「どうする、親の商売」…。今、後継者ゼミが注目されるワケ
親の会社へ入社した受講生OBもいるが、皆ようやく20代半ばにさしかかったばかりなため、実際に社長業を継いだ例はまだない。ただ跡継ぎへの道を歩むかどうかは別としても、受講生の進路には何らかの影響は及ぼしていそうだ。
世界中から起業家が集まるシリコンバレーのような仕組みを、いきなり作り上げようとしても無理がある。仮に可能だとしても、全国で候補地になり得る場所はいったい何カ所あるのか。むしろ中小企業の世代交代を活発化し、そこから新規事業の芽を育んでいった方が、より現実的とは言える。
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世代交代を機に新事業
実際に、世代交代を機に事業構造を大きく変えてきた長寿企業は少なくない。ダウンジャケットの新興ブランドとして存在感を高めているナンガ(滋賀県米原市)もその一つだ。
伊吹山の麓の農村地帯に本拠を構える小さな企業だが、2015年に碑文谷、2016年には吉祥寺と相次いで東京に直営店もオープンした。創業70年を超える老舗企業で、もともとはこたつ布団の縫製の請負からスタート。2代目社長である父の代に寝袋に進出し、アウトドア製品でブランドを確立していた。
そして3代目社長が横田智之社長。2009年に就任し、現在38歳。1999年に実父が社長を務める同社へ入社した。現在の社員数は約70人、売上高10億5000万円だが、当時は10人程度で、売上高は1億2000万円だった。
主力製品は寝袋。「長男としての責任感から継いだが、できれば継ぎたくはなかった」と横田さん。山野さんが仕掛けた「後継者ゼミ」にも講師として参加するが、「学生と話をしても、やはり同じ気持。継ぎたいと思って継ぐ人は少ないのでは」と本音を語る。
親と同じことはやらない
ただ親と同じことをしたくないという反骨心が、企業の成長につながった。「覚悟した以上は結果を出さないといけないが、寝袋で頑張っても、それはどこまで行っても父の仕事」。
入社後そんな思いでいた時に飛び込んできた仕事が、アパレルメーカーから受けたダウンジャケットのOEM(相手先ブランド)生産。2005年のことだ。父に相談の上、チャンスと思い受注。もっとも、この時は納期に遅れた上に赤字となり、父からはこっぴどくしかられた。
この失敗を糧に、2年後に再び同じメーカーから依頼された時は納期も利益もクリアした。その後もOEM生産で直実に実績を積んだ結果、セレクトショップとの取引にもつながった。
社長就任後は、ダウンジャケットを中心にウェア事業をさらに伸ばし、いまや寝袋との売上高の割合は7対3と逆転。ウェア事業が同社の大黒柱となっている。ナンガの単独ブランドもジワジワと伸びており、ウェア事業の2割を占める。
父の助けは借りずにウェア事業を立ち上げたが、「寝袋の事業があったからこそ」と横田さんは話す。「材料は在庫を転用できたし、ミシンもそのまま使えた。最初は200万円ぐらい赤字がでたが、ゼロから始めていたら10倍ぐらいに膨らんだだろう。そもそも投資する資金さえ集められなかっただろう」と振り返る。
3回目の挑戦へ
父の仕事を身近で見てきたことも生きた。「寝袋もまず下請けからスタートし、技術を高めながら自社ブランドにつなげてきた」と、かつて父が築いた成功パターンを見習った。
横田さんが現在取り組むのは、海外市場への進出だ。この7月に米国ユタ州のソルトレイクシティで開催された展示会に初出展。国内では一定のシェアを持つ同社も海外ではまったくの無名。
それでも「寝袋も、国内のダウンジャケットも、弱小メーカーでありながら徐々に自社ブランドを高めていくことができた。やり方は分かっている」と言い切る。世界的なブランドの確立という3回目の挑戦が始まったところだ。
後継ぎなのか、ベンチャー経営者なのか?
大阪市都市型産業振興センターの山野千枝さんに、なぜベンチャー型事業承継なのかを聞いた。
‐古いイメージのオーナー企業ですが、実際は新しいことに取り組んでいるところが多いようですね。
「オーナー企業は永続性を前提としながら、合理的な経営をしているところが多い。そういう企業は社員を大事にするし、地域にも貢献している。そして永続するためには、必然的に新しいことにも挑戦していかなければならない」
‐ベンチャー型事業承継という言葉はどこから生まれたのですか?
「ある自動車部品メーカーの社長が使い始めたのが始まり。そこの社長は3代目だけど、ベンチャー色の強い事業を展開しているため、ベンチャー経営者としても見られている。ただベンチャー起業家の集まりや、中小企業の後継者の集まりのどちらに参加しても違和感がぬぐえず、自らベンチャー型事業承継と名乗るようになったそうです」
‐事業承継のタイミングは?
「世代交代は早いほうが良いのではないでしょうか。50歳で専務なんていうのでは、いざ世代交代した時に新しいことができない。ただ、これからは業界の線引きがどんどんなくなってくる時代となります。20代のうちは、家業とは違う世界や業界に一度は飛び込むことも大切。そこでの経験やノウハウ、人脈が組み合わせることで、新しいモノを生み出すことにつながる」
‐学生にはどのようなアドバイスを?
「家業を継ぐということは、先代である親と同じ人生を歩むことではない。むしろ、そこに自分自身がやりたいことを持ち込むことで、企業は永続していける。そのように新しいことにチャレンジすることは、起業家同様にカッコイイことだと思います」