川口 雅裕 / 組織人事研究者

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大企業には、総務・法務・広報・人事・財務・経理・監査といった管理部門があり、組織が大きくなっていく過程で生じてきた様々な業務を分担している。中小企業にこれらの部署はない。10人程度の会社であれば、社長自身と何でも屋さんの総務担当者が管理系の業務の全てを担っている。もう少し大きな規模だと、お客様への請求書の発行や入金管理、経費処理などの業務が膨らんでくるから、お金にからむ仕事を専ら行う経理の担当者が必要になる。だんだんと大きな金額が動くようになるし、資金も要るから、資金繰りや資金調達を行う財務担当者が配置される。業種にもよるが、数十人位だと、管理機能は何でも屋さんと経理・財務、合わせて3〜4名の「総務経理課」でおおよそ十分だ。

例えば人事にしたって、給与計算や社会保険事務などのオペレーション、人材採用の募集・選考くらいは「総務経理課」で十分に担当できる。評価や給与、異動や昇進、処遇や就業のルールは社長が決めればよい。人材育成も社長が個別に検討・実施することが可能だ。急成長企業か人の入れ替わりの激しい会社だと、「採用担当」を置く必要があるかもしれないが、採用は人事のごく一部の機能に過ぎず、人事という機能が必要になったというわけではない。

もっと規模の大きな組織だと、管理部門が担う業務は種類も量も多くなり、「総務・法務・広報・人事・財務・経理・監査」といった具合に機能別の組織を作っていく。オフィス・イベントは総務、契約・株式・紛争は法務、人材・処遇・労務は人事、資金の調達・管理は財務、会計は経理といった具合だ。このような組織形態は一見、当たり前なのだが、問題は、各部署に「企画(戦略遂行のための作戦づくり)」「ライン支援(現場の業務や人への対応・サポート)」「オペレーション(決まった操作や定型的な作業)」が分散してしまうことである。

「総務経理課」でやっていた仕事が部署にバラけるわけだから、「ライン支援」は使い勝手が悪くなる(どの部署に何を聞いたらいいか分かりにくくなる)。「オペレーション」も、部署をまたがるから、コミュニケーションのギャップやタイムラグが生じてミスも起こりやすくなる。また、「ライン支援」と「オペレーション」という仕事があると、それらに意識もパワーが割かれてしまい、各部署の「企画」業務がおろそかになる。それに「企画」をしようにも、機能別に分かれた組織では視野が狭くなるから経営の視点からは遠ざかるし、部署間の調整にかかる時間と労力も軽くない。戦略総務、戦略人事、戦略法務などという言葉が使われるようになり、管理部門に戦略性が求められる時代になっているが、霞ヶ関の縦割り組織と同じで、機能別に作られた管理部門の組織にそれを求めるのは難しいだろう。

管理部門に戦略性を求めるなら、機能別の組織ではなく、“ミッション別”の組織にすべきだ。つまり、「企画部」「ライン支援部」「オペレーション部」に分ける。何を扱うかではなく、何をするかを部署の役割・名称にする。そうするとそれぞれ、企画すること、ラインを支援すること、正確・スピーディーなオペレーションとミッションが明確になる。ミッションが明確だと長としてはマネジメントがしやすい。今の機能別組織では、「○○を扱っている組織」「○○関連の部署」といった意味しかないから、目標も持ちにくいし、評価も難しい。

「企画部」はヒト・モノ・カネの全てが視野に入り、立案される企画は様々な立場・専門分野の人が合意した総合的な内容になる。今のような自部署の視点に偏った主張のような内容ではなく、経営視点の戦略性に富んだものになりやすい。もちろん、ライン支援もワンストップで使いやすくなる(役所でたらい回しされるようなことがなくなる)。オペレーションは部署をまたがないから、間違いも減るし、業務改善もすぐに実行しやすい。何よりも、一人ひとりの視野が広がり総合力も高まることになる。(法務のことしか知らない、経理のことしか知らないといった類の人が減る。)