客席ガラガラなのにチケット買えず...天皇杯「完売」の怪 反省の県協会「次年度は対応する」
サッカーの天皇杯で、当日券が「完売」のため現地観戦できなかったファン・サポーターがいたものの、実際の客席は「ガラガラ」だった試合があった。インターネット上で疑問の声があがっていた。
この試合を主管した公益社団法人・富山県サッカー協会は公式サイトで事情を説明。だが、ネット上ではなおも「入場できなかったことへの謝罪はないのか」といった怒りの声があがる。同協会はJ-CASTニュースの取材に「次年度は対応していく」と話している。何が起きていたのか詳しく聞いた。
小学生が「高校生用チケット」買わざるを得ず
試合は2019年8月14日に富山県総合運動公園陸上競技場で行われた天皇杯3回戦、J1・ベガルタ仙台−J3・カターレ富山戦(1−0)。18時30分のキックオフに前後して、ツイッター上ではこんな投稿が散見された。
「完売にもかかわらずガラガラな事案発生」
「スタジアムガラガラなのにチケット完売?両サポが怒ってる?なにそれ?」
「当日券で観戦しようとしたが、当日券完売との事で泣く泣く退散 さぞや大勢の観客かと思いきや、観客数を見て愕然 何がどおなっているのか...」
スタンドの写真をアップするユーザーもおり、確かに空席がかなり目立つ。観客動員数は公式記録で3238人。1万数千人は収容できる同競技場にあって、この観客数で「完売」とされていることには疑問が渦巻いた。
問題点はもう1つ指摘された。「小学生用のチケットが売り切れたから高校生用チケットで対応ってどうなんだろ」「子連れの親は子供のためと小学生なのに高校生用チケットを買っていました」と、価格の高い高校生料金で小学生にチケットが販売されていたとの投稿があがっていたのだ。
「オンラインで前売り券をご購入頂きますようお願い致します」
天皇杯は日本サッカー協会(JFA)主催だが、それぞれの試合は各都道府県サッカー協会が主管し運営している。仙台−富山戦を主管した富山県サッカー協会は19日、公式サイトで「当日券完売ならびに返金対応について」との声明を発表。まず「当日券完売」について次のように説明した。
「用意した実券(有効座席数15,410席の10%)が完売となり、キックオフ直前にご来場頂きました一部ファン&サポーターの方にご観戦頂けない事象が発生致しました。
オンラインでは、十分なチケットを確保しておりましたが、オンラインでの販売数が伸びす、本件の通り完売となりました。(※オンライン確保数13,870席)」(原文ママ)
「実券」(スタジアムで購入できる当日券)に割り当てた分が完売したため、その後は当日券を販売できなかったということだ。「オンライン」では複数のチケットサイトで販売していた。ただ結果として、有効座席1万5410席に対し観客数は3238人。空席は約1万2000席あったことになる。
もう1点の「返金対応」とは小学生に高校生料金でチケットを販売したと指摘されていた問題で、
「自由席小中学生チケットが当日17時30分頃より売り切れたため、自由席高校生チケットを販売致しましたが、こちらのチケットをご購入頂いた方に対しましては、下記の通り返金をさせていただきます」
と説明。「自由席高校生チケット1枚につき、500円を返金いたします」としており、サイト掲載の「チケット差額返金申請書」に該当チケットの半券を添付し、9月末までに同協会事務局にFAXか郵便で送れば返金できる。
最後に同協会は、
「実券には限りがございますので、予めご来場予定のお客様につきましては、オンラインで前売り券をご購入頂きますようお願い致します」
とウェブ上で前売り券を購入するよう呼びかけた。
オンライン分の余剰、当日券に回せなかった?
ただ、スタンドに数多くの空席がありながら入場できなかったファンがいたことに変わりはない。その点について協会側の落ち度に触れていなかったこともあり、ツイッター上では、
「入場できなかったことへの謝罪はないのか」
「富山県サッカー協会は、サッカーファンに喧嘩売っとるみたい」
「オンラインで前売り買わないやつが悪いみたいな言い方はないだろ」
「観たい試合で当日空きがあるのに追い返されて、さらに謝罪も無しで、どことなく上から目線。こんな状況だったら失望するな」
など発表内容に対して怒りの声が噴出することになった。
富山県サッカー協会は21日、J-CASTニュースの取材に応じ、担当者が当時の状況を説明。それによると、この試合の当日券はキックオフの約15分前には完売した。キックオフ時刻までは試合当日でもオンラインでチケットを購入できるため、当日券を買えなかった来場者に「どこかで買えないか」と聞かれた際にはその旨を説明した。ただ、オンラインでどれだけチケットが余っているかは現場で把握していないため、必ず買えるとは限らない旨も説明した。
当日券の割合を全座席の「10%=約1540席」としたのは、「これまでのデータに基づいて設定しました」とする。ホームのカターレ富山は今季、ホームゲームの平均観客動員数が約2100人、最大でも約3100人。オンラインの前売り券のほうが安価で買えるため、当日券の需要はそれほど多くないと予測した。アウェー・ベガルタ仙台のサポーターは遠方から来場するため、「基本的にオンラインで事前購入するだろう」と考えた。他の都道府県サッカー協会の販売の仕方も踏まえ、当日券は全座席の10%で捌けるだろうと判断した。「実際、仙台のサポーターが当日券を並んで買うことはほとんどありませんでした」という。
だが、完売により当日券を購入できなかった人数は「30〜50人」いた。1万席以上余っていたオンライン分の余剰を回せなかったのか。これについて担当者は「できません」と話す。
「オンライン分は、チケット販売サイトごとに予め販売枚数の配分が決まっています。一度配分したら戻すことはできません。確かにオンラインの分を当日券に回すことができれば対応できたかもしれませんが、システム上できません」
一方で、次のように反省も口にしている。
「当日券10%・オンライン90%という配分比率や、できればオンラインで購入していただきたい旨は、事前にアナウンスしておりませんでした。今回、『なぜオンラインのほうが多いと言わなかったのか』というお声も頂きました。その点はこちらの落ち度だと思います。次年度以降は当日券を増やし、オンライン販売の案内も強化することで対応していきます」
「券面で『高校生』と書いているものを『小中学生』価格で売ってしまっていいかどうか...」
小学生に高校生用チケットを販売したことについても説明。自由席チケットには価格の違う「一般」「高校生」「小中学生」の3種類があり、券面にもそれぞれ書かれている。
「『小中学生』が売り切れたあとで来場した小学生には、急遽『高校生』のチケットを販売しました。ただ、券面で『高校生』と書いているものを『小中学生』価格で売ってしまっていいかどうかは、現場で判断できることではありませんでした。申し訳ありませんと説明しながら、券面額の高校生価格で購入してもらいました。試合後に確認し、返金対応を決め、今回の発表となりました」
試合日から今回の発表日までに5日が経っていたが、あくまで「半券」が必要。処分や紛失していれば返金はできないという。
試合したカターレ富山とベガルタ仙台の両クラブからは、今回の件について問い合わせはなかったという。ホームの富山には同協会から一連の経緯を説明したとしている。
なおネット上で指摘された「謝罪」の言葉が発表文になかった理由について担当者は「私が書いた文章ではないので、私の口からは何も申し上げられない」としている。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)