東北vs羽黒
11対3という点差になったが、どちらもタレント揃いの試合で見ごたえがあった。ダイジェストに振り返りつつ、両校の逸材を追っていきたい。
まず1回表、東北が4番布施 東壱の適時打で1点を先制。だが1回裏、羽黒は1番鈴木倫(1年)の安打、2番日下部 由伸(1年)の安打で、無死一、二塁のチャンスを作ると、一死二、三塁から4番日下部勇平(3年)が左越えの適時二塁打を放ち、逆転に成功。日下部はパワフルなスイングから外野の間を抜く打球を連発する右の一塁手。170センチ70キロと決して身長は高くないが、勝負強さを兼ね備えた中距離打者である。
2回表、東北は2番杉澤 龍の適時打で同点に追いつくが、2回裏、二死二塁から1番鈴木の適時打で勝ち越しに成功する。鈴木は非常に思い切りが良いスイングを見せる左打者。東北先発のサウスポーの古川原 将真に対しても、振り負けしないスイングの速さ、コンタクト能力の高さが光る。また2番の日下部由も古川原から3安打。直球、スライダーに対しても自分のタイミングで打つことができる左打者で、この3年間、山形を代表する好打者へ育つ可能性を持っている。
東北は、5回表、布施の適時打で同点に追いつく。布施は正捕手だが、この日はファーストでスタメン出場。173センチ80キロと決して大きくないが、がっしり体型の左打ちの強打の捕手で、トップを作ってから、インサイドアウトで捉えて、広角に鋭い打球を飛ばせる選手。体の軸も安定していて、さらに下半身の使い方も上手く、自分の間合いで強いスイングができる打撃技術の高さがある。目指すは近藤 健介(北海道日本ハム)だろう。
田中優大(羽黒)そして5番葛岡仁(2年)の三塁打で逆転に成功する。葛岡は前日の九里学園戦でも逆転適時二塁打を打っている選手。葛岡はボールを捉える能力が実に高い。右方向だけではなく、逆方向にも鋭い打球を打てる選手。投手としても、切れのある130キロ中盤の速球を投げ込む投手だが、打撃センスも非常に高い。実は今日が初めてのセンター。野手の比重が高くなったのも、最近のようだ。それでも結果を残せる野球センスの高さはさすがである。
投げては古川原 将真(2年)が好投。1年生時に甲子園で登板。メガネがトレードマークの左腕だが、実力は素晴らしいものがあり、立ち上がりから奪三振ラッシュ。左オーバーから投げ込む直球は常時125キロ〜133キロと決して速くないのだが、球もちが良く、手元でぐっと伸びるストレートで、空振りが奪える。さらに同じ腕の振りで、110キロ前後の縦スライダーも光る。この縦スライダーで面白いように三振を奪い、8回で15奪三振の快投。本人は調子が良くない、三振が取れたのもたまたまと謙遜するが、投手として将来性は高いものを持っている。
羽黒は4番手のエース・田中優大(3年)の投球が光った。183センチ75キロと恵まれた体格をした大型右腕。スタイリッシュで、バネの強さ、ジャンプ力の高さが目に付く投手。田中は2年春まで外野手で、それまで投手経験がなかった選手。肩の強さを買われて投手に転向したが、「投手の練習は楽しかった」と語るようにメキメキと実力をつけて、転向時は右上手だったが、コーチの勧めで、右横手に替えてから2年秋の地区予選で140キロを計測するまでとなった。
体を沈めることを意識して投げ込んでいく田中。この日の球速は常時135キロ〜138キロを計測し、最速143キロを投げ込む素質の高さはうかがえた。120キロ前後のスライダーの切れ味は良く、たまに制御できず、当ててしまうほどの曲がり幅を誇る。1つ1つのボールの精度は高いが、まだそれがピッチングにつながっていないのが課題だろう。さすがの東北打線もその甘さをしっかりと付け込んで、8回表、甲子園経験者の植木 利久(3年)が高めのストレートを捉えて、高校通算17号本塁打となる3ランを放ち、11対3と8点差をつけた。
試合は11対3で東北がコールド勝ち。だが、両チームとも荒削りながらも、能力が高い選手が揃っており、今後の進化が楽しみである。
(文・写真=河嶋 宗一)
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