嫌なことを言われたときに「ちょっとだけ反撃」するコツを伝授します(出所:『マンガ版 ちょっとだけ・こっそり・素早く「言い返す」技術 』より)

「言い返したい! でも言い返せない……」

そんな悔しい思いをしている人も少なくないはず。でも、無神経な言動を繰り返す人を完膚なきまでにたたきのめす必要はありません。大切なのは、「ちょっとだけ反撃」をして、身を守ること。

精神科医・ゆうきゆう氏と漫画家Jam氏のコラボによる『マンガ版 ちょっとだけ・こっそり・素早く「言い返す」技術』から、「巧みにかわす」「賢く言い返す」コツを漫画とともにお届けします。

まずは相手の「急所」を探ってみよう


まず大切なのは、悪口を言う人は「自分が言われていちばんヘコむことを言っている」ということを知っておくことです。相手はあなたを攻撃することで、無意識のうちに、その急所を、あなたにも伝えているのです。

そしてこの考え方さえ知っておけば、相手からどんな悪口を言われても、決して気にならないはず。

「あぁ、この人は、○○と言われるのがいちばんイヤなんだなぁ……。かわいそうに……」

そんなふうに考えてみれば、相手に対する憐みの気持ちが湧いてくるはず。

そうすれば、相対的に自分自身の気持ちがラクになってくるはずです。ですので、相手の悪口で深く傷ついたのであれば、本当ならその悪口をそのまま返すのがいちばん効果的です。

「最低はどっちでしょうか?」

「バカ? そんなこと言うほうがバカでしょう……?」

こう言われれば、相手はハラワタが煮えくりかえるはずです。しかし、その後はどう考えても売り言葉に買い言葉。火に油を注ぐことになります。

急所はサラリとなでてみる


悪口を相手にそのまま返すのではなく、「相手の言う悪口に関わる事実を、質問形式で突いてみる」ことが有効な攻撃方法と言えます。この方法ならあなたは相手の悪口をハッキリ言ったわけではないので、相手はそのまま引き下がれば痛いところをつかれずにすむ。つまり、相手に逃げ道を用意していることになります。

この戦術はあなたが一時的に溜飲を下げられるというだけでなく、次の日から相手はあなたを攻撃しづらくなることは間違いありません。なぜなら、あなたを攻撃しようとするたびに、あなたに急所を突かれそうになった記憶が頭をよぎるからです。

人間は、ある行動によって嫌な思いをしたとき、同じ行動をしづらくなるものです。こういったことを「強化」と言います。そしてこの「強化」は、たとえ「どうしてそうなったのかがよくわからなくても」起こります。つまり、あなたが「実は相手の急所を知っている」ことが相手に伝わらず、「偶然、その話題を提示された」場合でも効果があります。

ですので、あなたは「相手の急所だとわかってやっている」ことを示す必要はありませんし、そうすることは恨みを買うので賢明ではありません。

話す気力をどんどん奪う 会話ルールとは?


あなたに悪口を言う相手はあなたの反応を見たくてやっている場合が多いものです。

ですので、あなたの反応をあえて相手に見せない、つまり無視をするというのも1つの戦略ではあります。つまり、相手の言う悪口に対しては、何のストロークも与えないこと。積極的な肯定や否定は、事態を悪化させるばかりです。ただし、面と向かっている相手に攻撃されているのに無視する、というのはなかなか難しいのではないでしょうか。

◎論点をそらして相手をコースアウトさせる

人間の気持ちは車みたいなもの。一度でも動けば後は惰性でも動きますが、一度ストップしてしまうと、またエンジンをかけるのは大変なものなのです。とにかくどんな形であっても、人はいったん会話が止まれば、なかなか話をまた続けるのは大変なものです。

だからこそ、例えば「スプーンを落とす」などで止めるのも立派な作戦だと言えます。でもさすがに不自然なので、もっとシンプルな方法を提案いたします。それは、やはり「とにかく『質問』をすること」。まずは相手が話したら、とにかくそれに対して「なるほど」「そうですね」と受け入れること。これは何より大切です。

その上で、一にも二にも積極的に質問を投げかける。話を広げる質問。すなわちオープンクエスチョンを投げかけるのがいいです。質問は基本的に「相手の話が聞きたい」という意志につながるわけだから、それを聞いてイヤに感じる人はいません。

これによって、あなたが会話の主導権を握るわけです。そして少しずつ主導権を握ってきたら、今度は「話の終わりに関わる質問」をすること。「例えば納期が遅れた」という文句を言われているのなら、「申し訳ありません。それで、結局どういう形で決着をつければよろしいのでしょうか?」というように、時間的にラスト近辺の質問をするわけです。

こうすれば相手はそれに答えざるをえませんし、無意識に話題を終了に近づけることができます。少なくとも、「配送を待っていた」という文句を延々と聞かれることはありません。

さらにそのうえでなら、「これからはこういったことがないように注意いたします。すみません」と、こちらから話題を切りやすくなるわけです。

車で例えるなら、相手の車を強引に止めるわけではなく、少しずつコースアウトさせていくような感じです。相手の望む、舗装された道から、少しずつ行き止まりの道に路線変更させるわけで車は自然に進んでいるけれど、結果的に止まるしかありません。

「あえて敬語」で 相手の武装はユルくなる


朝令暮改の上司や、雑用を押し付けてくる同僚、締め切りを守らない部下など、一言モノ申してやりたいけどつい言いそびれてしまうことがあるでしょう。

そんなとき、自分の激しく高まる気持ちを逆手にとって利用していただきたいのが、この「反動形式」の戦術です。もちろん、口論の最中に取り入れてみるのもよいでしょう。

怒りや、激しい欲求を感じたら、即座に丁寧な言葉の装飾にくるんで相手にアプローチしていけばいいんです。

「俺みたいなヤツに言われても、違和感を覚えるかもしれませんが」。反論をする枕詞に、こんな言い方をしてみましょう。「うん」って言われる可能性もありますが、そういう可能性はほとんどありえません。攻撃を仕掛けた側は優位に立っているわけですから、それをさらに優位にしようと思う気持ちは生じにくいのです。

自然、「そんなことないよ」という程度の低い姿勢に相手の立ち位置が変わります。もしも相手が心底あなたを憎んで攻撃しているような場合は別ですが……。

他人は、「自分の言動によって、感情を変えてしまうもの」。すなわち、この会話の場合、敬語や丁寧な言葉を枕につけるだけで、高圧的な相手であっても、自然にあなたの立ち位置まで降りてきてくれるのです。あなたと相手の立場はこれで、横一線。引け目を感じず、自分の言いたいことを堂々と述べていきましょう。


もちろん、相手にスキを与えないためには、必要以上にへりくだる必要はありません。しかしこのようにあえて戦略的にマイナス面を披露して、相手の気持ちを自分のほうに引き寄せる、という作戦も、時には有効なのです。

まとめましょう。フロイトの「反動形成」によって、自分の気持ちが強くなればなるほど、発する言葉は「敬語」的に、すなわち「自分のスタンスが低く」なるものです。

フロイトはそれをあまりいい心の動きとはしませんでしたが、でも実は、それは上手に自己主張をしていくためには重要な方法。引かれれば追いたくなり、押されれば引きたくなるのが人の気持ちですから、意図的に自分の「マイナス」を全面に出すことで、相手のあなたに対する気持ちを「プラス」に変えてしまいましょう。

それはまさに磁石のように、相手の心を引きつけるゲームなのです。

相手は思わず、拍子抜け!?

このように、相手を動かしたいと思ったら、自分からちょっと引いてみる作戦が効果的です。「貴重なご意見、本当にありがとうございました。とても参考になりました」相手も、批判的な言い返しに「お礼」を言われるため、ちょっと拍子抜けするはず。かえって恐縮するはずです。それだけでも、相手の攻勢を弱める効果が十分にあるはずです。

とにかく、いずれの場合も、押しの一手でぶつかっていく必要はありません。相手を動かしたいと思ったら、表面上の言葉のやりとりより、水面下の心の動きに着目して揺さぶっていくのがポイントなんです。