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「ibuki」(いぶき)と呼ばれる子ども型のアンドロイドを知っていますか。

子どものデザインが採用されていることには大きな意味がある。多くの人は「子どもを守ってあげたい、手を差し伸べたい」という感情を持っている。ibukiは周囲の人に助けを求めながら社会の中でどう振る舞うか、という人間性の研究に活用されている。



「JST ERATO 石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト」(HRIプロジェクト)が、8月6日に開催した研究&成果発表のための第四回シンポジウムの中で、大阪大学基礎工学研究科 助教の仲田 佳弘氏が「人と共に行動する車輪移動型 子どもアンドロイドの研究開発」というタイトルで「ibuki」を紹介、その研究内容と、現在の開発フェーズを公開した。



HRIプロジェクトは人間と親和的に対話することができる自律型ロボットの実現に向けた研究を進めている。(関連記事「ヒト型ロボット「知的システムの実現への構成的アプローチ」人間らしい会話と社会での共生「石黒共生HRIプロジェクト」成果発表」)





■動画 ibuki Joy of living:



●車輪移動型 子どもアンドロイドの研究

ibukiが発表されたのはおよそ2年前。発表ではハードウェアが中心に紹介され、当時は遠隔操作ロボットという位置づけだった。



2018年7月 発表会でのibuki。関連記事「移動式子供型のアンドロイド「ibuki(イブキ)」、石黒教授らが発表 アンドロイドの対話の進化も」

●自律動作ロボットに進化

その後、センサー類を追加し、それらの統合システムや、自律化と動作の自動生成といったソフトウェア連携の研究開発を進めた「バージョン2」へと移行している。



現在は、カメラ、マイクアレイ、IMUセンサー、自律移動のためのレーザーレンジファインダー等が搭載されている。



身長約120cm、体重は約38.6kg(バッテリー含む)、自由度は46

自律動作にはシュミレータが重要になってくる。開発中の動作プログラムを実際にibukiで稼働させる前に、シミュレーション上で実行して正しく意図通りに動作するかをチェックする。そのシュミレータシステムも開発されている。

ibukiを活用した研究開発において、もっとも重要なポイントは3つある。



●歩行にも感情表現

ibukiにもHRIプロジェクトらしい研究が詰まっている。まず、人の歩行を身体全体で表現することだ。ibukiは移動できる車輪機構を持っているが、人が歩行する動作を模倣し、車輪機構でありながら、移動時には上半身を上下に動かして、身体全体で歩行を表現するためのアクチュエータが下半身に組み込まれている。



■動画 Walking-like motion:



また、移動中の動作にも感情表現を与え、嬉しそうに歩く、怒って歩く、悲しそうにトボトボと歩くなどを表出し、その感情が周囲の人にどのように受け止められるかを実験した。



■Perception of Emotional Gait-like Motion of Mobile Humanoid Robot Using Vertical Oscillation:



●「GAN」を用いて「人らしい動作の自動生成」

更には最新のAI技術のひとつ「GAN」を用いて「人らしい動作の自動生成」を行なっている。46自由度を使って人らしい動作を生み出すしくみにGANを使った。「GAN」はGenerative Adversarial Networksの略称で、日本では「敵対的生成ネットワーク」と訳されている。GANは複数のニューラルネットワークが敵対し、お互いを騙すことで競い、自動的に学習・成長を繰り返すAI生成モデルのこと。



2人1組で会話している映像を撮影。そこからホネホネ検出と解析を行って、動作を抽出して、GANを用いて学習してモデル化した



生成した動作モデルをibukiのシュミレータで稼働させて検証、実機に反映した

●人と手を繋いで歩くことの意味と重要性

冒頭の動画の中でも人とロボットが手を繋いで歩くシーンが見られるが、このように手を繋いで移動することで人の感情にどのような変化がみられるかを調査した。





「対話以外の方法で人に意図を伝えられるか」人の移動での感情表出も、コミュニケーションのひとつとして大きな意味がある。手を引いてもらっているときは、肩関節のセンサーで人の位置を把握し、引いてくれている人についていくような動きを行う。



更には、ibukiが人に道案内をするケースも想定して実験が行われた。手を繋いでいない場合、ibukiに案内してもらっている人はibukiに視線が集中しているが、手を引かれている場合はibukiに視線を置かず、周囲に広く視野を広げていることがわかった。

子どものデザインが採用され、車輪機構を持つユニークなアンドロイド「ibuki」は、それを受け止める周囲の人間の反応の変化や影響を調査するために研究と開発が進められている。それは人間とアンドロイドの結びつきや連携、コミュニケーションなど、多くの分野で役立つものだ。

今後もibukiの研究結果や成果、進化に注目していきたい。



■ ibuki -Breathing life-:



(神崎 洋治)