iPhone X(写真)にするべきか、それともiPhone 8、8 Plusにするべきか…(筆者撮影)

年末年始の休暇は、スマートフォンの買い換えに最適である。新しいスマホの環境整備やデータ移行にはそれなりの時間が掛かるし、そもそも新機種に慣れるのにも時間が必要だ。休暇中に買い換えれば、余裕を持って新年の仕事始めを迎えられる。

現在、機種変更の手続きに必要な労力はあまり大きくない。データのバックアップや移行のためのアプリが用意されていたり、多くのアプリがデータをクラウドに保存しているため、AndroidとiOS間でOSをまたいだとしても、多くの場合円滑に機種変更できる。

本稿では2017年9月から11月に発売されたiPhoneを振り返り、機種選びのポイントをお伝えしていこう。

iPhone Xか、iPhone 8か

2017年のiPhone選びは、まったく新しいコンセプトで登場したiPhone Xを選ぶか、それともこれまでのiPhoneを引き継いだiPhone 8シリーズを選ぶか、という二択から始まる。


左からiPhone 8、iPhone X、iPhone 8 Plus。サイズとしては、iPhone 8に近く、iPhone 8にケースを装着すると、iPhone Xと同じような握り心地を再現できる(筆者撮影)

iPhone Xは、有機ELディスプレイをiPhoneとして初めて採用し、10年間採用し続けてきたホームボタンを廃止したまったく新しいスマホとして登場した。また10周年記念モデルの意味合いもあり、iPhone 8ではアルミニウムだったフレームは、ステンレススチールが採用され、特に磨きのステンレスとされたシルバーモデルは、iPhone Xならではの印象を与えてくれる。

最上位機種らしい演出も数多く見られるiPhone Xだが、あくまでiPhone 8を基に作られており、多くの部分で機能や性能を共有している。

iPhone 8は、機械学習処理とグラフィックス、画像処理エンジンなどを強化したA11 Bionicが搭載されており、同じプロセッサがiPhone 8 Plus、iPhone Xにも搭載されている。またカメラについても、高速化されカラーフィルタが刷新された1200万画素カメラは、iPhone 8シリーズ、iPhone Xで共通化されているのだ。

そのため、iPhone 8シリーズを選んだとしても、iPhone Xと同じようにアプリを高速に動作させることができ、性能面で早く陳腐化することはない。

また、2017年モデルのiPhoneは、金属のフレームとガラスの背面というデザインの要素、下り最大800MbpsのLTE、Qi規格に対応するワイヤレス充電、引き続きSuica/iD/QUICPayをサポートするApple Pay、防水・防塵設計、音量が大きく低音が豊かになったステレオスピーカーといった仕様も共通となっている。

そのため、iPhone X、iPhone 8、iPhone 8 Plusのどれを選んでも、性能面や速度面、機能面を気にせずに選ぶことができる。

iPhone Xにはすぐ慣れる

iPhone Xでは、10年間採用し続けてきたホームボタンを廃止してフリック操作に置き換え、また指紋認証から顔の認証へと生体認証方式を変更し、その操作方法を一新している。

手に馴染んだiPhoneを使い続けたいという人は、積極的にはiPhone Xに乗り換えにくいと考えるかもしれない。ただし、その心配はあまりない、というのが実際に使ってみた感想だ。

まずホームボタンの代わりに採用された画面下部のフリック操作は非常にシンプルだ。

ホームボタンを押し込む操作が、画面下縁から上への短いフリックに置き換えられている。ホームボタンをダブルクリックしてマルチタスク画面を表示させる操作は、画面下部からのフリック中に指を画面上で止めれば良い。基本的にはこの2つの操作さえ覚えれば、iPhone Xで困ることはほとんどなくなる。

またTouch IDの代わりに採用された顔認証のFace IDは、一度顔を登録してしまえば、後はiPhoneを見るだけでロック解除が行われる。iPhoneを手に取って使おうとすれば自然とiPhoneを見ることになるため、そもそも「慣れ」を必要としない。

ただし、次のような場面では、これまでのTouch IDを採用するiPhone 8、iPhone 8 Plusの方が良いかもしれない。

ノートパソコンで仕事をしているときに、その右側にiPhoneを置いて、届いたメールや通知などを確認することが多い場合だ。Touch IDを採用しているiPhone 8やiPhone 8 Plus、それ以前のモデルでは、指紋登録済みの指でホームボタンを押し込むだけで、すぐにiPhoneの画面を操作することができる。

ところが、iPhone Xの場合、内側にあるカメラで顔認証をしなければならない。つまり、iPhone Xに触れただけではロック解除はできないのだ。iPhone Xを手に取って、自分の顔の方に傾けるか、顔認証ができるようiPhone Xの真上に顔を動かさなければならない。これはFace IDの面倒な点だ。

ディスプレイの違いは?

iPhone XとiPhone 8シリーズでは、性能面での大きな違いはない。またiPhone Xが採用したフリック操作と新しい生体認証のFace IDも特段慣れを必要とせず、すぐに馴染めるだろう。

iPhone XとiPhone 8のもっとも大きな違いは、ディスプレイとカメラである。

iPhone 8は4.7インチ、iPhone 8 Plusは5.5インチのRetina HDディスプレイを搭載している。これに対してiPhone Xは、有機ELを採用した全面を画面とした5.8インチSuper Retinaディスプレイが採用された。

ディスプレイサイズだけで比較すれば、iPhone Xが最大サイズとなるが、実際に利用する場合には、少し異なる見方をする必要がある。たとえば、ビデオを再生する場合を考えてみよう。

iPhone 8、iPhone 8 Plusを横長に構えると、それぞれ16:9の縦横比となる。これは一般的なテレビ番組やビデオ配信サービスと共通だ。しかしiPhone Xは、21.65:10(19.485:9)というこれまでとは異なる縦横比を採用しており、16:9の映像を表示すると左右に黒い帯が表示されてしまう。

16:9の映像の縦の長さで比較すると、iPhone 8がもっとも小さくなるが、最も長いのはiPhone 8 Plusだ。iPhone Xは画面の領域自体は最大となるが、横長に構えた場合の縦の長さはiPhone 8 Plusより短くなり、映像を楽しむ際の画面の領域は、iPhone 8 Plusの方が広くなる。

またバッテリー持続時間の面でも、iPhone 8 Plusが有利となる。iPhone 8 Plusはワイヤレスビデオ再生時間は14時間と、iPhone 8・iPhone Xの13時間より長くなっている。そのため、NetflixやHulu、YouTubeなどでビデオをより広い画面で長く楽しみたい場合は、iPhone 8 Plusが最適といえる。

引き締まった黒と鮮やかな発色を楽しみたいのであれば、iPhone Xだ。iPhone Xが搭載するSuper Retinaディスプレイは、iPhone 8で1400:1、iPhone 8 Plusで1300:1だったコントラスト比は100万:1となるため、その差は一目瞭然だ。

他方、iPhone 8は3機種の中で最も小さなディスプレイサイズだが、このモデルを選ぶメリットは「手に馴染むサイズ感」といえるだろう。確かに大画面も魅力的だが、毎日使う道具である以上、大きすぎて手に余ったり、片手で操作しにくいのであれば、快適な選択とはいえない。

iPhone Xはケースを装着したiPhone 8とほぼ同じサイズだが、iPhone Xにも当然のようにケースを装着するわけで、よりコンパクトな、手に馴染むサイズを求めるのであれば、iPhone 8が最適だ。

カメラにこだわるならiPhone X一択

カメラはどうだろうか。

iPhone X、iPhone 8 Plusには背面に2台のカメラが搭載され、広角、望遠のレンズを切り替えて撮影できるだけでなく、背景をぼかすポートレートモードの撮影にも対応している。ポートレートモードには、新たにポートレートライティング機能が搭載され、撮影時、撮影後に照明効果を変化させることもできるようになった。

もしポートレートモードを楽しみたいのであれば、iPhone XかiPhone 8 Plusのいずれかを選ぶ必要がある。その中でもiPhone Xのカメラ機能の充実は魅力的だ。

背面カメラの望遠レンズは、iPhone 7 Plus、iPhone 8 Plusでは明るさf2.8だったが、iPhone Xではf2.4とさらに明るくなった。加えてiPhone Xの望遠レンズには光学手ぶれ補正も加わったことから、よりぶれにくく、薄暗いシーンでも撮影しやすくなった。特にビデオでも、積極的にズームしながら安定した撮影ができる。

さらに、iPhone Xに搭載されたFace IDを実現するTrueDepthカメラを用いると、セルフィーもポートレートモードでの撮影が可能となる。インカメラでのポートレート撮影はアウトカメラのそれと違い、被写体から2.5m程度の距離を取る必要がなく、普段通りセルフィーを取る感覚で撮影できるため自由度も高い。

もちろんiPhone 8も、アウトカメラ、インカメラそれぞれ非常に高い画質の撮影が可能だし、iPhone 8 Plusもポートレートモード撮影を楽しめるため、カメラ機能に不満はない。ただ、カメラにこだわるなら、iPhone Xを選んでおくと、より楽しめるだろう。

長期目線でのiPhone選び

最後に、今後のiPhoneの展開を見据えた機種選びについて触れておきたい。機能面の違いとともに気になるのは、なんといっても価格だろう。

iPhone Xは米国で999ドルから、日本では11万2800円(64GBモデル、税別)と、特別モデルとしての高い価格が設定されている。スタンダードモデルであるiPhone 8の7万8800円、iPhone Xよりもビデオ再生時に大画面となるiPhone 8 Plusの8万9800円と比較すると、2万3000〜3万4000円の差額が生じている(価格はいずれも64GBモデル、税別)。

もしiPhone Xに興味がある場合、iPhone Xならではの魅力である新しいディスプレイやカメラの充実といった優れた体験と、この差額とを天秤にかけることになる。

コンパクトなサイズというiPhone 8の魅力と、大画面とポートレートモードというiPhone 8 Plusの魅力を兼ね備える1台として、またいち早く新しいiPhoneに触れたいという場合も、iPhone Xに傾く十分な理由となるだろう。

アップルは2018年に発売するiPhoneについて、全てをホームボタンなし、TrueDepthカメラ搭載のモデルにする計画があると伝わってきている。現在の5.8インチのiPhone Xをベースに、よりサイズの大きい6インチ超えの有機ELディスプレイを搭載するモデルが登場することは間違いないだろう。さらに、液晶ディスプレイを採用する6インチの全画面モデルのうわさも取り沙汰されるようになった。

その際、5.8インチのiPhone Xが999ドルの価格に据え置かれる可能性は低いのではないか、と考えている。iPhone 8の699ドルにはならないかもしれないが、800ドル前後の価格に落ち着くだろう。全画面モデルのiPhoneの選択肢が拡がり、価格が安くなってから選ぶということであれば、1年待つか、どうしても機種変更が必要な場合はiPhone 8シリーズを選んでおいても良い。

アップルはApple Storeで「iPhone下取りプログラム」を展開している。例えばiPhone 8/8 PlusやiPhone Xを購入する際、1年前のiPhone 7 Plusであれば最大4万6000円の下取り額となるiPhoneを取り扱っている携帯電話会社も、同様の下取りキャンペーンを行っている。こうしたキャンペーンが今後も続いていくことを見越して、今年はiPhone 8やiPhone 8 Plusを選び、次のiPhone Xシリーズを再び選ぶという計画も一考の価値がある。