万能の天才ダ・ヴィンチは発達障害だったのかもしれない
by Mike Licht
肖像画「モナ・リザ」で有名な美術家レオナルド・ダ・ヴィンチは、絵画だけでなく数学・医学・物理学・工学などあらゆる分野に通じた「万能の天才」でしたが、その一方で失読症だった可能性も示唆されています。そんなダ・ヴィンチが「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」だった可能性が新たに浮上しています。
Grey Matter Leonardo da Vinci: a genius driven to distraction | Brain | Oxford Academic
These Scientists Think Leonardo Da Vinci May Have Had ADHD
https://www.sciencealert.com/these-scientists-think-that-da-vinci-might-have-had-adhd
Procrastinating genius: did da Vinci have attention disorder? - Reuters
https://www.reuters.com/article/us-science-davinci-idUSKCN1ST2U8
「イタリアの芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチはADHDだった可能性が高い」と指摘するのは、神経生理学者で自閉症とADHDに詳しいマルコ・カターニ氏と医学史の専門家パオロ・マザレロ氏です。ADHDとは発達障害の一種で、「ひとつの作業に集中し続けるのが難しい」「その作業が楽しくないと、数分後にはすぐに退屈になる」「じっと座っていることができない」などの特徴が主な症状です。
実は、ダ・ヴィンチも集中力にかなりのムラがある人物でした。例えばダ・ヴィンチが「最後の晩餐」の制作に取り組んだ際は、「数日間夜明けから夕暮れまで食事もとらずに絵画制作に没頭した後、3〜4日間まったく絵筆に触れなかった」との逸話が残されています。最終的にダ・ヴィンチは「最後の晩餐」があるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院の修道院長にせかされながらおよそ3年間でこの作品を仕上げていますが、3年という制作期間はダ・ヴィンチが絵画を完成させるまでに費やす歳月としては異例の短さでした。
かの有名な「モナ・リザ」は16年もかけて制作されましたが、取りかかっては中断することを繰り返し、結局ダ・ヴィンチ自身が納得できる形で完成するには至りませんでした。
より明確な形で未完成のまま残されたのが「荒野の聖ヒエロニムス」です。解剖学的な知識に裏付けされた聖ヒエロニムスの表情や肉体の表現、右下に寝そべるライオンの精緻(せいち)な描写など、医学や自然科学に精通したダ・ヴィンチらしい作品ですが、着色どころか一部の下書きさえ終わらないまま残されています。
ダ・ヴィンチが作品を途中で投げ出してしまうのは当時有名だったようで、時のミラノ公で「最後の晩餐」の制作をダ・ヴィンチに依頼したことでも知られるルドヴィーコ・スフォルツァは、ダ・ヴィンチに絵画を発注する際には決まって「規定の期間内に作品を完成させるように」と念を押したともいわれています。このように、「集中力にムラがあることや、物事をすぐに投げ出したり先延ばしにしてしまうという気質は、ADHDによくみられるもの」だとカターニ氏は述べています。
また、ダ・ヴィンチは65歳の時に深刻な左半球の脳卒中を患いましたが、言語能力は以前と変わりませんでした。一般に、言語機能は左半球がつかさどっているにもかかわらず、脳の左半球が損傷しても言語機能が損なわれなかったことから、カターニ氏は「ダ・ヴィンチの脳は言語に関しては右半球優位だったのではないか」と指摘しています。この「言語機能が右半球で優位」な状態や、左利き・失読症といった特徴は、非ADHDの人よりもADHDの人に多く見られるものだとのこと。
カターニ氏は「ADHDによく見られる移り気な性質は創造性と独創性の源であり、落ち着きのなさは新たな発見につながる探求の原動力となります」と述べています。また、ロイター通信の取材に対し「ADHDを持つ子どもの多くは、IQが低い乱暴な問題児だとの誤解を受けることが多い」と指摘し、ダ・ヴィンチに関する同氏の研究が誤解や偏見と闘うADHDの当事者たちの助けになれば幸いだと語りました。