楽器のルーツや生まれたワケを知れば、さらに音楽が楽しくなるはずだ(写真:EmirMemedovski/iStock)

モノ情報誌のパイオニア『モノ・マガジン』(ワールドフォトプレス社)と東洋経済オンラインのコラボ企画ちょいと一杯に役立つアレコレソレ「蘊蓄の箪笥」をお届けしよう。

蘊蓄の箪笥とはひとつのモノとコトのストーリーを100個の引き出しに斬った知識の宝庫モノ・マガジンで長年続く人気連載だ。今回のテーマは「世界の楽器」。意外と知らない基本中の基本から、あまり知られていない逸話まであっという間に身に付く、これぞ究極の知的な暇つぶし引き出しを覗いたキミはすっかり教養人だ。

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01. 楽器は西欧語で「instrument」「organon」

02. 語源はそれぞれ道具を意味するラテン語instrumentum、ギリシャ語organonに由来する

楽器の分類は大きく5つに分けられる

03. 楽器は、ザックス=ホルンボステルによる分類で体鳴楽器・膜鳴楽器・弦鳴楽器・気鳴楽器・電鳴楽器の5つに大きく分けられる

04. 体鳴楽器は楽器の主要部分の本来的な性質から振動が起こるもの。木琴やシンバルなど

05. 膜鳴楽器は膜の振動によって音が鳴るもの。太鼓など

06. 気鳴楽器は空気の振動によるもの。木管楽器、金管楽器、オルガン、ハーモニカなど

07. 弦鳴楽器は弦の張り方と共鳴体の関係により、さらにツィター属、リュート属、リラ属、ハープ属に分類される

08. 西洋音楽では、楽器の分類として弦楽器、管楽器、打楽器の3分法が慣例

09. これに鍵盤楽器を加えて4分法とする分類もある


10. 弦楽器はさらに「撥弦楽器」「擦弦楽器」「打弦楽器」に分けられる

11. 管楽器は「金管楽器」「木管楽器」に分けられる

12. 金管楽器は金属製のマウスピースに唇を押し当て、振動させて音を出すもの。トランペットやホルンなど

13. 木管楽器はリードを使用して音を出すもの。フルートやサックス、オーボエなどが分類される

14. 世界各地で伝統的な楽器分類がある。中国では「八音」として金・石・絲・竹・匏・土・革・木に分けられる

15. 日本の伝統音楽では、邦楽器全般を「鳴物(なりもの)」と称する

16. 太鼓などの打楽器を「打物」、筝・琵琶などの弦楽器を「弾物」、尺八や篠笛などの管楽器を「吹物」と呼ぶ

17. 6月6日は楽器の日。「芸事の稽古は6歳の6月6日から始めるとよい」という言い習わしに由来

18. 楽器の起源は明らかになっていないが身体の一部や物をたたく単純な動作が原初的なものとされる

19. 人類が最初に手にした楽器は打楽器と考えられている

20. 太鼓や笛の類はほとんど世界中に分布し、これらは相互影響なしに独立して発生したと考えられる

21. 世界最古の現存する楽器は約4万2000年前の旧石器時代の笛。ドイツのシュヴァーベンジュラ山脈で発見された、マンモスの角とコブハクチョウの骨で作られたもの

22. 日本では約3000年前の和琴が青森県是川中居遺跡から発掘。世界最古の弦楽器ともいわれる

23. 弦を弾く「撥弦楽器」の起源は古く、ハープ状の楽器は紀元前3000年頃の古代メソポタミアに記録が残る


美しい音色を奏でるハープ(写真:recep-bg/iStock)

24. ハープの起源は狩人の弓と考えられている

25. 古代ギリシャ神話には伝令の神ヘルメスが亀の甲羅に弦を張って奏でた竪琴のような楽器「リラ」が登場する

26. ギターの先祖は中世にアラビアのウードがヨーロッパに伝わったリュートとされる

27. リュートはバロック絵画に最も多く登場する楽器

28. 奈良時代に中国から伝来した琵琶も、ウードをルーツとする撥弦楽器と考えられる

29. 現存する最古の琵琶は正倉院に保存されている

30. 古代ギリシャ・ローマでシンバルが酒と宴の神ディオニュソスと大地の女神キュベレを讃える儀式で使われた

「チャルメラ」は16世紀に日本に渡ってきた

31. フルートのルーツは葦の笛

32. 古代ギリシャには「アウロス」と呼ばれるダブルリード楽器があり、オーボエのルーツとされている

33. 古代ペルシャの楽器「ソルナ」を起源とするダブルリードの管楽器「ズルナ」がオーボエの前身とする説もある

34. ズルナは13世紀の十字軍時代に中近東からヨーロッパに伝わり「ショーム」と呼ばれオーボエやファゴットへと進化したという

35. ズルナは「チャラメラ」の名でポルトガルに伝わり、これが16世紀末に日本に渡って「チャルメラ」となった

36. 18世紀にドイツ人が「シャリュモー」という楽器を改良してクラリネットとなった。シャリュモーはチャラメラのフランス語読みである

37. バイオリンやチェロの弓に張られているのは馬の尾の毛。1本の弓に約150本の毛が使われる

38. 南イタリアではバグパイプの一種として、羊の皮を1匹分丸ごと風袋に使うザンポーニャという楽器がある

39. ラテン音楽で用いられるキハーダという楽器はロバや馬の下あごの骨と歯でできている。北島三郎の『与作』にはキハーダが使われている

40. ディジュリドゥはオーストラリアの先住民アボリジニが使用していた管楽器。シロアリに食べられて空洞になったユーカリの木を使う

41. 人骨で作られた楽器もある。チベットの「カンリン」は風葬で弔われた死者の大腿骨から作られる笛

42. インドやチベットでは、人間の頭蓋骨を2つあわせたダマルという太鼓がラマ教の儀式で用いられる

43. ダマルは日本の民芸玩具「でんでん太鼓」の起源と考えられている

44. 北インド発祥の弦楽器シタールはミンドという奏法で音程を変化させ、金属製の爪で弦を弾いて演奏する

45. 20世紀半ばに登場したシタール奏者ラヴィ・シャンカールはロックやポップスに影響を与え、ビートルズの『ノルウェーの森』でシタールが使用されている

46. アメリカの人気歌手ノラ・ジョーンズとシタール奏者アヌーシュカ・シャンカールはシタール奏者の大御所ラヴィ・シャンカールの娘で異母姉妹の関係

オルゴールのルーツはアフリカの楽器ともいわれる

47. ツィターは主にドイツ、オーストリア、スイスで使用される弦楽器で、その名はギリシャ語のキターラ(ギターの語源)に由来

48. ツィターは映画『第三の男』でアントン・カラスが演奏したメインテーマの楽器として知られる

49. カウベルには家畜用と楽器用があるが、マーラーの交響曲第6番や第7番で使用されるのは家畜用のカウベル

50. アフリカのカリンバは細い金属板を指で弾いて演奏する楽器でオルゴールのルーツともいわれている

51. ペルー発祥のカホンは木の箱にまたがって打面を叩く打楽器。近年はストリートミュージシャンが愛用し人気

52. ガムランはインドネシアの伝統芸能カラウィタンに使われる楽器の総称

53. インドの古典楽器ジャラタランガムは「水を連ねたもの」の意。水を入れた磁器の器を竹の棒で叩いて演奏する

54. ほら貝は日本で平安時代から吹物として使われ、東南アジアやオセアニアでも広く楽器として用いられてきた


戦いや儀式の合図に使われていたほら貝(写真:vasyow/PIXTA)

55. 戦いや儀式の合図として、ヨーロッパではトランペットが、戦国時代の日本ではほら貝が使われた

56. トリニダード・トバゴでドラム缶の底の部分から生み出されたスティールパンは「20世紀最後にして最大のアコースティック楽器発明」といわれる

57. アルゼンチン・タンゴに欠かせないバンドネオンは、もとはドイツ生まれの楽器

58. バンドネオンはボタン型の鍵盤の配列が不規則で、習得が難しいことから「悪魔が発明した楽器」と呼ばれる

59. 鍵盤ハーモニカはアコーディオンなどと同じフリーリード楽器。「ピアニカ」などの呼称はメーカーの商標名

60. 水を入れたグラスの縁を指で触れ音色を奏でるグラスハープ。その起源は古く、ガリレオ・ガリレイも著作『新科学対話』でグラスハープの仕組みについて考察している

61. 1761年にはアメリカの政治家・発明家のベンジャミン・フランクリンがグラスハープの改良楽器を考案。「共鳴」を意味するイタリア語から「アルモニカ」と名づけた

62. アルモニカはアメリカの発明品第1号ともいわれる

63. アルモニカはヨーロッパで大流行し、モーツァルトはじめ多くの作曲家がこの楽器のための作品を残した

64. アルモニカは指に皮脂がついているとうまく演奏できないため演奏者は最低でも15分は手を洗う必要があった

65. アルモニカは、独特の音色が神経に悪影響を及ぼすといった噂から悪魔の楽器ともささやかれ、19世紀に衰退した

66. 世界最古の電子楽器テルミンは今から100年前にロシアの物理学者レフ・テルミン博士が発明

67. テルミンは、アンテナに手を近づけたり遠ざけたりして電波状態を変えて音をコントロールし、楽器自体には触れずに演奏する

日本の伝統的な楽器

68. 日本の雅楽では龍笛、笙、篳篥を「雅楽の三管」と呼ぶ

69. 篳篥は雅楽で主旋律を担当するダブルリードの縦笛

70. 能管は室町時代から能楽や歌舞伎に用いられてきた横笛。管の内部を狭めた構造をもち、「ひしぎ音」という独特の甲高い音を発する

71. 尺八は真竹の根に近い部分を七節使うのが一般的

72. 尺八の前身とされる一節切(ひとよぎり)は、一節分の竹を使った縦笛。室町時代から江戸時代、武士の嗜みとして武家社会で流行し、一休宗純も愛奏したといわれる

73. 沖縄の三線は中国から伝わった三絃を原型とする撥弦楽器。琉球王国で宮廷楽器として独自に発展した

74. 沖縄の三線が三味線の起源の1つで、16世紀に大阪・堺に伝わった後、日本中に広まった

75. 中国の三絃のルーツは、古代エジプトからペルシャに伝わったセタールという楽器で、モンゴル帝国を経て伝来


大正元年に日本人が考案したという大正琴(写真:とんとん/PIXTA)

76. 胡弓は日本の伝統楽器にして日本唯一の擦弦楽器

77. 胡弓と中国の二胡は、発祥も奏法も異なる別の楽器

78. 大正琴は大正元年に日本人が考案した楽器。左手で音階ボタンを押さえ右手のピックで弦を弾いて演奏する

79. ヨーロッパには大正琴に似た楽器ハーディガーディがある。ギター型の胴体に弦を擦る円盤と音程を変える鍵盤装置が付いた構造

80. 大正琴はインドに渡って「ブルブル・タラング」という名の楽器に改良された。その英語名は「Indian Banjo」

81. 豆腐屋が鳴らすラッパは東京・足立区の宮本喇叭製作所の「宮本ラッパ」の音。現在は生産されていない

82. 「NHKのど自慢」でおなじみの鐘の名称は「チューブラーベル」。西洋教会の鐘の音を再現した楽器

83. 音楽用のノコギリは「ミュージック・ソー」とも呼ばれる立派な楽器。弓で演奏するのが一般的

84. 関西でミュージック・ソーは横山ホットブラザーズの漫才のフレーズ「おまえはアホか」の伴奏でおなじみ

85. アメリカ生まれのブームワッカーはプラスチック製の筒状の打楽器で、長さにより調律され音階ごとに色分けされる。日本ではドレミパイプと呼ばれる

楽器の名称を和名にすると?

86. オカリナはイタリア語で「小さなガチョウ」の意味

87. カスタネットはスペイン語の栗(カスターニャ)が語源

88. ウクレレはハワイ語で「跳びはねるノミ」の意味

89. 楽器の琵琶と果物の枇杷、語源になったのは楽器のほうのビワ。もとは楽器のビワの漢字表記は枇杷だった

90. 和名でギターは六弦琴、ピアノは洋琴、オルガンは風琴、ハープは竪琴、バイオリンは提琴

91. オーボエは欧巴、クラリネットは黒管、ホルンは角笛、ティンパニは定音鼓、タンバリンは鈴鼓と書く

92. 日本に初めてピアノを持ち込んだのはドイツ人医師シーボルト。1823年に日本に渡ってきたピアノは山口県の熊谷美術館に保存されている

93. 世界最高値がついた楽器はストラディバリウスの1707年のバイオリン「ハンメル」。約3億9000万円で落札

94. 世界最大の楽器はアメリカのアトランティックシティのボードウォークホールに作られたパイプオルガン。パイプ数は公称3万3114本

95. このパイプオルガンの建造には現在の価値にして約17億円を要したといわれ、製作費として世界一高額

96. パイプオルガンの起源は紀元前のギリシャ時代に北アフリカで発明された水圧オルガン「ヒュドラウリス」

97. 世界最小の楽器はコーネル大学で開発された「ナノハープ」。周波数380MHzくらいで振動するため、その音は人間の耳には聞こえない

98. 世界で最も売れている楽器はハーモニカ

99. 日本の楽器人口は約1240万人で10.9%。およそ10人に1人がなんらかの楽器演奏を趣味にしている

100. 国内で1年間に販売されるギターは約30万本。2分に1本のギターが売れている計算になる

(文:森谷 美香/モノ・マガジン2019年11月16日号より転載)

参考文献・HP/『世界の楽器詳解図鑑』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『カラー図解 楽器のしくみ』(日本実業出版社)、『音楽のトリヴィア』(ストレンジ・デイズ)、〈ヤマハ〉ホームページほか関連サイト
〈ヤマハ〉ホームページほか関連サイト