楽天市場」の出店者に向けた戦略共有会(2018年7月)。独自物流網を拡充する「ワンデリバリー」構想の重要性を訴える楽天の三木谷浩史会長兼社長(撮影:大澤誠)

「もはや商売にならないくらい利益を圧迫されてしまう」「怒りと戸惑いしかない」「楽天自身の直販部門や大手ブランド出店者ばかり優遇している」「自分たち中小出店者のことをボウフラ程度にしか思っていないのではないか」「これ以上黙って見過ごせない」――。

日本最大級のネット通販(EC)モール「楽天市場」。ここに出店する一部の事業者が、モールの運営主体である楽天に対し反旗を翻している。「度重なる一方的な規約変更」に対抗するため、「楽天ユニオン」と称する出店者組合を10月初旬に設立。顧問弁護士も立て、施策に反対する署名活動や、楽天出店者トラブル事例収集、それらを基にした公正取引委員会への情報提供などに向けて動き出している。同組合関連の連絡網には10月末現在、200近い出店者が名を連ねる。

出店者からの反発がとくに強いのは、楽天が今年1月に打ち出した「ワンタリフ」構想だ。これは消費者が楽天市場内のどの店舗で購入しても、一定額以上であれば一律で「送料無料」とするもの。「楽天市場への消費者の不満で、とくに多いのが送料体系のわかりにくさ」(楽天の三木谷浩史会長兼社長)だったことから検討が始まった。8月にはその送料無料ラインとなる購入金額を3980円とすることが、楽天から発表されている。

送料は基本的に出店者負担

そもそも人が運んでいる以上、送料は「無料」であるはずはない。消費者にとって無料となれば、その分を出店者が負うことになる。楽天市場で送料無料とする場合の費用は、これまでもすべて出店者負担だったが、送料無料ラインは出店者ごとに自由に決められたため、自社の利益を圧迫しない範囲で設定している店舗が多かった。だが今回、送料無料ラインを3980円に統一しなければならない。かつ、基本的にはすべて出店者負担となる見通しだ。

「利幅の薄い商品は厳しい。品目を絞るか、退店するしかない」(食品や雑貨を扱う出店者)、「多くの店舗が送料分を価格に転嫁すれば、楽天での販売価格は全体的に他モールより高くなるはず。楽天市場自体の魅力低下につながるのでは」(家具を扱う出店者)。出店者からはこうした不安が噴出する。また、送料体系のわかりにくさ解消については、「送料込みの総請求額で商品を比較できるようにすれば済むのでは」という意見も聞かれる。


総合物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」の市川塩浜の倉庫施設(撮影:梅谷秀司)

楽天は出店者向けに在庫管理、出荷作業などを一括で担う総合物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」を2012年から展開。ラストワンマイル(消費者への配送)も含め楽天のコントロールを強化する「ワンデリバリー」構想も打ち出し、これら業務を出店者が個別に行うよりコストを抑えられるような仕組み作りに邁進している。が、出店者によって扱う商品や売り方はさまざま。すべての出店者にとって楽天の施策が好条件というわけではない。

楽天は出店者向けの戦略共有会や全国各地で行うタウンミーティングで、ワンタリフ構想の意図や見込まれる効果について説明を行ってきた。ここで出された出店者の意見も踏まえ、10月31日には一部方針を転換。配送先が沖縄や離島の注文については、送料無料ラインとなる購入金額を9800円とする旨を出店者に通知した。なお、こうした例外を設けつつも、送料無料ライン統一への規約改定は2020年3月中の実現を目指すという。


楽天出店者が立ち上げた組合「楽天ユニオン」の公式サイト

楽天ユニオンの顧問弁護士を務める早稲田リーガルコモンズ法律事務所の川上資人弁護士は、楽天の送料無料ライン統一施策が、独占禁止法が禁止する優越的地位の濫用に当たる可能性があると指摘する。「楽天がすべて送料を負担するというなら別だが、そうでなければ一方的かつ店舗側に不利益な規約改定であり、極めて悪質」(川上氏)。

この点について楽天は「当社が実施する各施策については、施策はさまざまな観点から検討を行い、法令遵守に努めている」(広報)と回答した。

消費者にとっては歓迎すべき施策のように思われる「送料無料」だが、そうとも限らない。「楽天だけの問題ではないが、同社の送料無料という方向への誘導はEC市場全体に大きな影響力を持つ。 長い目で見て、本当に消費者のためになるのか?という疑問はある」。個人・法人からECのトラブル相談を受け付け、EC事業者の運営に役立つ情報共有などを行っている一般社団法人ECネットワークの沢田登志子理事はそう懸念を示す。

「送料無料が当たり前=送料無料でなければ買わない 、という消費者が増えると、『送料をご負担いただいたうえで価値のある商品を提供する』という商売が成り立ちにくくなる。価格競争、ポイント合戦に加え、送料負担で疲弊し、特徴のある商品を扱っている中小零細の店舗がEC市場から消えてしまう。結果的に消費者の選択肢が 狭まってしまうのではないか、という危惧がある」(沢田氏)。

過熱するプラットフォーマー間の競争

もちろん、これは楽天1社に限った問題ではない。ECにおけるデジタルプラットフォーマー間の競争は熾烈を極めている(『週刊東洋経済』11月9日号(5日発売)で詳報)。アメリカのアマゾンが日本でも勢力を増すのに加え、Zホールディングス(旧ヤフー)がファッションECのZOZOを買収するなどさまざまな挽回策を講じる。

アマゾンと双璧を成す楽天も、前述の「ワンタリフ」「ワンデリバリー」などの構想を実現することで、他モールに利用者を奪われまいと奮闘する。東洋経済のインタビューに、楽天・コマースカンパニーロジスティクス事業の小森紀昭ヴァイスプレジデントは「本当の日常遣いに適した形に進化しなければ、今後の楽天市場の成長はない」と語っている。

こうした競争を経て、EC市場における影響力は数社の巨大プラットフォーマーに集約されてきた。競合を意識するあまり、出店者に対し優越的地位の濫用に当たるような施策の強行は増えているとみられる。

公正取引委員会は10月31日、「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査(オンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引)」の報告書を公表し、出店者などの事業者に「不利な条件を押しつけているおそれがある」と指摘した。

同調査は公取や経済産業省、総務省が昨年立ち上げたデジタルプラットフォーマーに関する検討会での議論を経て、とくに問題点の指摘が多かったオンラインモールとアプリストアについて、運営事業者、出店者などに調査したものだ。

報告書では、今後の取り組みについて「特に(ECモールなどの)運営事業者が、,匹里茲Δ傍約を変更しているのか、⇒用事業者の取引データを自らの直接販売に利用していないか、8〆アルゴリズムを操作することなどにより自己又は自己の関連会社を優遇していないか、という点については、デジタル・プラットフォームに特徴的な問題も含んでおり、(中略)引き続き注視していく」と危機感を示している。

楽天ユニオンでも、前述の送料無料ライン導入施策に加え、楽天が店舗向けに提供する決済システム「楽天ペイ」の導入強制、出店者が規約違反を起こした際の罰金制度など、さまざまな規約改定について「一方的で不当なもの」として情報発信を強化している。公取の指摘する,瞭睛討箸睇箙腓靴討り、反発の声はさらに大きくなりそうだ。

自社ECを強化する出店者も

出店者の中には自社ECを強化する戦略に舵を切り、ECモールへの依存度を下げようとする動きも出始めている。とはいえ、楽天やアマゾンの集客力はなおも絶大であり、楽天ユニオンへの参加メンバーにも「やめるにやめられない」という出店者は少なくない。


携帯電話事業への参入でも、基地局設置の遅れなどを指摘され「つまずき」の途上にある楽天(撮影:風間仁一郎)

「楽天には感謝している部分もある。実店舗の売り上げがどんどん低迷してきたときに、ECがなければ人生終わっていたかもしれない。今の楽天のやり方には賛同できないが、昔のように、規約をころころ変えない”大人の会社”に戻って、また一緒に成長を目指したい」。組合活動の中心メンバーの一人はそう話す。

1997年、三木谷氏率いる6人の従業員で開業された楽天市場。「シャッター通りと化す地方の商店街を目の当たりにする中で、ECで日本をエンパワーメントしたいと思った」。三木谷氏は現在でも、当時のこのエピソードをたびたび口にする。だが、課金体系の一方的な変更などで、楽天に対する出店者の不満は長年くすぶってきた。さらにここ数年のプラットフォーマー間の競争が一段と激化し、出店者へのしわ寄せはいよいよ拡大。「我慢の限界」と感じる出店者が一気に増えたとみられる。

携帯電話事業などにも挑戦が広がる中、基幹事業である楽天市場の安定と信頼獲得はより重要性を増す。少なからぬ出店者との間に生まれてしまった亀裂を修復する必要があるだろう。