写真:AC

 フランスの週刊誌「ポワン・ド・ヴュ」は、オランド元大統領のファーストレディだったトリユルヴァイレール氏が、保守派政治家D氏と愛人関係にあると報道した。

 だが、この話はまったくの事実無根で、既婚者で4人の子どものいるD氏は同誌を名誉毀損で訴えることとなる。

 しかし、驚くべきことに2015年12月17日、最高裁判所は「不倫は40年前から刑法上の罪ではなくなっており、現代の風紀においては、とくにモラルに反するとはいえない。だから不倫の噂をたてられても名誉毀損にはならない」という判決を下し、D氏の訴えは棄却されたのである。

 事実として、フランスは世界でもっとも不倫に寛容な国である。

 アメリカのシンクタンク、ピュー研究所による2014年の統計では、フランス人の53パーセントがパートナーの不倫を許すと答えている。

 日本のモラルから見ると驚くべき数字で、これは世界で1位だ。ちなみに、日本は9位で31パーセント、アメリカは16パーセントと厳しく、最下位のパレスチナとトルコは6パーセント(他にもいろんな統計結果があるが、フランスはどの統計でも10位以内に入っている)。

 フランスで不倫が刑法上の罪でなくなり、民法上の過失となったのは1975年。2001年からは「生まれてきた子どもに罪はない」として、不倫関係から生まれた子どもも嫡子と同じ権利をもつことになり、これを機会に不倫につきものの暗い影はなくなった。

 嫡子であろうと非嫡子であろうと同じ権利をもつようになったのは公正だと思うが、いっぽうで不倫による離婚訴訟では慰謝料請求もままならなくなった。

 10年ほどまえ、友人Mは夫の不倫が原因で離婚した。夫婦名義で借りていた家を失い、友人たちの家を転々としたが、つい最近、低賃金者用アパートが割り当てられ、ようやくまともな日常生活を送れるようになった。

 7年続いた離婚訴訟の末に養育費こそもらえたが、不倫の事実に関しては重きを置かれることはなく、慰謝料が支払われることはなかったという。

 不倫=多額の慰謝料を想像するかもしれないが、フランスでは不倫も他の過失と同列に考えられる。そのため「過失なんて多かれ少なかれ誰にでもあること」と捉えられ、大事として扱われないケースが多い。

 たとえば妻が暮らす自宅に愛人を連れ込むなど、「妻が日常生活を営むことを妨げる」というような余程のことがない限り、不倫をしたパートナーから多大な慰謝料を受け取ることはできないそうだ。

 法律事務所に勤めている友人に聞いてみたところ、次のような実例を教えてくれた。

(1)28年の同居生活の末、愛人と新しい生活を始めるために出て行った夫が支払った慰謝料
 →3049ユーロ(約40万円)

(2)低収入の妻と3人の子どもを残して愛人の家へ出て行った夫が支払った慰謝料
 →1500ユーロ(約19万円)

「たったこれだけ?」と思ってしまう。
 弁護士にかかる費用のほうが高いではないか。この程度の慰謝料ならば、さっさと水に流して、新しい恋人を見つけるほうがお得というものだ。

 以上、『フランス人の性 なぜ「#MeToo」への反対が起きたのか』(光文社新書)を元に再構成しました。「性」に大らかな国・フランスの現在を、在仏ジャーナリストが多角的に描きます。

『フランス人の性』詳細はこちら