フランス人から親戚付き合いのヒントを探ります(写真:LeoPatrizi/iStock)

自身や配偶者の親との関係など、家族・親戚との付き合いに悩む人は少なくないだろう。学校や職場の変更に伴い移り変わる友人関係と違い、親戚との付き合いは長く続く。身近な親戚と良好な関係を築けたら、人生は一層豊かになるはずだ。フランス人の家族の姿から、スムーズな付き合い方のヒントを探ってみた。

フランス流「シニア世代の暮らし」3つの例

自立を重視するフランス人は、基本的に就職すると親元を離れて住む。結婚したカップルが親と同居することも少ない。パリ滞在中に知り合った70代の夫婦は2人で住み、2、3カ月に1回、息子夫婦が孫を連れてやってくるという。孫が来る日は、マダムはチョコレートケーキを焼いて待つ。その老夫婦はノルマンディー地方に別荘を持っていて、夫が運転する車で2、3カ月に1度、数週間滞在することも楽しみにしていた。

知人のなかには、80代で一人暮らしをしている女性もいた。耳が遠く、歩く速さはゆっくり。時折息子が様子を見に来るが、普段はヘルパーの助けを借りて暮らし、昼食は近所のカフェで1人でとることもあった。

60代の女性は夫が亡くなった後、やはりパリのアパルトマンに1人で暮らしていた。南仏にも家があり、庭の手入れのために南仏とパリを頻繁に行き来していた。フランス国内に住む子どもが孫を連れて訪ねてくる一方、1年に1回くらい中東に赴任している息子夫婦を訪ねていた。

知り合ったシニア世代には、子どもに過度に頼ったりしない代わりに、自分も好きなように生きるという気概が感じられた。フランスの子育てでは自立を重んじるが、年齢を重ねても自分に誇りを持ち、自分らしく暮らすことを大切にしているようだった。

一方で、働く母親が多いフランスでは、祖父母は子育て支援も担う。幼稚園・学校の授業が終わる夕方、孫を迎えに行って親が帰宅するまで面倒をみたり、長期休暇中に自宅で孫を預かったりする。フランスの幼稚園・学校は年5回も長期休暇があるので、働く親にとって祖父母は頼りになる存在なのだ。

「嫁へのプレッシャー」が小さいフランス

フランスでは、「嫁はこうあるべき」という周囲からのプレッシャーが、日本に比べ少ないとも感じる。フランス人の友人女性が夫の両親を夕食に招いた際、同席したことがある。義理の両親は到着するとまず、友人女性と互いにほおを寄せ合うビズというあいさつをした。食事の間中、双方ともよく話し、友人には「義理の両親の前では控えめにする」というような雰囲気はない。社会問題が話題になったときも、友人は堂々と自分の意見を述べていた。

実は、友人は野菜が苦手で、野菜料理はあまり作らない。義理の両親は「お宅はあまり野菜を食べないだろうから」と言って、野菜スティックなどの入った前菜をおみやげに持って来ていた。それが、まったく嫌味な感じはなく、友人も腹を立てている様子はなかった。義理の両親が「もっと子どもたちに野菜を食べさせないと」とか、「野菜を食べないと健康に悪い」などとお説教は言わず、さらりと前菜を渡したからだろう。

友人の家庭では、夫婦そろって料理をする。この日の夕食を作ったのは主に友人の夫だったが、義理の両親がそれをとがめることもなかった。前菜、メイン、デザートと料理をテーブルに運んだり、空いた皿を片づけたりの作業は夫婦と子どもで協力する。嫁だけが奮闘する食事会には、なっていなかった。

夕食は和やかに終わり、義理の両親と嫁の関係は平等という印象を受けた。お互いを個人として尊重し、ライフスタイルに干渉しない。適度な距離を保つことが、円満な関係を保つ秘訣と思えた。

夫の両親や兄弟ら大勢が集まる際の嫁の立場はどうだろうか。日本では正月が家族や親戚が集まる機会となっているが、フランスではクリスマスを家族や親戚で祝う。知人のフランス人夫婦は昨年末、24日の夜には夫側の親戚を自宅に招き、25日の昼には妻側の親戚を自宅に招いた。

フランス人はクリスマスには、ごちそうを食べる。日本のおせち料理の場合、外で購入する家庭もあるが、手作りするとしたら女性が用意する家庭が多いのではないか。正月に夫の実家へ帰省する場合、迎春準備が妻にとってはストレスになるという話も聞く。

知人の家庭では24日の夕食も25日の昼食も、夫が十数人分の食事作りを担当した。前菜は生ガキとフォアグラ、メインは牛肉のローストなど、おせち料理のような時間と手間のかかるメニューではないが、素材が良いのでおいしい。デザートは招待客の1人が持参した。

「負担の分担」が大事

日本の正月は、料理を出したり、お酒の用意をしたり、おもちを焼いたり、主婦は座っていられないというイメージがあるが、フランスのクリスマスは趣が違うようだ。知人の家庭では、妻も食前酒を出したりしていたが、食卓でのおしゃべりを楽しむ時間も十分にあった。

楽しいはずのクリスマスも、誰か1人に負担が偏れば、その人にとっては憂鬱な年中行事になってしまう。親戚が集まる機会に負担を分担することも、長く続く親戚付き合いのなかでは重要なことだろう。