枡野俊明『近すぎず、遠すぎず。 他人に振り回されない人付き合いの極意』(KADOKAWA)

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ストレスや不安に強くなるためには何が必要か。重要なことは「他人に振り回されない」ということです。「ニューズウィーク日本版」の「世界が尊敬する日本人100人」にも選出された僧侶の枡野俊明氏は、誰でも実行可能な「8つの習慣」によって、他人に振り回されることが減ると説きます。「禅の教え」を日常生活に採り入れる方法とは――。

■「相手には相手の価値観がある」と知る

「禅の庭」をつくるときには「山是山、水是水(やまはこれやま、みずはこれみず)」という禅語を思い出します。意味は、山は山として本分をまっとうし、水は水として本分をまっとうすることにより、自然のなかで共存するということです。これを人の社会にあてはめるなら、自分には自分の価値観があるように相手には相手の価値観があり、相手を受け容れることによって、イライラや不安を感じることが少なくなっていきます。

禅の教えを体得することにより、人は苦手な相手ともうまく付き合えるようになりますし、誰とでも心地よい距離感を保つことができるようになります。そのことについては、私の新しい著作『近すぎず、遠すぎず。 他人に振り回されない人付き合いの極意』(KADOKAWA)にまとめました。ここでは著作の中から、自然と心が強くなる8つの習慣をご紹介しましょう。いずれも禅の教えをもとにしたものです。

■習慣1 「いま」という瞬間を大切にする

1つ目の習慣は、「本分をまっとうし、いまを生きる」ことです。よいおこないをすれば、いい結果がついてくる「善因善果」、悪いことをすれば、悪い結果となる「悪因悪果」は普遍的な道理、真理ですが、私は、自分の本分をまっとうすることが善因だと考えています。自分がやるべきことをやる、と言い換えてもいいでしょう。

禅において、やるべきこととは、いま、やっていることです。大切なのは「いま」であるから、いま、やっていることを精一杯、心を込めてやりなさい。禅ではそのように教えます。いま、その瞬間には目の前にやるべきことが必ずあります。そのことを、心を込めてやっていく。それができているでしょうか。人生は「いま」という瞬間の積み重ねです。いまを大切にしてください。

■習慣2 早起きして、清々しく充実した朝を過ごす

2つ目の習慣は、「早起きして、清々しく充実した朝を過ごす」ことです。私は、その日がどんな一日になるかは、朝の時間の過ごし方で決まると考えています。たとえば、仕事をもっている人が朝寝坊をすれば、仕事に取り組む態勢を整えることができません。出遅れ感は一日ついてまわります。反対に、早起きをすればゆとりができるため、自分のペースを保つことができます。

自分のペースを保つことができれば、心も穏やかになり、人への対応も自然体で和やかなものになります。それは、誰に対しても感謝の心をもって接するために必要不可欠となります。30分早く起きましょう。一日が確実に変わり、良縁も生まれやすくなります。

■習慣3 朝10分間の掃除を日課とし、整った心で家を出る

30分早起きすることにより、自由に使える朝の時間ができます。どのようにして過ごしますか。「朝10分間の掃除を日課とし、整った心で家を出る」ことを3つ目の習慣にしましょう。

会社や学校に行く前に、掃除なんてしていられない。そう考える人も少なくないでしょうが、毎日、場所を決めればいいのです。月曜日はキッチンまわり、火曜日はトイレと玄関……というようにローテーションを組めば、掃除にかける時間は1日10分ですみますし、週末にまとめて掃除をする必要もなくなります。

掃除をするということは、単に部屋を片づけ、きれいにすることにとどまりません。禅では、部屋の塵を払うことは心の塵を払うこと、廊下や床を磨くことは心を磨くこと、と考えます。掃除は坐禅にも匹敵する修行なのです。

きれいな心でいれば、心の目にも曇はありません。曇りのない心眼なら、そのとき、その状況のなかで、相手とどのくらいの距離をとるのが適切かを計ることができます。つまり人間関係でイライラすることが自然と減っていくことでしょう。

■習慣4 感謝と尊敬の念をもって合掌する

4つ目の習慣は、「感謝と尊敬の念をもって合掌する」ことです。合掌には、右手は相手の心、左手は自分の心で、それを合わせることは相手と心を一つにすること、という意味があります。仏壇の前での合掌は、ご先祖様と心を一つにして、いま命をいただいていること、今日も無事に朝を迎えられたことを感謝する所作なのです。

毎朝、ご先祖様に感謝することは、人に対して感謝することにもつながっていきます。仕事のご縁をいただいてありがたい。友人でいてくれてありがたい。そんなふうに思えるようになれば、あなたの心は盤石です。

■習慣5 心を込めた直筆の手紙を書く

現代において、いくらメールが使いやすくて便利だからといって、大事なお願いごとや深く反省したことへの謝罪をメールでするのは、あきらかに礼を失します。心の機微はメールでは伝わりません。5つ目の習慣は、「心を込めた直筆の手紙を書く」ことです。

大事なことを伝えたいときには、直筆で手紙をしたためましょう。どうしたら思いが伝わるかを考え抜き、言葉を選び、さらに推敲する。このように時間も労力もかけることで、文面に思いがこもるのです。

ここいちばんというときに、心を伝えてくれるのは手紙です。その力を今一度見直してみてはいかがでしょうか。

■習慣6 勝ち負け思考はやめて自分の弱みを見せる

人には自衛本能がありますから、弱みは見せたくないものです。英語が苦手、政治に疎い、経済に暗い……そんな弱点を知られると、不利益につながると考えます。しかし、「勝ち負け思考はやめて自分の弱みを見せる」ことを6つ目の習慣にしましょう。

弱みをさらけ出すと、その素直さ、潔さは好感をもって受けとめられることでしょう。ときには、相手のサポートを受けて、弱点がカバーできるかもしれません。弱みを見せることで、ストレスやイライラ、不安なども解消されていきます。

■習慣7 三業を整えて、ふるまいを美しくする

7つ目の習慣は、「三業を整えて、ふるまいを美しくする」ことです。三業(さんごう)とは、身体の「身業」、言葉の「口業」、心の「意業」のことであり、禅の教えにある「三業を整える」とは、美しくふるまえば、言葉もうつくしくなり、心も整うという意味になります。

人は、ふるまいの美しい人に近づきたいと思うものです。それでは、美しいふるまいとはどのようなものでしょうか。禅の美の表現を借りれば、「簡素」にして「自然」ということになります。それは、上品に見せることではありません。心を込めて、丁寧に所作をおこなえば、自ずと、簡素で自然な美しいふるまいになるのです。

■習慣8 自然と触れ合うことで感性を磨き続ける

向き合っている相手の心の内を感じとるのは感性です。感性を磨くために、できるだけ自然と触れ合いましょう。8つ目の習慣は、「自然と触れ合うことで感性を磨き続ける」ことです。

いたるところで冷暖房が備わっている現代は、日常のなかで季節を感じることが難しくなっています。葉のこすれる音、小鳥のさえずり、草の香り、北風の冷たさ……自然にはどこにも「はからい」がありません。あるがままの姿が、自然にはあります。

日本人の豊かで繊細な感性は、四季折々の自然と触れ合うことで育まれてきたのではないでしょうか。心がもともと備えている、相手との距離の自動調整能力をうまく機能させるためにも、自然と触れ合いましょう。

どれも今日から実践できる簡単なことです。「これならばできそうだな」と思えるものから是非お試していただければと思います。

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枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)
「禅の庭」庭園デザイナー、僧侶
1953年、神奈川県生まれ。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣(当時)新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受賞。2006年、「ニューズウィーク日本版」にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授。著書に『スター・ウォーズ 禅の教え』(KADOKAWA)、『禅シンプル生活のすすめ』(三笠書房)などがある。

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(「禅の庭」庭園デザイナー、僧侶 枡野 俊明)