横浜港を通る貨物線「高島線」に乗る ピカピカの新車両が機関車にひかれて走ることも
かつて横浜港の周辺には多数の貨物線がありましたが、トラック輸送へのシフトなどで、そのほとんどが廃止に。辛うじて残った「高島線」では石油を運ぶ貨物列車が運行されています。旅客化の構想もありますが、課題は多いようです。
港湾の工業地帯を通り抜ける
東海道本線(京浜東北線)の鶴見駅(横浜市鶴見区)から横浜港に沿って走り、根岸線の桜木町駅(横浜市中区)を結ぶ、全長8.5kmの貨物線があります。正式には東海道本線の貨物支線ですが、沿線の地名から「高島線」と呼ばれています。
高島線を走る貨物列車(2019年4月9日、伊藤真悟撮影)。
通常は貨物列車しか運転されていませんが、2019年3月21日(木・祝)に運転された団体列車で高島線を通ってみました。
小田原方面から東京に向けて東海道本線を走ってきた団体列車は、大船駅(神奈川県鎌倉市)から根岸線へ。京浜東北線に直通している通勤路線ですが、途中の根岸駅(横浜市磯子区)では石油を運ぶ貨車(タンク車)の姿が多数見えました。
列車はその先の桜木町駅(横浜市中区)を通過すると、根岸線の上り線と下り線のあいだにある高島線の線路に進入。徐々に高度を下げて根岸線の線路をくぐり、地下トンネルへと入っていきました。
少しして外に出ると、列車は運河をいくつか渡ります。窓の外には別の貨物線らしき鉄橋も見えますが、前後に線路がないため廃止されたことが分かります。いつしか分岐を繰り返して線路が10本近くある広いスペースに出ると、そこが貨物列車用の東高島駅(横浜市神奈川区)。しかし貨物列車の姿はどこにも見えず、団体列車はゆっくりと同駅を通過していきます。
高島線の車窓は倉庫や工場のプラントが続く。典型的な港湾の工場地帯だ。
廃止された別の貨物線の鉄橋も見える。
ここからは線路が3本になり、窓の外には古びた倉庫や、さびたパイプが縦横無尽に走る工場のプラントが見えます。いかにも港湾の工場地帯といった風情です。
列車は左に緩いカーブを描き、高速道路をくぐってしばらくすると、京急線をまたいで東海道本線や京浜東北線の旅客列車が走る線路が並ぶスペースに進入。桜木町駅を通過してから12分後、鶴見駅の東側へと入りました。
高島線を活用した旅客化構想も
横浜港付近の貨物線は古くからあり、東海道本線などから分岐して横浜港に延びる貨物支線が明治末期以降に多数建設されました。1917(大正6)年には、現在の高島線の一部が開業しています。
J-TREC横浜事業所で製造された車両も、高島線経由で全国各地の鉄道事業者のもとに届けられる。写真は東急電鉄の3020系電車(2019年4月9日、伊藤真悟撮影)。
これらの貨物線では、横浜港の輸出入品や、横浜港の周辺にできた工場の生産品を運ぶ貨物列車が運転されました。また、国際旅客船が横浜港を出港する日にあわせ、同港に乗り入れて旅客船と接続を図る臨時旅客列車も運転されました。
戦後の1964(昭和39)年には現在の高島線が全通しましたが、このころから陸上の貨物輸送は鉄道からトラックに移り、横浜港周辺の貨物線も、そのほとんどが廃止されました。ただ、高島線は根岸線の根岸駅付近にある製油所から国内各地に石油を送るルートとして、いまも貨物列車が運行されています。
ちなみに、総合車両製作所(J-TREC)の横浜事業所(横浜市金沢区)で製造された鉄道車両の多くは、機関車がけん引する貨物列車扱い(甲種輸送列車)で各地の鉄道事業者のもとへ届けられています。この甲種輸送列車も高島線を経由して運転されています。
高島線を通る旅客列車は、臨時列車や団体列車が年に数回運転されていますが、本格的な旅客線として再整備しようという構想もあります。神奈川県や横浜市などで構成される東海道貨物支線貨客併用化整備検討協議会が検討しているルート案によると、整備区間は品川・東京テレポート〜桜木町間の約33km。このうち約18kmは高島線を含む貨物線を活用します。
この構想が実現すれば、東海道本線などの混雑が緩和されるといった効果があると思われます。しかし、沿線は工場や倉庫が多い湾岸の埋立地。東京と横浜を直通する客を除けば利用者は少ないとみられ、採算が取れるかどうか不透明です。新線区間の建設費をどう調達するかなどの課題も多く、すぐには実現しそうにありません。