川崎GKチョン・ソンリョン【写真:高橋学】

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2020年9月 Jリーグ月間ベストセーブ by 楢粼正剛 チョン・ソンリョン(川崎)

 J1リーグはシーズンの半分を折り返した。

 各チームの戦いぶりはもちろん、数々の好プレーにも熱視線が注がれているなか、「DAZN」のパートナーメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」の新企画として、元日本代表GK楢粼正剛氏に9月の「月間ベストセーブ」を選出してもらった。

 7月上旬に新型コロナ禍による中断から再開されたJ1リーグは、9月に第14節〜19節の5節分を消化(延期分、AFCチャンピオンズリーグ出場組の前倒し分除く)。そのなかから楢粼氏が「ベストセーブ」に選んだのは、第18節の川崎フロンターレ対横浜FC戦(3-2)で生まれた、川崎GKチョン・ソンリョンのビッグセーブだ。

 川崎が2-1でリードして迎えた後半20分。自陣ゴール前からのビルドアップを試みたチョン・ソンリョンは、右サイドのDF山根視来へパスを展開するも山根がボールロスト。すると、そこから横浜FCのショートカウンターを受ける形となり、MFレアンドロ・ドミンゲスからのラストパスを受けたFW瀬沼優司と1対1の局面に。ここでチョン・ソンリョンは、瀬沼のシュートを左手に当てブロック。ボールはクロスバーに当たり、間一髪でピンチを免れたというシーンだった。

「点差や時間帯を踏まえたうえでのチームへの貢献度と、難しいシチュエーションのなかでしっかり対応できていたことを踏まえて選びました」と楢粼氏。結果的に勝利した川崎だが、後半早々に1点差へ追い上げていた横浜FCの勢いを考えれば、このセーブシーンがその後の展開を左右した一つの分岐点だったと言えなくもない。そうした意味でも、チョン・ソンリョンのセービングに対する価値の高さが浮かび上がる。

「攻撃力のある川崎なので、失点しても取り返してくれるのかもしれないですけど、GKのプレーで流れを引き戻すところが見られたシーンだったと思います。“たら、れば”の話にはなってしまいますけど、仮にこの場面でゴールが決まっていたら、川崎にとっては尻に火が付くどころか、勝ち点を取りこぼしかねない状況になっていたかもしれません」

 さらに楢粼氏は、このシーンにおけるGKの技術的な難しさも指摘。一つのポイントに挙げたのが“姿勢”だ。ピンチの局面で、チョン・ソンリョンは前に出る動作を見せていたが、楢粼氏によると「前に詰めながらという動作で構えると重心の位置が中央に取りづらかったり、ブレてしまったり、体から倒れてしまったりと、GKにとってあまり良くない姿勢になりかねない」という。そうした状況でも、「しっかりと構えられ、ボールを見て素早くリアクションできていた」と、このセービングを高く評価している。

考える時間が少ないなか、チョン・ソンリョンの判断は“妥当”だった

 難しさはGKの判断にも言える。ピンチを迎えたのは、相手にボールが渡ってから約3秒後。ある程度攻められているなかで予測がつく状況とは違う。こうした状況で一か八かのプレーを選択するGKもいるというが、チョン・ソンリョンの場合は、「考える時間が少ないなかで構えて動かない判断を下し、なおかつ、ボールへしっかり反応していた」と評価。ゴールから飛び出して対処するという選択も考えられなくはないが、楢粼氏はチョン・ソンリョンの判断が“妥当”だったと見ている。

「飛び出すのもありだったかとは思うんですけど、それにしては少しFWまでの距離があったのと、飛び込んできているのを相手FWが見たら浮かしたシュートを打たれる可能性もあります。体を倒していたら実際のシュートと同じようなものが飛んできた場合、ゴールになっていたでしょう。止める確率を上げるという側面から言うと、あのプレーを選んだのは正解だったと思います」

 攻撃力だけでなく、リーグ最少失点(10月12日時点)の守備力も光る今季の川崎。ディフェンス面においては、楢粼氏が「いろんなことを高いレベルでこなし、欠点が少なく安心感を与えられる選手」と評するチョン・ソンリョンが果たす役割も、大きな鍵を握っていると言えそうだ。

[プロフィール]
楢粼正剛/1976年4月15日生まれ、奈良県出身。1995年に奈良育英高校から横浜フリューゲルスに加入。ルーキーながら正GKの座を射止めると、翌年にJリーグベストイレブンに初選出された。98年シーズン限りでの横浜フリューゲルス消滅が決まった後、99年に名古屋グランパスエイトへ移籍。10年には、初のJ1リーグ優勝を経験し、GK初のMVPに輝いた。日本代表としても活躍し、国際大会では2000年のシドニー五輪(OA枠)、02年日韓W杯などに出場。昨年1月に現役引退を発表し、現在は名古屋の「クラブスペシャルフェロー」に加え、「アカデミーダイレクター補佐」および「アカデミーGKコーチ」を兼任する。(Football ZONE web編集部・橋本 啓 / Akira Hashimoto)