昨季はリーグ11位と苦難のシーズンを送り、今季は上位返り咲きを狙っている。新監督には、ポルトガル屈指の若手監督、41歳のヌーノ・マンタを招聘。同監督は、昨季こそ自身のコーチングキャリアにおいて一貫して指揮を執ってきたフェイレンセを途中解任されたが、2016−17年にアシスタントコーチからトップチーム監督に途中就任した当時は、この弱小クラブをリーグ8位に導き、一躍脚光を浴びた。今シーズンは、初めてフェイレンセ以外のクラブを率いるにあたり、名誉挽回への思いは強いことだろう。

 松本山雅からレンタルで加入した前田大然は、クラブにとっても監督にとっても勝負の1年となるシーズンでのポルトガル挑戦となった。タイミングとしては、活躍次第でクラブの英雄になり得る絶好の機会だ。実際に開幕戦のスポルティング戦では、すぐに絶好機を迎えてゴールを脅かし、名門クラブ相手に大金星を挙げるヒーローになりかけた(結果は1−1のドロー)。

 今後、上記のような決定機を確実にものにできる力がつけば、さらなる高みへと道が拓けてくる。ポルトガルリーグはそれほどまでに、一夜にして若手選手のサッカー人生が大転換し得るリーグである。

欧州ビッグクラブの見本市

 近年のポルトガルリーグは、欧州のビッグクラブにとって、有望な若手選手が割拠する“見本市”となっている。ベンフィカやスポルティングは、ポルトガル人選手を「育てて高く売る」ことに優れ、ポルトはブラジルやコロンビア、メキシコなど中南米の選手を「安く買って高く売る」ことに秀でており、3強のいずれのクラブも、若手育成に関して世界的なブランドとなっている。

 その中でも、特に近年はベンフィカの人材輩出力が他を圧倒している。2009年から2015年までの6年間で10のタイトルを獲得したジョルジ・ジェズス監督(現・フラメンゴ監督)は、強力な助っ人ブラジル人をチームの中心に据え、あくまで結果にこだわる監督だった (ただし、タイトルレースの中で突出した若手選手は、結果として欧州の名だたるクラブに引き抜かれていった)。一方で、2015−16シーズンに監督就任したルイ・ヴィトーリア(アル・ナスル)は、ジョルジ・ジェズス期から続くリーグ4連覇(自身は2連覇)を達成するなど結果を出し続けながらも、同時に若手選手を大胆に抜擢。錬金術師さながら、わずかな期間で次々と欧州を代表するスター選手へと変貌させていった。

 例えば、エデルソン・モラレスは当時Bチームに所属していたが、Aチームの守護神であった元ブラジル代表GKジュリオ・セーザルの負傷離脱を機にトップチームデビュー。同選手が復帰した後も正GKとしてのポジションを守り抜き、後にマンチェスター・Cへと引き抜かれた。ポルトガル人選手では、就任1年目から右SBのレギュラーに抜擢したネルソン・セメドが、トップチーム昇格からわずか半年間でポルトガル代表に選出されるまで成り上がり、のちにバルセロナへと移籍。また、ポルトガル代表が悲願の初優勝に輝いたEURO2016で世界にその名を知らしめたレナト・サンチェスも、同年にルイ・ヴィトーリアがBチームから抜擢したばかりの若手であり、大会後バイエルンへ羽ばたいていった。

ジョアン・フェリックスの再来にも期待

 ベンフィカは昨季、タイトル獲得と人材育成の功労者であるルイ・ヴィトーリアを成績不振を理由に途中解任し、Bチームを率いていたブルーノ・ラージュをトップチームの監督に抜擢した。そして大ブレイクを果たしたのが、他でもない、ジョアン・フェリックスだ。

 ネルソン・セメド、レナト・サンチェス、ジョアン・フェリックス……。毎シーズンのように下部組織の若手ポルトガル人が、わずか半年から1年という極めて短い期間で、欧州を代表するスター選手へと覚醒しているのは何ら偶然ではない。ルイ・ヴィトーリア時代から脈々と受け継がれるポルトガル人若手選手を育成・抜擢・登用する文化は、当然ブルーノ・ラージュ率いる今季も継続されることだろう。