静岡ブルーレヴズ(静岡県)
・東京サンゴリアス(東京都、港区、府中、調布、三鷹各市)
・東芝ブレイブルーパス東京(東京都、府中、調布、三鷹各市)
・トヨタヴェルブリッツ(愛知・豊田、みよし、名古屋各市)
・横浜キヤノンイーグルス(神奈川・横浜市、※大分県)
・ブラックラムズ東京(東京都、世田谷区)

▼ディビジョン2
・釜石シーウェイブス(岩手・釜石市)
・花園近鉄ライナーズ(東大阪市、大阪府)
・日野レッドドルフィンズ(東京・日野市、八王子市および周辺地域)
・スカイアクティブズ広島(広島県)
・三重ホンダヒート(三重県)
・三菱重工相模原ダイナボアーズ(神奈川県、相模原市)

▼ディビジョン3
・九州電力キューデンヴォルテクス(調整中)
・クリタウォーターガッシュ昭島(東京・昭島市)
・清水建設江東ブルーシャークス(東京・江東区)
・中国電力レッドレグリオンズ(広島県)
・豊田自動織機シャトルズ愛知(愛知県)
・宗像サニックスブルース(福岡・宗像市)
(カッコ内はホストエリア、※はセカンダリーホストエリア)

ホスト&ビジター制での普及拡大を狙う

 ディビジョン1の競技方法は、参加12チームが6チーム2組に分かれるカンファレンス制を導入する。同組内でホーム&アウェー(リーグワンではホスト&ビジターと呼ぶ)の総当たり2回戦、そして別組のチームと交流戦1試合ずつを行い、各チーム16試合の勝ち点で順位を争う。このホスト&ビジター制は、企業スポーツとして地域ベースで運営されてこなかったTLでは馴染むのが難しかったが、新リーグ参入条件としたことで、ようやく実現した。新リーグ、ラグビー協会では、チームを媒介にした普及面での成長を期待しているはずだ。

 TL最終シーズンも導入されていたプレーオフは採用せず、リーグ戦での成績トップが王者になる。プレーオフの不採用には反論も聞こえる。興行、メディア露出面で考えれば、注目度が高まるプレーオフでの優勝争いは優良商品だからだ。だが、様々なフォーマットで行われてきたこれまでのTLを取材した経験から思うのは、もし、そのリーグ戦自体が本当に質の高い、厳しい戦いであれば、日程終了時点でトップに立ったチームが勝者として称えられるべきだという考え方だ。

 プレーオフトーナメントの中の1つの勝敗で優勝が左右されるのではなく、長く、過酷なリーグをトップで乗り越えたことを尊重するフォーマットを、新リーグは選んだ。理想を言えば、参戦する12チーム全てがディビジョン1を戦うのにふさわしい実力をつけて臨むことが重要だ。実力に見合わないチームにより、消化試合のようなゲームが発生すれば、それがリーグ自体の価値を下げることにも繋がるだろう。

 ディビジョン2、3については、6チームが総当たり2回戦を行い、その後リーグ戦上位、下位3チームずつに分かれて総当たり1回戦を戦い最終順位が決まる。ディビジョン1同様にすべて勝ち点制で行われ、入替戦には各ディビジョンから成績上下位3チームが進むことになる。

 新リーグの準備段階では、ディビジョン間の昇降格にも、事業性などの参入条件をどこまで達成できているかが審議される可能性も語られてきたが、24チームが概ね条件をクリアしていることも踏まえて、「フェーズ1」と定められる22年からの3シーズンに関しては勝敗以外の条件は設けず、入替戦での成績に基づいた実力本位で昇降格が争われるという説明があった。

 新リーグの大会フォーマットについては、3つの狙いが説明されている。

1.高質で均衡した試合の醸成
2.ホスト&ビジター形式の実施
3.一定期間固定化されたわかりやすいフォーマット

 各ディビジョンのチーム数の割り振り(12-6-6)が1であり、より多くの実力が均衡したゲームをファンに提供しようという狙いがある。果たして12というチーム数が妥当かは、実は議論がある数字で、チーム関係者の中には高質な試合をするなら10チームが適当という意見もある。

 2に関しては、先にも述べたようにTLでは実現できなかったホーム&アウエー方式の採用に反映されているが、参入チームがどこまで地域を巻き込んだ活動、展開が出来るかという、グラウンドを離れた活動を注視し、期待していきたい。

 そして3については、毎シーズン、呆れるほど大会方式を変えてきたTLの大きな反省材料でもある。試合日程と大会方式は、W杯や日本代表の活動に大きく影響されてきた一面もある。リーグワンでは、先にも触れたように「フェーズ」という考え方を導入して、3、4シーズンを一区切りにして大会フォーマットを見直していくことになる。フェーズ1が来年からの3シーズン(22-24年)、フェーズ2がその後の4シーズン(25-28年)、フェーズ3も4シーズン(29-32年)と定めている。このフェーズごとにフォーマットを検証、修整していくことになる。

 このような複数年を1単位としたフェーズからは、新リーグ自体が、かなり急ぎ足で開幕を迎えることも感じさせる。リーグとチーム双方の運営自体に、まだ不確定、未整備な要素があるのは明らかだ。例えば、新リーグ側が強く打ち出したホスト制も、多くのチームがホストスタジアムの確定に苦戦を強いられている。ホストエリアの選定についても、呼称に「東京」が含まれるチームが、ディビジョン1の12チームの中で5チームもあるのが果たして適正だろうか。

 各チームの練習グラウンドが従来どおり企業の敷地内にあることで都市部に集中するため、首都圏をホストタウンに定めるチームは12チームの中で8チームと一局集中の状態だ。地域性を重視する新リーグ構想の中で、ホストスタジアム、エリア問題は、今後に課題を残すことになる。リーグ側が、すでにホストエリアの最終確定はフェーズ1終了までの猶予を与えていることを考えても、開幕からの3シーズンが“見切り発車”と受け止められてもおかしくない。

クロスボーダーマッチの重要性とは?

 新リーグのスタート前に準備、整備するべき課題は少なくない中で、来年の開幕を急ぐ理由が2つある。日本代表の強化と、2019年W杯で生まれた熱量の継承だ。

 19年大会の歴史的な躍進でベスト8に勝ち上がった日本代表だが、この実績を引き続き保ち、さらに高めていくためには、強化をさらに加速させる必要がある。日本代表は6、7月に、4年に1度しか編成されないヨーロッパのドリームチーム「ブリティッシュ&アイリッシュライオンズ」、そして世界ランキング4位のアイルランドとテストマッチを行ったが、もし強化の手綱を緩めれば、このようなトップクラスの強豪とのマッチメークのチャンスも減っていくだろう。代表強化のためにも、従来のTL以上の質の高い国内リーグを作ることで、代表クラスの選手のポテンシャルを上げていくことが不可欠なのだ。

 熱量の継承と書いたが、より具体的にいえば、“にわかファン”という言葉が生まれるほどにコアファン以外も惹きつけられた2019年当時のラグビーに対する注目度を、どこまで継続できるかという挑戦が、日本ラグビー界に課せられている。パンデミックにより、ラグビー界も空白の時間を強いられてきた。2019年の熱気が1日1日と冷めていく中で、新リーグの発足と、各チームの普及活動強化などを生かしながら、より早く国内でのラグビー人気、関心度を再沸騰させたい思惑がある。切実な問題を抱えながらの、乱暴にいえば見切り発進の感もあるが、歩き始める前に駆け出そうという手法が、様々な部分で齟齬を生む恐れはあるだろう。

 その一方でフェーズ制を設けたことには、単なる数年に1度の規約の見直しという発想だけではない理由もある。統括団体ワールドラグビーが現時点で構築中の様々な国際試合、国際大会のフォーマットにも対応できることを狙っているのだ。現在でもW杯の開催期間や、通常の代表戦が何月に行われるかが、国内リーグのスケジュールにも大きな影響を及ぼしているのだが、新リーグは立ち上げ段階から代表強化を大きな理念にしているだけに、国際試合のカレンダーを睨みつつ大会方式、日程に柔軟性を持たせようという考えも、フェーズ制の背景にはある。

 個人的には、新リーグの概要が発表された時点で最も注目していたのは、リーグ戦後に計画されている「クロスボーダーマッチ」の存在だ。これは、新リーグ上位数チーム(会見では、基本的にはトップ2チーム)が海外チームを交えてのトーナメントを行い、日本選手の競技力アップと、国内ファンに、より高いレベルの試合を提供することを目指している。

 背景には、サンウルブズのスーパーラグビー(SR)からの除外がある。今年の6月に、日本代表の強化試合の相手として急遽再編成されたサンウルブズだが、その最大のミッションこそが代表強化だった。代表メンバーや、将来代表に選ばれるポテンシャルを持った素材を、南半球強豪国の代表クラスの選手がプレーするSRで戦わせることで、選手のフィジカル、スキルレベル、経験値を上げていくことを目指した。サンウルブズの成果は、2019年W杯でのCTB中村亮土(サントリーサンゴリアス)らのパフォーマンスが証明している。

 サンウルブズの除外で断念した、代表強化には重要なSRという舞台の代案がクロスボーダー大会に期待される。個人的には、単独チームで戦うことがベストの選択とは思わないが、日本のトップ選手が海外強豪チームとの真剣勝負で得る経験値は貴重なものだ。国内リーグ戦が目玉の事業となる新リーグ構想に付随させて、敢えて国際大会を設けようという発想自体は評価していいだろう。

 だが、リーグ戦以上にクロスボーダーマッチ開催のためのハードルが高いのは、会見で示された説明でも明らかだ。一般社団法人ジャパンラグビートップリーグ(JRTL)の太田治業務執行理事はこう語っている。

「相手のあることなので、いま南半球と交渉中している。コロナの状況の中、先方のスケジュールも踏まえて、というところで交渉している。決まり次第お知らせしたい」

 現状では、海外から参入するチーム名はもちろん、どのようなフォーマットで行われるかも決まっていない。今年1月にこの大会の導入が明らかになった時から、ほとんど進展していない状態だ。新型コロナウィルスによるパンデミックが、いまだに終息できず、なおかつ国・地域による感染状況にバラつきがある中で、プランを前進させるのは相当に難しいのが現実だ。ラグビーでは、欧州やオセアニアなどの地域ベースでは国際試合も行われている一方で、パンデミック以降、日本での国際試合はオリンピックの7人制を除けば、いまだに実現していない。

 参入候補の海外チームも、クロスボーダー大会以外の活動予定が確定できない中で、調整は難航している。最悪のシナリオとしては、来季の開催の見送りも考えなければならない状況だが、代表強化、とりわけ2023年の次回W杯へ向けて重要な課題になるであろう選手層に厚みを持たせるためには、代表以外のメンバーの強化にも繋がるクロスボーダー大会の実現を重要課題と考えるべきだろう。

求められるリーグ、協会のリーダーシップ

 開幕まで半年とカウントダウンが加速する中で、参入チームには、強化と地域を巻き込んだ普及活動、ホストスタジアムの選定などが直近の課題になる。中期的には、おそらく3シーズン終了時にリーグ側から提示される、さらにプロ化、事業化に踏み込んだ財務等の条件をどうクリアしていくかという挑戦も求められるはずだ。

 リーグ自体にも課題は山積している。顕著なのは、新リーグの規約、概要などの策定が、開幕へ向けて加速できないことだ。もちろん、新リーグという白いキャンバスに細部に渡り絵を描いていくのは膨大な時間が必要なのは明らかだ。しかし、リーグ名称の発表は1か月遅れだったが、そもそも6月に発表出来たとしても、開幕まで7か月でのお披露目は早いとは言えない。ファン、関係者へ、1年前に示すべきことが、今行われている印象だ。会見では「TLは大事なアイデンティティー。これを、最後まで発揮していただきたい思いがあり、TLが終わった後に新しいリーグのことをと考えていた」という説明があった。TLや代表活動中に新リーグ事案の発表を控えたいという配慮は正当な判断だが、むしろリーグのクライマックスや代表活動より前倒しで発表するべきだった。

 大会日程や事業計画などの確定は9月になるという後手後手の対応は、ラグビー協会、リーグ側が主導権を持って物事を進めることが出来ない現実を示している。

 日本のラグビーは、チームを保有する企業名を見ても明らかなように、伝統的に国内有数の大企業が支えてきた。従来の企業スポーツからプロ化へと移行していこうとする新リーグでも、現状では、その大半のチームが親会社の100%出資であることは変わりない。一時は、大きくプロ化に舵を切った青写真が描かれた新リーグ構想が、段階的にプロへ移行していく構想に軌道修正されたのも、参入企業からの理解を得られなかったからだ。そこには、Jリーグ、Bリーグなどがリーグ側主導で運営、変革がスピード感を持って行われてきたのとは対照的な姿が浮かび上がる。

 このような状況下で、リーグ、協会側が、いかにイニシアチブを持って、開幕へ向けて準備を進め、そして開幕後の修正に着手していくのだろうか。

 W杯日本大会で、代表チームがベスト8という結果を残し、ラグビーの注目度も飛躍的に高まったことで、日本ラグビー協会の中では、プロ化への勢いが加速したのは間違いない。企業からの資金投下で、事業性にメスを入れることなく続いてきた、いわゆる企業スポーツという形態の将来的な限界と、日本代表が2019年以上の結果、そして日本協会が中長期的な目標に掲げるワールドカップ優勝という夢を実現するために、強化をより高いレベルで行う必要性を考えると、プロ化が大きなカギを握ると結論づけられたからだ。

 そのために、来年1月という急ぎ足でのスタートラインに立たされたのが、リーグワンが置かれた現実だ。すでに最終コーナーを回り、ラストスパートに入る段階だが、開幕というゴールの前には、まだ乗り越えなくてはならないハードルが並んでいる。

 ここまでに指摘してきた様々な課題に加えて、今回発表された事案の中では透明性を考えさせるものもあった。公正さを保つため、谷口真由美委員長以外のメンバーを非公開で設けられた新リーグの審査委員会が、協会、リーグ側に提出した参入チームのディビジョン分けのための評価(採点)を、協会側が再計算するなど、ファン、外部者には理解が難しい事態が起きている。そもそも、どのようなチーム評価でディビジョン分けが行われたかも非公開としているのだ。ここには、企業の財務関係など、公開が難しい領域があるのは理解できるが、一部の“黒塗り”を認めながらでも、出せるものは極力出す――という姿勢がほしかった。

 今回の会見では、新リーグのヴァリュー(価値)として「みんなのためのFOR ALL」と謳われている。この言葉の価値を忘れてはいけないのは、ファンではなくリーグ側に他ならない。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏

 サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。W杯は1999、2003、07、11、15年と5大会連続で取材。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。