まさに「情報戦」日馬富士問題 連日の新証言...裏には何が?
横綱・日馬富士の幕内・貴ノ岩への暴行問題は、スポーツ紙などに日ごとに新たな証言が飛び出し、「情報戦」の様相を呈してきた。
そもそもの発端は14日のスポーツニッポン報道。関係者の話として、日馬富士が貴ノ岩を「態度が気に入らないという理由で、近くにあったビール瓶で思いきり殴打した」などと報じられた。協会に提出した貴ノ岩の全治2週間との診断書に、「右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」との記載があったことも、事態の大きさを物語らせた。
初報は貴乃花親方と関わり深いスポニチ
ただ、これを報じたのはスポニチのみだった。14日放送「とくダネ!」(フジテレビ系)では、相撲記者の横野レイコ氏が「協会もマスコミもほとんどの人が知っていた」とする一方、同紙は貴乃花親方が専属評論家をつとめていたことから「親方がわかったうえで、(スポニチ)1紙だけが出していると思う」と何らかの思惑があるような推測を述べていた。
そして詳報されるにつれ、さまざまな点で日馬富士側・貴ノ岩側の言い分に食い違いが出てきた。注目点は大きく「ケガの経過」「暴行のきっかけ」の2つがある。
「ケガの経過」については、当初「右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」という、件の診断書を元に議論が進んでいた。ところが、日本相撲協会は17日、診断書を作成した医師が、「重傷であるように報道されていることに驚いている」と危機管理委員会の聴取に話していると発表。「全治2週間」は、「事象が発生した10月26日から11月8日までの2週間」を意味し、11月9日時点で「相撲をとることを含め仕事に支障がない」と判断したという。
だが、貴ノ岩は12日の九州場所初日から休場。貴乃花親方は14日の協会執行部の聴取に、貴ノ岩は「頭が割れている。相撲を取れる状況ではない」と説明していた。さらに17日、「捜査関係者」の話として、貴乃花親方は鳥取県警に症状が軽い別の診断書を提出していたと読売新聞などが報じ、混乱が深まった。
宴席の模様めぐり「正反対」の証言
「暴行のきっかけ」をめぐってはいっそう錯綜している。当初、酔った日馬富士が話している最中に貴ノ岩がスマートフォンを操作し激怒した、とされていた。
中でも、「週刊朝日」が15日にウェブ版で配信した記事では、「同席した力士ら関係者」の証言をベースに、白鵬や貴ノ岩らがお互いに冗談を言い、「ガハハハッ」と笑い合うような和やかなムードだったところに、突如日馬富士がキレ出し、ビール瓶で貴ノ岩を殴り、止めに入った白鵬らも振り払った――とかなり詳細に記述していた。
一方、白鵬は16日に「ビール瓶で殴った」ことについては否定。さらに、19日付の日刊スポーツは「独占掲載」の文字とともに、鳥取県警の捜査関係者らの話として、まったく別の「事実」を次のように報じた。
はじまりは9月下旬の錦糸町のバー。酔った貴ノ岩がモンゴル出身の後輩力士らを相手に「俺は白鵬に勝った」「あなたたちの時代は終わった」「これからは俺たちの時代」などと口にした。この話は後日、同席者を通じて白鵬に伝わった。白鵬は問題の10月25日深夜(26日未明)の酒席で、貴ノ岩に錦糸町の話を持ちかけ態度を叱った。そこで、貴ノ岩がスマホを操作しているのに気付いた日馬富士が「大横綱が話している時に何してんだ」と頭を叩いたが、反抗的な態度をとられてさらなる暴行にいたった。貴ノ岩に話をしていたのは白鵬だったというのだ。
さらにスポーツ報知が19日付で報じたのは、貴ノ岩が「今年の夏巡業中に同じモンゴル人力士を殴打していた」という内容。別の部屋の幕下以下の力士の「顔面を数発殴り、膝蹴り」し、「多くの力士が目撃していた」という。被害届は出されなかったが、日馬富士にこの件が伝わった。10月の暴行は「許されるものではない」としながら、「思い上がった後輩の態度を許せないと判断した横綱の『制裁』の意味もあったと指摘する声もある」とも書いている。
いずれも、「関係者」による情報だが、その内容、そして受ける印象は180度異なる。A説が広まれば、B説が飛び出す――といった具合だ。はたしてその裏には、どのような「思惑」があるのか。
「ウルトラ保守なんですよ、実は」
キーパーソンの一人は貴ノ岩の師匠・貴乃花親方。その動向が注目されているが、スポーツジャーナリストの二宮清純氏は貴乃花親方を「ウルトラ保守」「相撲原理主義者」と呼び、「そこを理解しないと真相は見えてこない」と述べている。
二宮氏は2017年11月20日放送の「ゴゴスマ〜GOGO!Smile!〜」(TBS系)に出演。暴行問題の日本相撲協会内での処理について「貴乃花親方と協会執行部との間に、根深い不信感、溝、距離感があると言わざるを得ない」と話す。その上で、貴乃花親方についての見解を述べた。
「ウルトラ保守なんですよ、実は。相撲道をもう1回追求するんだという考えです。古き良き時代の相撲界に戻したいんです。だから私は、貴乃花親方を『相撲原理主義者』と呼んでいます。急進改革派とは真逆です。そこを理解しないと真相は見えてこない」