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text:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)

もくじ

ー 60〜80年代 オープンモデルが次々と発売
ロードスターの販売推移でわかるオープンモデルの衰退
ー なぜオープンモデルは減ったのか 関係者の証言
ー SUV人気 楽しいクルマが衰退する予兆?

60〜80年代 オープンモデルが次々と発売

いきなり昔話で恐縮だが、1960年代から1980年代の日本車には、オープンモデルが豊富だった。

1962年に発売された「Z」に発展する前の日産フェアレディは、ソフトトップを備えたオープンモデルで、1963年に発売されたホンダS500も同様だった。1965年のトヨタスポーツ800は、ハードトップを脱着できた。

当時はトヨタ・ヴィッツのルーツともいえるパブリカ、ダイハツコンパーノスパイダーなど、セダンをベースにした求めやすい価格のコンバーチブルも選べた。

1980年代に入るとオープンモデルも多様化して、1984年にはコンパクトカーの初代ホンダシティがカブリオレを設定する。

1986年にはマツダがコンパクトな初代フェスティバを発売して、ソフトトップがスライドする電動キャンバストップが人気を呼んだ。

これを切っ掛けにキャンバストップがブームになり、1986年には軽自動車の5代目三菱ミニカ、1987年には初代日産マーチなども設定している。

1986年にはマツダの6代目ファミリアにもカブリオレが用意され、日産エクサはリアゲートを脱着可能なキャノピーにしてオープンドライブを楽しめた。

また当時は三菱ジープからの流れでオフロードSUVにもソフトトップが多く用意され、2代目スズキ・ジムニー、初代いすゞ・ビッグホーンなどでも選択できた。

そして1989年には、マツダ・ユーノスロードスターが登場して、一躍人気車となる。1999年にはオープンスポーツカーのホンダS2000とトヨタMR-Sが相次いで発売された。

さらに2000年代に入ると、2001年に電動開閉式ハードトップを備えた4代目トヨタ・ソアラ、2002年には軽自動車に同様の電動ハードトップを装着した初代ダイハツ・コペンが発売されて話題になった。

ところが2000年代中盤以降になると、オープンモデルが急速に衰退するのだった。

ロードスターの販売推移でわかるオープンモデルの衰退

2000年代の中盤以降はオープンモデルの新型車が大幅に減った。その背景には、世界的な売れ行きの低下があった。

この推移を数字で示しているのが、マツダ・ロードスターの販売台数だ。初代モデルは発売翌年の1990年に、日本で2万5226台、北米で3万9850台を販売して、欧州やオーストラリアを含んだ世界販売台数は7万5798台であった。

ところが5年後の1995年には、日本は7171台(1990年の28%)まで下がり、北米も2万1108台(同53%)に減り、世界販売台数は3万5649台(同47%)となった。

この後、1998年に2代目にフルモデルチェンジされて一時は世界販売台数が4万台を超えたが、2005年には2万5263台で売れ行きが最も落ち込んだ。

そして4代目となる現行型の2018年における世界販売台数は3万1938台で、日本は5331台、北米は9785台だ。現行型で少し持ち直したが、ピークの1990年に比べると、世界販売台数は42%、日本国内の売れ行きは21%、北米でも25%にとどまる。

このようにオープンモデルの販売が減少したのは、「若年層のクルマ離れ」が指摘される日本に限らない。ロードスターはソフトトップに加えて電動開閉ハードトップのRFなども用意しながら、海外を含めて売れ行きを大幅に減らした。

これはどのような理由に基づくのか。

なぜオープンモデルは減ったのか 関係者の証言

自動車メーカーの商品企画担当者にオープンモデルの販売動向を尋ねると、「オープンモデルやスポーツカーには、若者向けのクルマというイメージがあるが、実際の購買層はセダンと同様に高齢化して売れ行きを下げたのです」という。

確かにオープンモデルは、クルマのカテゴリーとしては古い。今の若年層には、クルマそのものを楽しむオープンモデルより、スキーに出かけたりする時のツールとして使えるSUVの方が、価値観として馴染みやすいだろう。

つまりオープンモデルは、クルマが憧れの対象だった「昔の若者グルマ」になる。そこに魅力を感じるのも昔の若年層(つまり今の中高年齢層)だ。クルマが珍しい憧れの存在ではなくなり、日常生活のツールになると、オープンモデルの人気も下がってしまう。

海外のオープンモデルやスポーツカーを見ても、中高年齢層を対象にしていることがわかる。

例えば北米では、フォード・マスタングやシボレー・カマロなどのスポーツカーがオープンモデルを用意するが、外観は1960年代から1970年代に販売された初代モデルによく似ている。40〜50年前にこれらのスポーツカーを所有したり、憧れた世代をターゲットにしているから、ボディスタイルも懐古趣味的になった。

フォルクスワーゲンの関係者は「かつてゴルフとかニュービートルのオープンモデルが北米、欧州、日本で人気を得ていたが、近年では売れ行きを大きく下げました。そのためにフォルクスワーゲンは、オープンモデルの開発に消極的です」と語る。

「プラグインハイブリッド車をそろえたり、将来の環境技術、自動運転技術に力を入れる必要もあり、オープンモデルは後まわしにされています」とも。フォルクスワーゲンもオープンモデルのラインナップを減らした。

同じドイツ車でも、メルセデス・ベンツやBMWにはオープンモデルが用意されるが、これらは高価格なプレミアムブランドだからユーザーの年齢層も高い。

オープンモデルを好む中高年齢層とプレミアムブランドは相性がよく、今でもラインナップされている。ただしこの状態が続くと、クルマ好きには悲しい結末が訪れるかも知れない……。

いっぽう、SUVは人気をあつめている。これは楽しいクルマが衰退する予兆なのだろうか?

SUV人気 楽しいクルマが衰退する予兆?

オープンモデルでは、中高年齢層の支持が根強いが、若年層は興味を示さなくなった。スポーツカーを含めて「カッコイイ! 楽しい! 爽快!」という価値観が薄れている。

その結果、ロードスターからフォルクスワーゲンまで、オープンモデルの売れ行きが下がり車種数も減った。マスタングやカマロはクラシックな雰囲気に変わり、昔ながらのオープンモデルはプレミアムブランドに限られる。

心配なのは今後の動向で、クルマに日常生活のツールという価値観が定着してユーザーが世代交代すれば、プレミアムブランドでもオープンモデルが減っていくだろう。一部の限られた高価格車でないと、オープンモデルを買えなくなる可能性がある。

フォルクスワーゲンで、すでに消滅した乗用車のカテゴリーに、フェートンがあった。4ドアセダンのルーフをソフトトップに変えたような高級車で、モノコック構造の普及もあって1950年頃に消滅した。オープンモデルも同様の結末を辿るかも知れない。

輸入プレミアムブランドの商品企画担当者は、「今の高級車を購入する年齢層は二極分化しています。50歳以上が中心ですが、意外に20代も見られます。この若年層はIT業界などで起業したひと達で、バブル経済の時のような消費意欲を持っています。落ち込んでいるのは30代から40代です」と指摘した。

たくさん稼いで豪勢に使う価値観が好ましいとはいわないが、オープンモデルなど趣味性の強い商品には不可欠のユーザー層だ。このような若い顧客を育てながら、クルマの楽しさを訴求していかないと、価値観が実用指向で硬直化する。

今のSUV人気はその前段階だ。SUVはもともと悪路を走るクルマとして普及したから、大径タイヤを装着して、ボディの下半分は野性的でカッコイイ。上側はワゴンスタイルだから車内が広く、3列シート車も用意される。

つまりSUVは、上側が実用性、下側は趣味性を強め、2つの価値観を融合して人気を得た。このまま放置して趣味性のニーズが下がれば、やがてSUVの売れ行きも低下して、実用重視のカテゴリーだけが残る。

仕方のない成り行きともいえるが、クルマ好きとしては寂しい。メーカーにとっても嬉しいことではないだろう。