何かとお金がかかりそうなイメージがある「入院」。医療保険に加入している人も多いが、最近、短期入院を手厚く保障する医療保険が増え、注目されている。医療保険は入院日数に応じて入院給付金が支払われるが、特則(特約)を付加すると、10日未満の入院でも一律で10日分の保険金が給付される、というものだ。

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厚生労働省の患者調査(2014年度)によると入院日数は短期化しており、日帰りから4日までが全体の約29%、5〜9日が約25%だ。

入院給付金日額1万円の医療保険に加入している人が2日間入院すると給付金は2万円だが、特則を付加していれば10万円。「特則を付加したほうが良さそう」と思うかもしれないが、さてどうだろう。

メットライフ生命の「FlexiS」という医療保険の場合、40歳男性が入院日額1万円で加入すると保険料は月額4097円(Cプラン)。これに特則を付加すると580円特則料が上乗せされる。50歳男性では特則料が860円に。年齢が上がるほど高くなる。

だが、この特則料を損得で考えるのは適切ではない。保険は「万が一」に備える。さらにいえば、家計や預金ではカバーしにくい大きなリスクに備えるものであり、特則料というコストを負担してまで確保すべき保障か、という視点で考えるのが適切だ。

実のところ、入院の医療費の負担はそれほど大きくない。そもそも健康保険には「高額療養費制度」があり、1カ月の医療費が一定の額を超えると、超えた分が健康保険から給付される。70歳未満で一般的な所得(各種手当を含む月収が27万円以上51.5万円未満)の人では、自己負担は9万円前後。別途負担の食事代を入れても1カ月10万円程度で、それなら出せるという人も少なくないだろう。

さらに、多くの健保組合には付加給付がある。自動車や電機メーカーの健保組合では1カ月の医療費の自己負担上限が2万5000円というのが多数。自身が加入している組合名は健康保険証に記載されており、各健保組合の付加給付はウェブサイトで確認できる。

差額ベッド代は高額療養費などの対象外だが、絶対必要なものでもないし、貯蓄と相談して利用を検討すればいい。

これらを考え合わせると、貯蓄がない人などを除き、医療保険に加入しなくても大丈夫な人は多い。ましてや、保険料を上乗せしてまで短期入院に備える必要はないだろう。

セミナーで教えたり個別相談を受けている経験からいうと、高額療養費制度を知っている人は2〜3割、付加給付は1割に満たない。保障は手厚いほうが安心と思いがちだが、その安心はタダではなく、保険料というコストがかかる。働いている間に1度は入院するかも、という心づもりで、保険ではなく、貯蓄で10万円程度の医療費を準備しておくといい。貯蓄なら何にでも使えるし、コストはかからない。

大きなリスクに備えるという意味では、医療保険より、がん保険の優先順位が高い。がんの場合も高額療養費制度は適用されるが、治療が長引いて長期間お金がかかることがあるからだ。また、手術や病理検査などを経て給付金を請求するまでに数カ月程度かかるのが普通。当面の資金繰りに慌てる人が多いので、治療用の口座をつくり30万円ほど入れ、そこから必要なお金を出そう。給付金が出たらその口座に入れればいいので、お金の不安から解放される。

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深田晶恵
ファイナンシャルプランナー
生活設計塾クルー取締役。「すぐに実行できるアドバイスを心がける」がモットー。『住宅ローンはこうして借りなさい』など著書多数。

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(ファイナンシャルプランナー 深田 晶恵 構成=高橋晴美 写真=iStock.com)