「あんまり得意じゃないよ、お金の話なんて」

そう言いながら取材現場に現れたのは、やり手の女社長。アパホテルの経営者であり広告塔の元谷芙美子さん。


元谷芙美子(もとや・ふみこ)】福井県出身。県立藤島高校卒業後、地元の信用金庫に入庫。1971年、夫が起業した会社の取締役となり、1994年にはアパホテル株式会社取締役社長に就任。その後は、自社の広告のため、派手なスタイルでメディアを湧かせ、一躍有名になる

アパホテル株式会社は、日本だけではなくニューヨークやバンクーバーなど、全世界に502ものホテルを展開し、成長の勢いはとどまるところを知りません。(2019年3月19日現在)

元谷さんは、そんなアパホテルの社長業とアパグループ不動産部門の統括戦略本部長を兼任するパワフルっぷり。自ら前線に立って、営業をしています。

「お金の話は得意じゃない」って言うけど、日本で一番有名な女性経営者の一人と言っても過言ではないこの人のことだから、独自の「お金の哲学」があるのでは…?

本人に聞いてきました!

〈聞き手=ライター・柏木まなみ〉

柏木:
今日はお忙しいなか、ありがとうございます!

テレビ番組で豪邸を拝見しましたが、社長室もめちゃめちゃ豪華ですね…

元谷さん:
あら、そう?(ニッコリ



「お金は臆病。心配性で貯金しがちな人のところには来ない」

柏木:
早速なんですが、アパグループの売上って現在どのくらいなんでしょうか?

元谷さん:
2018年11月の決算では、総売上が1339億円でした。

柏木:
すごい。では…元谷さんの年収はどのくらいなんでしょうか?

元谷さん:
たくさんもらっていますよ。正確にはわからないけどね。


たくさん…気になる…

柏木:
では、貯金もかなりあるんですか?

元谷さん:
私、宵越しのお金は持たないの。いただいたお金は、大体使い切ってます。

柏木:
ご、豪快…!!

元谷さん:
全株オーナーの家族経営だから、ビジネスにかなり投資しています。再投資してホテルを建てたり、株を買ったり

柏木:
やっぱり、経営がうまくいっているからこそ、そういう攻めの姿勢でいられるんですね。

元谷さん:
いえいえ!

今ほど経営がうまくいってないときでも、どんどんお金を使ってた。銀行で25年ローンを組み、ホテルを買ったこともあります。二十数億円の借金を、自分名義で背負って。

今でもホテルをバンバン買ってるし、52棟のホテルを現在建築・設計中ですよ。



元谷さん:
だから、貯金なんて全然してないんです。

柏木:
でも、貯金がないなんて不安すぎません?

元谷さん:
何がそんなに心配なの?

柏木:
え…「年金いくらもらえるんだろう」って老後の心配とか…

元谷さん:
お金って臆病だからね、心配している人のところには来てくれないですよ。


にこやかに含蓄のある言葉をぶつけてこられるタイプの元谷さん

元谷さん:
貯金なんて、カギを何重にもかけてお金を牢屋に入れておくようなもの。目的もないままお金を持っていても、価値が出ないのよ。

はっきり言うけど、お金を使わない人は能力が低いよ。

柏木:
(うぐっ…)



「小さいころから、女々しく生きるのはカッコ悪いと思っていた」

柏木:
「使わないお金は価値がない」って考え、男前ですね…

元谷さん:
ハンサムな生き方でしょ? 小さいころから、女々しく生きるのはカッコ悪いと思ってたのよ。

柏木:
元谷さんはなぜそんなにポジティブなんでしょうか?



元谷さん:
私はね、1歳になるまでに2回死にかけてるの。

柏木:
えっ。何があったんですか…?

元谷さん:
生まれたときは戦争のあとすぐだったから、栄養失調でね。

夜中の12時、お母さんのお腹から「のしイカ」みたいにしんなりして出てきたの。



柏木:
のしイカ

元谷さん:
夜は越せないって思われてたみたい。「朝になったら葬儀屋を呼ぼう」って話になって、葬式用の桶と白いさらしを用意されてた(笑)

でもね、一晩超えて、運よく生きてたんですよ。

柏木:
生命力が強い…

元谷さん:
2回めに死にかけたのは、1歳になる前。マグニチュード7.1の福井地震が起きたとき。

大きな揺れで気絶して体がすべり込んだ先が、たまたま観音開きになった仏壇の下だったの

柏木:
強運すぎますね。

元谷さん:
1歳までに2回死にかけて、すでに一生分の厄落としをしてる。

それを思えば、お金の心配なんて、大したことじゃないわよねえ(笑)。


1歳で一生の厄落としをしている…元谷さんのパワフルさを見ていると、そうなのかもと思えてきます

時代の流れを読み、「タイミングを見たお金の使い方」をせよ

柏木:
今日一番ききたい質問なのですが…私たちR25世代が、元谷さんのようにお金持ちになるためには、どうすればいいでしょうか?

元谷さん:
あなた、今どこに住んでます?

柏木:
夫と一緒に、賃貸のマンションで暮らしてます。

元谷さん:
家買ってないなんて、全然ダメよ! あなた、何のために仕事してるの?


そこまでのことなんですか?

柏木:
えっ、なんでしょう…

生きていくため…?

元谷さん:
失礼だけど、そんなの「大家さんの財布にお金を入れるため」に働いてるようなものよ。

ちゃんと家を買って、自分の財布にお金を入れないと。ヤドカリですら、自分の家を背負って生きてるんだから


ヤドカリに負けた…

柏木:
でも、目の前の生活費を稼ぐのに必死で、家を買うどころでは…

元谷さん:
もし買えないなら、まずは「家を買う」って目的を持ってすぐに貯金しなさい。

柏木:
さっき貯金しない主義と言っていた元谷さんが、そこまで言うとは…

そんなに頑張って家を買って、何か変わるんですか?

元谷さん:
家を買うとは、地球上に「点」を打つということ。全部が変わるよ!

自分の城を持つのは、腹をくくらないとできない。仕事のエンジンのかかり方も今までとまったく違います。「今の年収の倍、稼いでやるぞ」ってね。

あとは、他人からの見え方も変わる。「あいつ、まだ若いのに家を買ったのか」って信頼を寄せられるようになるわ。

柏木:
生活する場所だけじゃなく、やる気や信頼も買うってことなんですね。

じゃあ、ちょっとずつ貯金をして、子どもを授かったタイミングで買お…

元谷さん:
(すかさず)そんなのもう遅い!

みんなそうなのよ。結婚とか子どもができたとか、“自分がほしいとき”に家を買おうとするでしょう?

だから、お金が集まってこないんや。



元谷さん:
お金持ちになる方法をきかれて、私が“家を買うほうがいい”と言ったのは、「タイミングを買うことを覚えなさい」と伝えたかったから。

今なら低金利で、大きな買い物に絶好のタイミングでしょう。時代の流れを読んで「タイミングを見たお金の使い方」をする人が、お金持ちになるんです。

まわりのお友だちが住んでるような賃貸のお部屋に住んでいても、「時代を読む」力は養われない。若いうちから家を買うことで、そういうステージに上がっていけるんですよ。

柏木:
なるほど…でも、時代を先読みするのって、かなり難しいことですよね?

元谷さん:
それは、生きた勉強をすれば鍛えられますよ。

みんな記憶しただけで勉強した気になってるの。悪いことじゃないけど、本当の学びっていうのは机の上にはない。

生きた学びを得るには、世界を自分の目で見たり、異業種交流会とかでいろんな人の意見を吸収したりしないと。



組織メンバーへの愛情は、自分の仕事の成果を分け与えて表現

元谷さん:
でも私ね、「お金を稼がなイカン」なんて思ったことないんですよ

ウソみたいだけど、本当にないの。



柏木:
お金への欲がないのに、なんで会社をここまで成長させることができたんでしょう…

組織を成長させるためにしていることってありますか?

元谷さん:
そうねえ、やっぱり人には愛情を与えることね。

従業員は息子以上にかわいがってるし、秘書は恋人を思うように大切にしてる。



元谷さん:
愛情といっても、言葉で何か言うということだけじゃないですよ。

愛情は、何より、仕事で表現するのがいいね

私が誰よりも売り上げて、営業のトップを張る。そして、獲得した数字を部下につけてあげちゃうんです。

柏木:
あげちゃうんですか!

元谷さん:
自分が動いて、まわりの成績を伸ばすのは当たり前のこと。「仕事で器を見せる」と。

私は昔からそうでしたよ。

柏木:
でも、どうしても自分の数字成績がほしくなっちゃうと思うんですが…

元谷さん:
「天知る、地知る、我知る、人知る」って言ってね。誰にも言わないでおいたって、まわりの人に愛情をたくさん与えて徳を積んでいれば、そのうちみんなから認められるようになる。(※本来は悪事がやがてバレるという意味だが、ここでは転じてプラスの意味合いで使われている)

そうすれば好循環が起こって、お金や成功は必ず後から付いてきます。

柏木:
そんなこと考えたこともなかったな…やってみたいです!

「ジャンヌ・ダルク」のように、批判があってもホテル業界を変革したい

柏木:
そんな元谷さんは、今後どんなお仕事をされるんでしょうか?

元谷さん:
私はね、ホテル業界のジャンヌ・ダルクになりたいの。


ジャンヌ・ダルク…

元谷さん:
ジャンヌ・ダルクのように、業界に一石を投じたいと思い、ずっとこれまでやってきました。

アパホテルは、「ホテルとお客様とが対等な立場にいる」という考えを大切にしています。

柏木:
対等、ですか。ほかのホテルは、「お客様は神様」みたいなところもあるかと思いますが…

元谷さん:
でも、下手にへりくだってサービスされても、本当にうれしいかどうかは別よね。

例えば、お客様の荷物を部屋まで運び、お茶も入れて…ってスタッフが召使いのようにして、そのぶん人件費が料金に乗せられてたら、うれしくないかもしれない。

柏木:
お客様と対等だからこそ、同じ目線で、本当に必要なサービスを提供すると。

元谷さん:
そう。だからアパホテルでは、人件費を削って値段に反映したり、日本のホテルチェーン初の全室ウォシュレット導入を実施したり。

無駄なサービスをせず、そのぶんニーズが高いサービスを提供してきました。そういう考えを、業界に広げていきたいですね。

柏木:
確かに、そのほうが選びたくなるかも…

でも、少数派の考えって批判されません? それこそ、これまで伝統を守ってきたホテルから…



元谷さん:
革新者はいつだってそうです。

望むところですよ!



登場したときから「お金の話は得意じゃない」と繰り返していた元谷さん。

最初は「いやいや、謙遜じゃないの…?」と思ってしまったのですが、インタビューの最後にお話しいただいた内容を聞いて、意味がわかった気がしました。

元谷さん:
結局、人間って「人に褒められる人生」じゃ納得できないんです。自分自身がどれだけ人生に満足できるか。

まわりに比べていくら稼いでいるとか、稼いでいるから偉いというふうに思ってほしくないんですね。

お金だけにとらわれずに、若い人たちには“生き方のセンス”を身に着けてほしいと思っています

見聞を広げ、時代を読み、まわりに愛情を与える。

元谷さんが教えてくれた「生き方のセンス」をもとに、私もまずは身近にいる人たちに感謝を伝えていこうと思いました。

〈取材・文=柏木まなみ(@kashimin222)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=池田博美(@hiromi_ike)〉

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