松本幸四郎 撮影/高梨俊浩

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 歌舞伎は見たことがあっても、日本舞踊の公演と聞くと、ちょっと難しそうとか興味があっても何を見ればいいのかわからない、と思う方がほとんどでしょう。今回は、そんな日本舞踊に縁のない方にもオススメな舞台をご紹介したい。

【写真】幸四郎はんの凛々しいお顔つきにドキッ

日本舞踊界の新たな挑戦

 日本舞踊松本流の三世家元でもある歌舞伎俳優の松本幸四郎さんをはじめとする日本舞踊協会のメンバーが、日本舞踊の新たな可能性を探る目的で昨年立ち上げたシリーズ“未来座”がそれだ。昨年の第1回公演では「水」をテーマとした4作品を上演し、好評を得た。

 第1回公演に出演し、日本舞踊協会の理事としてこの企画のプロデューサーのひとりでもある幸四郎さんに、未来座シリーズを立ち上げた目的や6月に行われる第2回公演『カルメン2018』の見どころなどを聞いた。

「日本舞踊のいろいろな流派同士の交流をはかり、流派を越えて同じ舞台に立って一緒に作品を作る場として日本舞踊協会というのができて、日本舞踊を知っていただくためにさまざまな活動をしてきました。

 そこでの新作公演に関してはしばらくお休みの期間がありましたが、古典芸能とはいいつつ、やはりその時代のいろいろなものに刺激を受けて作品を生みだすことも大事な活動のひとつなので、昨年、未来座として再スタートを切りました」

 昨年の第1回公演でも、幸四郎さんの演出ならではの創作舞踊としての取り組みをされ、観客からは「日本舞踊のイメージが変わる舞台だった」という声が多数あった。

「とにかく20分踊りきる。身体を動かしきる、そういう作品を作ろうと思って。その踊りが何を表現しているとかどういうメッセージがあるとか、まあそういうのはいいじゃないっていうかね。

 テーマは水でしたけど、水の何を表現しているかっていうことは考えて作らなかったです。見ていただく方には、20分間リズムに合わせて動き続ける人間のエネルギーってものを感じていただければと思ったので。

 パーカッショニストの仙波清彦さんが作られた尖った音楽で、古典的な振りを使った踊りを、日本舞踊にはないテンポで踊ったことが、新しく感じていただけたところかなとは思いますけどね」

 第2回公演の題材は世界的オペラ『カルメン』。

「男と女の情熱的な関係を表す作品だと思うので、そういう意味では、踊って表現するのにとてもいい題材ではないかと思います」

新生・橋之助にご注目を

 今作には残念ながら幸四郎さんは出演されないが、人気上昇中の若手歌舞伎俳優、四代目 中村橋之助さんがホセ役で、創作舞踊に初挑戦するのも注目。

「舞踊劇も経験のないことだと思いますし、女性と同じ舞台に立つってことも初めてのことですし、彼自身も襲名披露がだいたい終わって、これからというスタートのところで新たな世界に飛び込んでくれたので、また新しい橋之助くんを見ることができるんじゃないかと思います。

 お客さまには、何か本当の男女の感情を感じていただける作品になると思っています」

 日本舞踊の公演を初めて見る人に、どういう楽しみ方をするのがいいかアドバイスをしていただくと?

「この新作の公演に出演するのは日本舞踊協会員で、日本舞踊のあらゆる技を身につけている人たちばかりなので、着物を着てカッコよく動ける人たちばかりです。その舞台で日本のカッコよさってものを探しにきていただけると面白いんじゃないかと思いますね。

 カルメンの話をジャパネスクに見ていただく作品ですので、こしらえも着物をデザイン化した華やかな衣装になりますので、そういう部分も楽しんでいただけると思います」

歌舞伎作品を舞踊劇にしたい

 頭の中には、未来座シリーズで今後やってみたい作品の構想もあるようだ。

「歌舞伎の作品を舞踊劇で見せるということをやりたいと思っています。例えば忠臣蔵は全部を歌舞伎でやると丸1日かかってしまうのですが、舞踊劇にするとたぶん2時間以内にはなると思うんですよ。それは言葉がいらない踊りだからできることだと思いますし。

 四谷怪談も舞踊劇で見てみたいと思ったりするんですよね、あれも歌舞伎でやれば1日かかりますから。歌舞伎の作品というものを日本舞踊の世界で舞踊劇にするっていうのは、とても可能性を感じますね。

 僕は歌舞伎役者でも日本舞踊家でもあるので、それができるように考えられる立場じゃないかなとは思っています」

 若いころから、劇団☆新感線の舞台やミュージカルに出演されるなど、歌舞伎にとどまらず活動してきた幸四郎さん。

 近年も’15年の歌舞伎ラスベガス公演、昨年はフィギュアスケートと歌舞伎のコラボ『氷艶HYOEN2017-破沙羅-』を成功させるなど、さまざまなエンターテイメントにチャレンジしている。そのエネルギーの源とは。

「好奇心というか、ミーハーってことでしょうね。何か新しいものを作ってみたいということよりも、こういうのあったら面白いだろなっていうふうに思って、それがないんだったら作るしかないっていう(笑)。

 見たいものがないんだったら、もう作るしかないっていう。それの連続ですね。だから、新しいものを作らなければという使命感というよりは楽しみです」

 幸四郎さんを先頭に生み出される、日本舞踊の新たなエンターテイメントにも大いに期待したい。

〈取材・文/井ノ口裕子〉

【PROFILE】
まつもと・こうしろう 1973年1月8日、東京都出身。今年、七代目 市川染五郎から、十代目 松本幸四郎を襲名。日本舞踊松本流の三世家元。七月歌舞伎(7月3日〜7月27日@大阪松竹座)出演。7月31日、京都ホテルオークラにて松本幸四郎ディナーショーを開催。

【STAGE】
第2回 日本舞踊 未来座=裁(SAI)=『カルメン2018』
日本舞踊の新たな可能性を探る目的で、日本舞踊協会メンバーが昨年立ち上げた未来座によるSAIシリーズの第2弾。世界的オペラ『カルメン』を題材にした創作舞踊で、さまざまな運命に裁かれながら生きる女と男を描く。若手が主役のソル組(カルメン役:市川ぼたん、ホセ役:四代目 中村橋之助)と、実力派が主役のルナ組(カルメン役:水木佑歌、ホセ役:花柳寿楽)のダブルキャストで上演。6月22日〜6月24日@国立劇場小劇場
【問い合わせ】公益社団法人 日本舞踊協会/公式ホームページwww.nihonbuyou.or.jp