<専門家が警鐘>服役中の幼児誘拐犯から聞き取りした、犯罪者が狙う子どもの特徴
「不審者を狼で表現するポスターをやめる」 「ガーデニングの水やり、犬の散歩は子どもの下校時に合わせる」 「夕方だけは玄関ドアを開けっぱなしにする」千葉・松戸女児殺害から1年のあの街ではいま――
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朝、登校した子どもが無事に帰宅するという当たり前の日常を一瞬で破壊する卑劣な犯罪が、また起きてしまった。
用心するのは見た目が怪しい人だけ
犯罪心理学に詳しい新潟青陵大学大学院の碓井真史教授は、地元で起きた事件に、
「犯行現場は、私の自宅からも大学からも車で15分ほどの場所。衝撃を受けました」
平日の昼下がりの通学路で、被害女児は連れ去られた。犯人逮捕前、黒ずくめの男の不審者情報が報じられたが、碓井教授は情報がミスリードすることがあると指摘する。
「見るからに怪しい不審者が起こす犯罪ではないのです。親がちょっと目を離したすきや下校時に連れ去るには、見た目がよく、子どもとすぐに友達になれるタイプがいい。立派な人、やさしい人でも加害者になる可能性があると用心する必要があるのです」
さらに、注意喚起を呼びかけるポスターに描かれる怪しい人物の絵、狼の絵が逆効果だと訴える。
「子どもは見た目が怪しい人を用心しますが、それ以外の人は用心しなくなってしまう」
刷り込みが、さらに子どもを危険にさらしてしまう。
犯罪心理学者で東京未来大学子ども心理学部長の出口保行教授も、
「危険な人は危険な格好をしているわけじゃないことを、きちんと教えるべきなんです」
としたうえで、犯行に及ぶ際の犯人の行動を説明する。
「常に大人の目が必要」
「事前の調査を綿密にしている。ターゲットを決めて、1〜2週間ほど観察し、何時ごろにどこを通るか、どこからひとりで歩くなどと調べ上げ、待ち伏せポイントで誘拐をするのです」
これらは幼児誘拐をして服役中の受刑者から聞き取り調査し、浮かび上がった手口だ。抑止力になるのは地域の目だと、出口教授が続ける。
「最も多い犯行時刻は午後3〜4時台の路上で、ターゲットは7〜8歳。つまり小学校低学年の学校帰りなんです。この時間帯に、地域の人に玄関先を掃いてもらうとかすればいい。犯罪者は人の目を非常に気にするんです。これも受刑者の生の声です」
さらに子どもには緊張感の大切さを説く。
「犯罪者が襲うかどうか最後に判断するのは、相手が緊張しているかどうか。緊張している子は、襲った瞬間に大声を出したり、暴れたりするかもしれない。逆に安心しきっている子は襲いやすい」
碓井教授も、「子どもを孤立させないために、常に大人の目が必要」と訴える。
「地域住民と子どもが気軽にあいさつできるようにしておく。見守り活動も“ながら見守り”がいい。ガーデニングの水やりや犬の散歩の時間は、登下校に合わせる。余裕があれば夕方は玄関のドアを開けっぱなしにして、家の前を通る子どもの様子を見る」
と提唱しつつ注文もつける。
「見守りする方が、深刻な顔をしてちゃいけません。子どもを安心させるのは笑顔です」
昨年3月、ベトナム国籍のリンちゃん(当時9歳、小学3年)が、保護者会会長に殺された千葉・松戸市は、地域の見守り体制を強化した。昨年6月にスタートしたのが、『六実っ子安心安全見守り隊』だ。松戸市・市民安全課の倉林真帆主事に話を聞いた。
高まった防犯意識
「従来の見守りは、ベストや腕章をつけたりする、参加のハードルが高いものでした。現在の見守りは、買い物や通勤など何かのついでに、表示カードを首からぶら下げて見守るというものです。
自治体や町内会、PTA、営業でこの地区に来られる企業などにも参加いただいています。この地域に居住している必要はありませんが、どこかの団体に所属している必要があります。5月17日現在で、1340人が登録してくださっています」
現地の同市六実を訪ねると、低学年の児童が下校する様子を、何人もの保護者が通学路で見守っていた。小学生の子どもを持つ40代の主婦は、
「卒業生の保護者の方が積極的に見守りに立ってくれたり、見守り隊ができたりと、防犯の意識は高まったと思います」
と変化を実感。小学生の孫を持つ70代の女性は、
「気が緩んだときが危ないんだって言い聞かせています」
不審者情報、治安情報が地図上でひと目でわかるサイト『ガッコム安全ナビ』を利用し情報共有するPTAもある。
同サイトを運営するガッコムの山田洋志代表は、
「小学生の性的な被害や声かけの事案が多いことに驚きました。防犯対策に役立てていただきたい」
と歓迎する。現在はパソコンでの利用だけだが、今秋にはスマホ用アプリも配信する。
卑劣な犯罪者から子どもを守るため、比較的簡単な手立てでやれることは多い。
碓井教授はこう呼びかける。
「すごくいい人でも油断しないこと。子どもをことさらほめたり仲よくなりたがる大人であっても注意を払うよう子どもと大人で地域を回り、危険な場所を共有し、なくしていく。その結果、防犯マップが作成できる。総合的に考えて子どもの安心安全を守っていただきたい」
2度と珠生ちゃんのような被害者を出さないために。