保護猫の「譲渡会」。人と猫との貴重な出会いの場に<川上麻衣子の猫とフィーカ>
女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。
一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地でもあるスウェーデンのこと(フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと)などを写真と文章でつづります。
第2回は、川上さんが支援活動を行う、保護猫の「譲渡会」について、詳しく教えてもらいました。
川上さんが、譲渡する側として一時的に預かっていた保護猫たち
保護猫の「譲渡会」って?女優・川上麻衣子さんの預かり体験
今回は、猫の譲渡会についてのお話を少ししたいと思います。
わが家には現在2匹の猫がいますが、どちらも保護猫と呼ばれる猫になります。つまり、「野性で生まれた猫を人間が保護し、動物病院で検査やワクチンを打ってもらったあとに引き取る」という工程でわが家にやってきた猫たちです。
もともと保護猫だった、川上麻衣子さんの愛猫、タック(左)とココロ(右)
私の場合は譲渡会での縁ではなく、保護猫の活動をしている友人からの情報で、直接譲渡をしてもらいました。
●保護猫の「譲渡会」とは
ご存知の方も多いかもしれませんが、保護猫の「譲渡会」とは、動物愛護団体や個人の方(保護主)に保護された猫を里親希望の家庭へ譲り渡す取り組み。猫を譲り渡したい保護主さんや、猫を譲り受けたい里親さんが参加し、一対一で譲り受けるのとは異なり、たくさんの猫たちに出会うことができます。
保護猫には、生まれたばかりの子猫たちも
最近は、ペットショップで猫を購入するのではなく、動物病院での里親募集や譲渡会の情報をインターネットで検索し、譲渡会に足を運んでご縁を見つける方が増えてきています。この流れはじつにうれしい傾向で、1匹でも多くの猫たちが安全な場所で愛情を得て暮らしていけることを願わずにはいられません。
ペットショップでの、いわゆる生体販売を行っている国は、世界に目を向けてみると、わずかしかありません。日本では、いまだに動物虐待であったり、多頭崩壊、殺処分など問題は山積みの現状ですから、先進国として解決への手段が問われているように思います。
●初めての譲渡会のお手伝い。3匹の子猫を預かることに
千駄木あるサロン「Maj no ma(まいの間)」で保護猫の譲渡会を開催する川上麻衣子さん
さて、では具体的に猫の譲渡会っていったいどんなことを行うのか?
意外に知らない方も多く、参加することをためらう方もいらっしゃることと思います。私自身、譲渡会のお手伝いをするまで、実際にどんな方法で譲渡が行われるのか、まったく知りませんでした。
そんな私が、譲渡する側として保護猫を譲渡会デビューできる状態にまで育てるお手伝いを始めたのが、2020年5月、新型コロナウイルス禍での最初の緊急事態宣言が発令されいた時期。ステイホームとなったことをきっかけに、挑戦してみることにしました。
ボランティア団体さんから託されたのは、まだ300gほどの兄弟猫3匹。オスかメスかも確定できない小さな小さな3つの命。まずはワクチンを打てる600gまでに成長させることが第一目標となりました。
仔猫特有のキトンブルーというブルーの瞳が愛らしい3匹を、仮の名前として「ヤッチー」「ネッズ」「セン」ちゃんという縁のある土地柄「谷中、千駄木、根津」にひっかけて「谷根千トリオ」と命名しました。
先住猫2匹の反応も興味深い毎日でしたが小さな3匹を育てる毎日は、ハラハラドキドキ。不安だらけではありましたが、結果的に初心者の私にはありがたいことに、健康に大きな問題も起きず元気いっぱいの子猫たちで、ステイホームのストレスを感じることなく、保護猫の成長を見守ることができました。
●保護猫が譲渡会デビューするための準備
川上さん宅のタックと預かった子猫
保護猫が譲渡会をとおして里親さんに渡るまでの大まかな流れは、動物愛護団体や個人(保護主)で保護→保護主がワクチン摂取含め、譲渡できる状態になるまでしばくお世話→譲渡会で里親の元へ、というような形が基本。動物愛護団体で保護した猫は、今回の私のように、希望者がボランティアで譲渡会デビューまでのお世話を引き受けることもあります。
そんな保護猫たちが譲渡会にデビューするまでには、いくつかの条件をクリアしなければなりません。子猫であれば、食べることも排泄も自立し、ワクチン接種をすませていること。人に慣れていること。
私が預かった3匹は1か月ほどをわが家で過ごし、幸運にも無事に兄弟3匹そろって、譲渡会をとおしてある家族のもとに譲渡が決まりました。
子猫の場合は、人に慣らすことにそれほど苦労することはありませんが、保護主さんたちのお話を聞いていると、成猫となって保護された猫たちのなかには、かなり人間に怯え、凶暴な猫も多いそうです。
そんな猫を、人間とともに暮らせるようにするためには、相当な努力と忍耐、そしてなにより愛情が必要となりますが、長い時間を経て、人に慣れてくれた猫の愛おしさもまた格別であることは間違いありません。
譲渡が決まったときの気持ちは、うれしさと寂しさの入り混じった不思議な感覚で、私自身、譲渡後数日は、心にポッカリと穴が開いたようでした。それでも、今では新しい家族のもとで暮らす3匹の近況が届くたびに、微笑ましい気持ちで満たされます。
●譲渡会は保護猫に触れ合える場でもあります
里親になりたいと希望した場合の条件については、譲渡会を開催するボランティア団体さんによって多少の違いはあるようです。年齢や生活スタイルなどに非常に厳しい審査があるという話もよく耳にします。
背景には、譲渡先での虐待事件が多発したことなどが影響していますが、私が協力している「しあわせにゃんこ
」という団体さんは、条件の幅をできる限り希望者に歩み寄りながら、完全室内飼育を条件に譲渡を行なっています。
譲り受ける際にかかる費用(譲渡費)は、主宰する団体によっても異なりますが、保護されている間に受けたワクチンや検査、不妊手術、運営費などの一部を負担する形で、大体2〜30000円〜という場合が多いようです。
昨年の2020年はコロナ禍にありながら、しあわせにゃんこさんとともに行った譲渡会で300匹近くの猫たちにご縁が生まれました。
猫保護主さんの活動を間近で知るようになり、さまざまな問題をより強く感じるようにもなりました。保護主さんたちの活動には、本当に頭が下がります。
その反面、ヒステリックに猫たちが抱える厳しい環境を伝えても、なかなか受け入れてもらえない現実もあります。地域での猫の保護活動には、猫を好きな人よりも猫を嫌いな人の方が協力的な場合がよくあるそうです。
気持ちを柔軟に、人と猫との共生を考えていかなければと感じる日々。譲渡会には、飼いたくても飼えない猫好きな方が、触れることだけを目的に来場されることもあります。ぜひ一度気軽に譲渡会を訪れ、現場で活動しているスタッフさんに耳を傾けてみてください。
【川上麻衣子さん】
女優。1966年生まれ。14歳でデビューし、数々のテレビ・映画・舞台に出演。愛猫家としても有名で、2018年に仲間とともに一般社団法人「ねこと今日 Neko-to-kyo
」を立ち上げ、理事長を務める。2019年千駄木にサロン「Maj no ma(まいの間)」をオープン。YouTubeチャンネル「川上麻衣子ねこと今日neko-to-kyo
」にて動画も配信中。著書に『彼の彼女と私の538日 猫からはじまる幸せのカタチ
』(竹書房刊)など